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古巣の大田ハナシチズンではなくFCソウルへの加入を決めたファン・インボム…ある行動に韓国国内から称賛の声が集まる

2022.04.08

[写真]=Getty Images

特例措置を活用してルビン・カザンからFCソウル

 国際サッカー連盟(FIFA)は先月、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア国内でプレーする外国籍の選手について、一時的に移籍期間外の国外移籍が可能となる特例措置を決定した。

 最近ではロストフのMF橋本拳人がこの措置を活用し、ヴィッセル神戸に6月末までの契約で加入していたが、同様のケースが韓国でも生まれた。ルビン・カザンからKリーグに復帰した韓国代表MFファン・インボムがその人だ。

 現在の韓国代表で中盤の司令塔を担い、正確なパスで味方のチャンスを演出することから“キ・ソンヨンの後継者”とも呼ばれるファン・インボム。過去に2018年の第18回アジア競技大会、2019年のEAFF E-1サッカー選手権で日本と対戦していることから、その名前にピンとくるサッカーファンもいるだろう。

 そんなファン・インボムは母国復帰に際し、自身が生まれ育った地元のクラブであり、下部組織からトップチームまでを過ごした“古巣”の大田(テジョン)ハナシチズン(現2部)ではなく、1部の名門であるFCソウルへの加入を選んだ。この背景にあるファン・インボムと大田サポーター間のとある秘話が、韓国で話題を集めている。

 ファン・インボムは2月中旬、ロシアリーグの中断期間に行われた練習試合でつま先を骨折するケガを負い、治療のため韓国に一時帰国した。当初は3月初旬にロシアへ戻り、4月中に実戦復帰する予定だったが、2月末のウクライナ侵攻開始によって事態は急変する。

 ロシアをめぐる不安定な情勢、自身の負傷、そして前述のFIFAによる特例措置。仮にルビン・カザンへ戻る場合も、ロシアリーグが5月末でシーズン終了となるため、ケガから復帰しても2、3試合程度の出場しか見込めない。来る11月のカタール・ワールドカップを見据えても、長いブランクが生じてしまうことは避けたかった。そのため、ファン・インボムは特例措置を活用することに決めた。

 一時的な新天地を求めたファン・インボムにはKリーグの複数クラブが興味を示した。なかには古巣の大田からのラブコールもあったが、リーグレベルの落ちる2部への移籍に代理人が反対。そんな状況でFCソウルからオファーが届き、熱烈な説得にファン・インボムの心は揺れた。

 ただ、古巣以外のクラブに移籍することをすぐには決断できなかった。ファン・インボムは大田時代、クラブの“生え抜きスター”として愛された存在であり、海外進出後も帰国のたびにサポーターと交流する機会を設けていた。昨年12月に韓国で結婚式を挙げた際には、大田サポーターからお祝いの歌が贈られたこともある。大田の所属選手でなくても、両者はお互いに愛し、愛される関係にあった。

古巣サポーターに直接思いを打ち明ける

 そこでファン・インボムは、大田サポーターとの懇談会を自らセッティングし、今回の移籍について説明することを決めた。本来、選手はクラブ間の移籍について誰かに了承をもらう必要はないが、彼自身の古巣を想う気持ちがそれを許さなかった。

 3月末、大田のとある飲食店で行われた懇親会の場で、ファン・インボムは自身の口から事情を打ち明けた。今回の大田復帰が難しいことや、W杯出場のためにパフォーマンスの維持が必要なこと。もしこの場で大田以外のクラブへの移籍が認められなければ、ロシアに戻るという覚悟も明らかにした。

 ファン・インボムが話し終わったあと、しばらくその場は沈黙に包まれたという。そして、大田サポーターはファン・インボムが国内の他クラブに移籍することを快く受け入れ、大田が2部にいる現状に触れて次のように伝えた。

「我々が2部にいることで、インボムを受け入れられる状況になく申し訳ない。次に戻ってくるときはより素晴らしいクラブになっているはずだ。いつかまた大田で会える日が来ると信じている。インボムは大田の永遠の“アドゥル”(息子)なのだから」

 サポーターの温かなエールを聞いたファン・インボムは涙を流した。そして「必ず大田で引退する」と改めてクラブ愛を誓い、FCソウルへの移籍を決断した。

 ファン・インボムは古巣だけでなく、一時的にチームを離れることになるルビン・カザンへの配慮も忘れなかった。前述の古巣サポーターとの懇談会のように、ルビン・カザンを率いるレオナルド・スルツキ監督に直接電話をかけ、自身の意思を自らの口で伝えたという。

 こうして各方面から理解を得られたうえで、ファン・インボムのFCソウル加入は正式に発表された。現在、ランニングができる状態まで回復したというファン・インボムは、5月以降のリーグ戦での実戦復帰を目指してリハビリに励んでいる。

「完全移籍するわけでも、ましてや今は所属選手でもないのに、自らサポーターに会いに来る選手が他にいるか。彼は本当に素晴らしい人間性を持つ選手だ」とは、大田サポーターが現地メディアに語った言葉。ファン・インボムのリスペクトある行動には、韓国国内で多くの賞賛が送られている。

文=ピッチコミュニケーションズ

By サッカーキング編集部

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