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タイリーグの秋春制移行による影響は?…日本・タイ間の移籍はどうなる? Jリーグの「アジア戦略」は?

2021.12.29

[写真]=Getty Images

 新型コロナウイルスの影響によって、タイリーグは昨シーズンからいわゆる「秋春制」へと移行した。この大胆な変更によるさまざまな影響が考えられるが、その一つが日本とタイの間の移籍の問題だ。

 2010年代以降、Jリーグからの移籍も含めてタイリーグでは常に多くの日本人選手がプレーしてきた。さらに、近年はJリーグによる「アジア戦略」の効果もあり、MFチャナティップ(北海道コンサドーレ札幌)やDFティーラトン(横浜F・マリノス)らタイのトップ選手たちがJリーグでプレーする流れも生まれている。

 コロナ禍によって日本とタイの間の移籍はどのような影響を受け、今後どのように変化していくのか。タイを拠点にエージェントとして活動するゴールスポーツエージェンシーの真野浩一氏に話を聞いた。

■Jリーガーのタイ移籍は「秋春制」で困難に

——昨年からのコロナ禍によって、日本人選手のタイリーグ移籍にはどのような影響が出ていますか?
真野 タイリーグが「秋春制」になったことよる影響は大きいです。今季で言うと、タイリーグの開幕は9月で、12月にAFFスズキカップによる中断があって後期が年明けの1月にスタート。カテゴリーによって4月か5月にリーグ戦終了という日程になっています。Jリーグでプレーしている選手は、タイリーグの開幕時期にタイのチームに移籍するチャンスはほぼない状況でした。

——タイリーグの後期へ向けてのタイミングで移籍することは可能でしょうか?
真野 12月に移籍ウインドウが開きますが、実際にはタイリーグ1部のクラブは10月末から11月上旬くらいには補強を終えてしまっている状況です。日本人選手がタイリーグへの移籍を考え始めるのは、Jリーグの選手であれば合同トライアウトが終わってからというケースが多いので12月になります。タイリーグが秋春制になる前から日本人選手がタイへの移籍を考えるタイミングは「遅い」と言われていましたが、その傾向がさらに顕著になったと感じています。

——そういった状況下でも昨季途中にはMF丸岡満が、今季開幕時にはFWエスクデロ競飛王やMF坂井大将などの選手が日本からタイへ移籍しました。
真野 その3選手については、いずれもチームを退団してフリーの状態でした。そういった状況のキャリアある選手であれば、タイリーグのクラブに移籍する道も開けます。今季サムットプラカーン・シティに加入した坂井選手もアンダー世代での代表歴があって、加入した時点でチームを日本人の石井正忠監督が率いていたことも大きかったと思います。

今年5月にチエンマイ・ユナイテッドに加入したエスクデロ競飛王  [写真]=Getty Images

日本人のタイ移籍はJリーグクラブとの話し合いも必要

——タイ入国時に隔離が必要であった時期もありましたが、コロナ禍による直接的な影響はいかがでしょう?
真野 今季前半まではタイ入国時の隔離が最大14日間ありましたが、現在はなくなっているためそれほど壁にはなっていません。タイリーグ1部、2部に関しては日本からの移籍はほとんどがJリーグやJFLレベルでプレーしている選手になるので難しい状況ですが、3部に関しては今回の12月の移籍ウインドウですでに日本からチャレンジしに来ている選手も多くいます。

——コロナ禍の直接的な影響は落ち着いてきているが、タイリーグが「秋春制」となった影響は今後も続く可能性が高い、ということでしょうか。
真野 その可能性が高いと思います。今後、日本人選手のタイへの移籍を増やすためには、ローン(レンタル)での移籍を検討するなど、契約面をどうするかというところに着手する必要があると思います。日本人の場合、なかなか所属チームとの契約を解除してまで移籍しようという選手は少ないですから、Jリーグクラブ側とも話し合いをしてローン移籍という形を模索するのが一つの方法です。

——タイにおける日本人選手のニーズ自体に変化はありますか?
真野 もちろん今も日本人選手のニーズはあって、実際にタイのクラブ側からのリクエストは届いています。ただ、先ほども言ったように日本人選手がタイへの移籍を考えるタイミングは他国の選手たちに比べて遅いので、タイのチームがどこまで待てるかがカギになります。2部のチームは補強の判断が少し遅い傾向があるので可能性はあると思いますが、1部のチームはなかなかタイミング的に難しいのが現状です。

——日本人指導者へのニーズはどうですか? タイ代表を西野朗監督が指揮したことでタイリーグでも日本人監督の人気が再燃した感がありましたが、現状はいかがでしょうか?
真野 今もある程度の需要はありますが、タイリーグで明確な結果を残している日本人監督が少ないので下火になっているように感じます。石井監督が率いていたサムットプラカーン・シティをはじめとして、日本人を高く買っている、日本をリスペクトしてくれているクラブが複数存在するのは事実ですが、それも徐々に減ってきている気がします。今は日本人監督のニーズが高まる理由はない、というのが正直なところです。

サムットプラカーン・シティを率いていた石井正忠監督は、今年12月にブリーラム・ユナイテッドに引き抜かれた [写真]=Getty Images

★タイ人選手のJリーグ移籍の影響は?

——反対に、タイ人選手のJリーグ移籍にも同様の影響があるでしょうか?
真野 「秋春制」への移行に関しては、そこまで影響はないんじゃないかと思います。タイのトップ選手がJリーグに移籍する場合は基本的にはローンで、「ローンフィー」というものが発生します。なので、その選手の所属チームの財政状況やその時点での成績などによっては、Jクラブがローンフィーを払えば獲得できる可能性は十分にあると思います。

——タイ人選手の日本移籍については、必ずしも「秋春制」が障壁にはならない。
真野 そう見ています。タイリーグが「秋春制」となったことで、タイリーグの前期が終わったところでJリーグへの移籍のタイミングがあります。その選手の所属チームが優勝を狙えるような状況でなければ、主力選手をJリーグに移籍させることも十分にあり得ると思います。たとえば、今季で言えばBGパトゥム・ユナイテッドやバンコク・ユナイテッドは後期に優勝がかかるので難しいかもしれない。一方で、ムアントン・ユナイテッドなどは順位も中位で資金的にも余裕のある状況ではないので、主力をJリーグに移籍させてローンフィーを得るという選択肢もあると思います。

——では、Jリーグの「アジア戦略」に対するコロナ禍の影響はそれほど大きくはない?
真野 Jリーグクラブが今後も積極的にタイ人選手を獲得しにいくのかは分かりませんが、選手の獲得だけではないところで「アジア戦略」は加速する気がしています。実際、東南アジアでの単発のイベントやスクールの海外進出、育成ノウハウをパッケージ化して東南アジアで売ることができないかなど、Jリーグクラブからいろいろな相談を受けることが増えています。東南アジアに種をまき始めているJクラブは増えている気がするので、そこにタイ人選手の獲得も合わせてできれば理想的な形だとは思います。

取材・文=本多辰成

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