[写真]=Getty Images
ここまで全敗のW杯アジア最終予選を糧にするために
“東南アジアサッカーの祭典”AFFスズキカップが12月5日に開幕した。新型コロナウイルスの影響で1年延期となった今大会は、従来のホーム&アウェイ方式ではなく、シンガポールでの集中開催で行われることになった。
韓国人パク・ハンソ監督率いるベトナム代表は、前回王者として連覇を目指す。東南アジア王者の座を死守することも重要なミッションだが、サポーターが何よりも待ち望んでいるのは、大量得点で勝利するベトナムの姿であろう。
ベトナムは、現在参戦中の2022 FIFAワールドカップ カタール・アジア最終予選で6戦全敗と結果が残せず苦しんでいる。地元メディアの取材では、選手たちの中から、「アジアの列強との差を感じている」という旨のコメントも出ており、パク監督も記者会見で「選手たちは少し自信を失っているように見える」と話していた。
一方でサポーターやメディアは、現場の選手たちよりもいくぶん楽観的だ。確かに最終予選では一つの勝ち点もない状況だが、ここまでサウジアラビアやオーストラリア、日本といった格上相手に1点差のゲームを演じたことで、アジアの列強との差は確実に縮まっていると捉えられている。
現場の選手たちが語っている“差”は、日本が初めてW杯に出場したフランス大会で当時の日本代表選手たちが感じたそれと似ているのかもしれない。到達した舞台こそ違うが、これまで東南アジアの中だけで戦ってきたベトナムにとって、今回の最終予選は史上初の大舞台であり、スコアとして残る1点差以上の“差”を、試合内容や一対一の局面から感じ取っているようだ。
しかし、うつむいてばかりもいられない。幾多の敗戦を糧としながら、来年のW杯最終予選後半戦、そして、2024年のオリンピック、2026年のW杯へとつなげていかなければならない。今回のAFFスズキカップでは、試合内容はもちろん、勝利という成功体験を得ることで選手たちに自信とプライドを取り戻させることが最重要と考える。
その足掛かりとしてのAFFスズキカップ連覇。ベトナムが入っているグループBは、マレーシア(FIFAランキング154位)、インドネシア(同166位)、カンボジア(同170位)、ラオス(同185位)といった顔触れだ。この中でグループリーグ突破のライバルになりそうなのは、W杯2次予選でも対戦したマレーシアとインドネシア。どちらもFIFAランクではベトナム(99位)よりかなり劣るが、実力にそこまでの開きがあるわけではない。以前と比べて数を減らしたが、今も数人の帰化選手がおり、個々の能力も決して侮れない。
本田圭佑が実質的“監督”を務めるカンボジアと、フランス2部でプレーするFWビリー・ケトケオポムポンを擁するラオスも急速に力をつけており、虎視眈々と下剋上を狙っている。これらの国に対しては、現王者ベトナムの力をしっかりと見せつけておく必要がある。
不動のエースは、ファンが期待するベトナムの姿を体現できるか
W杯最終予選でのベトナムの戦い方は基本的に堅守速攻であったが、東南アジア各国が相手の場合、ベトナムがボールを保持する時間が長くなる。そのため、攻撃陣の役割は一層重要になるはずだ。そこで期待したいのは、今大会得点王候補のFWグエン・ティエン・リンだ。W杯2次予選ではチーム最多の5ゴール、最終予選でもすでに2ゴールを挙げている。
ベカメックス・ビンズオン所属のティエン・リンには、かつてのチームメイトに、FWグエン・アイン・ドゥック(現2部ロンアンFC)とFWレ・コン・ビン(引退)といった理想的なお手本がいた。若手時代に偉大な先輩から学んだものは大きく、2人が抜けた現在のベトナム代表では、不動のセンターフォワードの地位を確立。フィジカルも強く、単騎でゴールをこじ開けることが可能で、ベトナムで最も危険な選手として各国から警戒されている。サポーターが期待するゴールラッシュを演じるためには、エースストライカーの爆発が必要になる。
ベトナムが今大会の優勝候補筆頭であることは間違いない。気が早い話にはなるが、連覇のための最難関はグループAを突破して、おそらく決勝まで勝ち進んでくるであろう宿敵タイの存在だろう。前回大会は、MFチャナティップ(北海道コンサドーレ札幌)やDFティーラトン(横浜F・マリノス)といったJリーガー勢を招集できずベスト4に終わったが、今回はこの2人も招集されている。ベストメンバーをそろえたタイを撃破できたなら、数年続いた“真の東南アジア王者”に関する論争にも終止符を打つことができるだろう。
文=宇佐美 淳