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【アジア最前線:中国 #11】世界を賑わす恒大集団の経営危機。広州FCの未来は……?

2021.10.06

恒大集団により中国サッカー界のメインキャストに

 9月上旬、広州FCが中国政府に経済援助を求める手紙が、オンライン上にリークされた。それはいまだに真贋が定かになっていないものだが、中国スーパーリーグで最多優勝を誇るクラブの未来に暗雲が垂れ込めているのではないかと、その頃から噂されるようになった。

 今から12年前の2010年、当時2部リーグを戦っていたクラブを、地元広東省の不動産企業である恒大集団が買収。野心的なオーナーのシュー・ジアイン(許家印)のもと、会社名を付けた広州恒大(現広州FC)は巨額を投じて有名な選手や監督を招き、中国南部に初めてCSLトロフィーを持ち帰り、同国初のAFCチャンピオンズリーグ王者にもなった。現在までに、国内王者に8度、アジア覇者に2度ついている──域内で最も大きな成功を収めているクラブの一つだ。

 ところが、昨年から状況に大きな変化が見られるようになる。昨シーズン終了後、財政難に苦しむクラブは、パウリーニョとタリスカという絶対軸を放出。今年に入ると、恒大集団が抱える負債総額は30兆円を超え、破産も時間の問題と報じられるようになった。9月28日、広州FCは年俸約14億円の値下げ交渉に応じなかったとされるファビオ・カンナバーロ監督との契約を破棄。外国籍の主力と指揮官を失ったチームは、主将のチャン・チー(鄭智)が暫定監督となって残りのシーズンに臨むものと見られている。

 地方都市の中堅クラブに過ぎなかった広州FCは、この12年間に劇的な上昇を経験し、今まさにそこから急降下しようとしている。一体、なぜこんなことが起こったのだろうか。

フットボールに巨額を投じたオーナーの真の狙い

 恒大集団の創業者のシューは貧しかった幼少期を経て、一代で国内有数の資産家になった人物だ。ただしその巨万の富をフットボールに投資したのは、この競技への愛情や興味というよりも、中国最高指導者の習近平国家主席に気に入られ、便宜を図ってもらえるようにすることが目的だったと見られている。国家がこのスポーツの強化に乗り出すと大号令をかけたとき、シューはさらなる野望のために、大いにアピールしたのだ。

 実際、恒大集団は中国の国家戦略としてのフットボールの発展に尽力した。彼らは2012年に広州恒大の指揮官としてワールドカップ優勝監督のマルチェロ・リッピを招聘すると、その超高額年俸(推定年間31億円とも言われる)を2019年まで払い続けた──最後の3年間は中国代表を率いていたにもかかわらず。またW杯開催を目標に掲げる中国政府のために、国内最大級のスタジアムの建設に乗り出し、世界最大級のユースアカデミーも創設している。

 そうした取り組みやクラブの成功が評価され、シューは中国人民政治協商会議の一席を占めるようになり、政治的な力も握り始めた。しかしその裏には、厳しい現実が忍び寄っていた。

 2020年には、広州恒大が単年で約333億円の赤字を計上。そして今年、恒大集団の途方もない負債額が明るみになり、広州FCは親会社ともども、存続の危機に瀕している。

 国内の報道によると、習国家主席はシューのように豪勢な私生活を送るひと握りの富豪の存在を快く思っていないようで、その救済のために国税が投じられることはないと見られている。存続の道を模索するクラブは現在、中国フットボール協会に支払ってきた「移籍税」の回収を要望しているようだが、こちらも応じてもらえるかは不透明だ。

 このコラムでも報じてきたように、昨季王者の江蘇FCは今季開幕前に活動停止に陥った。彼らも親会社の蘇寧電器集団の財政難の煽りを受けた形だが、今度は広州FCにも同じことが起きようとしている。経営母体が本業で苦しむことになれば、まず整理されていくのが、フットボールクラブのような娯楽部門だからだ。

 中国のファンは、スーパーリーグからまたひとつメインキャストがなくなるのではないかと危惧している。

文=Ming Zhao(趙明)
翻訳=井川洋一

By サッカーキング編集部

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