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【サイゴンFCの野望 #2】松井大輔「ベトナム人選手たちに『これがプロなんだ』という姿を見せたい」

2021.03.10

 サッカー界がコロナ禍による財政難に苦しむ中、今オフには長年Jリーグのクラブで活躍してきたベテラン選手たちの退団・引退報道が相次いだ。そんななか、39歳の元日本代表MF松井大輔をはじめとするJリーグ経験者4人(松井大輔/元横浜FC、高崎寛之/元FC岐阜、ウ・サンホ/元栃木SC、苅部隆太郎/元FC岐阜)を相次いで獲得して注目を集めた東南アジアのクラブがある。サイゴンFCだ。

 この連載では、急激に“日本化”が進み、にわかに注目を集めるサイゴンFCの野望に迫る。第2回となる今回は、39歳にしてベトナムに新天地を求めた元日本代表MF松井大輔にインタビューを実施。移籍を決めた背景、自身にとって未知の国ベトナムのサッカー事情、チーム内で求められる役割などについて話を聞いた。

文・写真=宇佐美淳

クラブのビジョンに共感し、やりがいを感じた

――まずはサイゴンFC移籍までの経緯と決め手を教えてください。
松井 昨年11月の初め頃に移籍の話をいただきました。39歳という年齢にして、また海外に行けるチャンスだと感じたこと。それに、(チャン・ホア・ビン)会長から今後クラブをどんなふうに成長させていきたいかという話を聞いて、それがとても面白いと思い、やりがいを感じたので移籍を決めました。

――会長から聞かされたクラブのビジョンとは具体的にどんなものですか?
松井 日本化というか、しっかりしたクラブを長期的に育てたいという話を聞きました。すぐに優勝という話ではないんですが、ベトナム人選手を育てて代表選手を輩出したり、日本など様々な国に送り出して、人間的にも成長させたいという話でした。そこにとても魅力を感じましたし、自分自身サッカー人生を終えていくなかで、子供たちや他の選手たちに直接教えられるというのは財産になると思いました。

――松井選手にとっては5カ国目の海外移籍となりましたが、アジアへの移籍は今回が初めてです。過去の移籍と比べて異なる部分はありますか?
松井 今までは日本代表に入るために海外に行ったりだとか、スキルやキャリアを得るために、というところが大きかったと思います。一方、アジアでは日本と比べて環境が整っていない部分があります。そんななかで自分自身、何か先につながるものを見つけたい。この地で、あるいは他の地で探し物をしているような気がしています。

――ベトナムに来てすぐに2週間の隔離を受けましたが、どのように過ごしましたか?
松井 トレーナーからオンラインで指示をもらって毎日練習していました。朝はベトナム語の勉強もしていたんですけど、難しくてすぐに断念しました(苦笑)。

――この間、フランス語の勉強もされたと聞いていますが?
松井 ベトナムに来る前、かつてベトナムはフランス領だったことからフランス語がそれなりに通じると聞いて、「ああ、良かった」と思ったんですが、いざ来てみると全く通じず……。だから、これからは英語の勉強に切り替えようかなと思っています。

――新加入ながらいきなりキャプテンを任されましたが、そのことはいつ頃に告げられたのでしょうか?
松井 初めの頃のミーティングで言われて一度断ったんですが、「どうしても」ということだったので引き受けました。

――前所属の横浜FCでは、三浦知良選手、中村俊輔選手といった大ベテランがいましたが、サイゴンFCでも、Vリーグ全体でも松井選手が最年長になります。どんな役割を期待されていると感じますか?
松井 会長からは、僕たち日本人選手がベトナム人選手たちのお手本になるように接してほしいと言われています。練習や試合のなかで、自分の経験をベトナム人選手に伝えることが必要だと思いますし、「これがプロなんだ」ということを示せればいいなと思っています。

――松井選手がサイゴンFCに移籍した後、本山雅志選手のマレーシア2部ケランタン・ユナイテッドへの移籍が発表されました。元日本代表選手の東南アジア移籍が続きましたが、この動きをどのように見ていますか?
松井 これまでも元Jリーガーでタイや他の東南アジアに移籍した選手はたくさんいたと思いますが、日本代表の経験者が行くことでアジアサッカーの底上げにもつながりますし、日本人選手の価値を上げるためにも大事なことなんじゃないかなと思います。今、タイは難しくなってきましたが、ベトナムやフィリピン、マレーシアなど、いろいろな国で日本人選手が活躍する場が広がればいいなと思っています。

ベトナムのサッカーは向こう2、3年で上がってくる

――サイゴンFC加入後のメディア取材に対し、いずれ子供たちにサッカーを教えたいという希望を語っていましたが、将来的には指導者の道に進みたいと考えているのでしょうか?
松井 将来的には、国を問わず、子供やいろいろな選手を指導してみたいという気持ちはありますね。子供たちが成長していく姿を見てみたいです。

――これまでのキャリアを通じて最も影響を受けた指導者は?
松井 それはもうすべての指導者だと思いますね。多くの指導者との出会いが財産ですし、いろいろな指導者を知れたということが、自分の中での指導者像の形成につながっています。彼らの良いところを吸収できたらいいなと思います。

――チーム合流から約2カ月。リーグ戦は現在、新型コロナウイルスの影響で中断していますが、ここまで3試合(うち出場2試合)を消化しました。振り返っていかがですか?
松井 昨年まで主体としていたカウンターの影響が色濃く残るなか、自分自身、隔離明けから2週間という短い時間で、コンディションも戻っていない状態で開幕を迎えました。ここからが本番だと思っています。これからチームの練習方法も変わって、戦い方も変わってくると思うので、自分たちのサッカーを確立できれば、これから本領を発揮できると思います。

――サイゴンFCが抱える課題は?
松井 一人ひとりのレベルアップもそうですし、サッカーIQも上げていかなければなりません。課題は多く一つには絞れませんが、しっかりとコミュニケーションをとりながら、全体的なレベルを上げていきたいです。

――ベトナムリーグのレベルは?
松井 日本と比べたら仕方がない部分はありますが、伸びしろを感じます。タイリーグが成長してきているように、次はベトナムやマレーシアの番なんじゃないかなと。今後2、3年で上がってくると予想しています。そのためにも、芝生とレフェリーの質を上げる必要があると感じますね。

――サイゴンFCは昨年FC東京と提携し、今年2月にはFC琉球とも提携しました。会長は年内に選手を琉球に送り出す方針を示していますが、松井選手の目から見て見込みがある選手はいますか?
松井 琉球で試合に出られるかは分かりませんが、何人か可能性を感じる選手はいます。練習に参加して日本サッカーのレベルを体感するのは良いことですし、その後の「できるできない」はその人次第。海外でやるには、プレーだけじゃなくハートも必要だし、異文化への適応も求められます。海外に出れば外国人選手になるわけで、必要とされる助っ人になるためには、いろいろなものに順応したうえで力を発揮しなければならない。

――チームに海外向きだと思える選手はいますか?
松井 うーん。やっぱりベトナム代表にも選ばれているボランチのチン(カオ・バン・チン)がいいかなとは思います。ただ、琉球で出られるかどうかは、これからの本人の努力次第です。

――今シーズンの目標と、長期的な目標を教えてください。
松井 より多くの試合に出場して得点とアシストを決めること。いつもどおりの目標です。長期的なことはあまり考えていませんが、とりあえずこの1年しっかりとサイゴンFCに貢献するため、自分にできることを考えながら選手やチームに還元していきます。

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