【ラ・リーガ クラブ探訪・レガネス編】地元を愛し愛される地域密着クラブ　新オーナーの下で国際化＆女子サッカーにも注力

　首都マドリードに本拠を置くラ・リーガのクラブの一つで、現在鹿島アントラーズに所属する柴崎岳選手が在籍していたことでも知られるレガネス。ラ・リーガファンには、ユニークなクラブマスコット「SUPER PEPINO（スペイン語でスーパーきゅうりの意）」でも馴染み深いクラブだ。
　今回レガネスの本拠地であるエスタディオ・ムニシパル・デ・ブタルケを訪問し、国際部門でコーディネーターを務めるパウラ・カラスコ氏に、クラブや国際部門の取り組みなどについて話を聞いた。

インタビュー＝篠﨑友耶

―――まずは、レガネスとはどのようなクラブなのかを簡単に紹介してください。

カラスコ　私たちは1928年の創設以来、長らく下部リーグに所属してきましたし、同じマドリード州を本拠とする大きなクラブが複数あるため、決して目立つクラブではありません。その中で2016-17シーズンに初めて1部リーグに昇格したことは、国際的に認知してもらう大きなきっかけになりましたね。近年では柴崎岳選手が在籍し活躍してくれたことで、日本でも多くのサッカーファンに知ってもらうことができました。

―――街の人々にとって、クラブはどのような存在なのでしょうか？

カラスコ　決して大きくないクラブだからこそ、地域にとってレガネスは特別な存在で、試合の日には街全体がお祭りのような騒ぎになります。サポーターには試合に勝っても負けてもサッカー自体を楽しもうとする文化があり、例え試合に負けてもサポーターはブーイングをするのではなく、あくまでクラブを応援しサポートし続けるのです。スタジアム内の雰囲気も穏やかで、子供や家族連れが安心して楽しめる理想的な環境があり、これはレガネスならではの素敵な特徴だと感じています。
　私は南米の出身で、オーストラリアの女子リーグでプレーした経験があるのですが、このようなクラブに対する無償の愛はあまり見たことがありません。普通は試合に負ければ当然のように激しいヤジが飛んできますから（笑）。

[写真]=ラ・リーガ

―――2022年にはクラブのオーナーが変わりました。その影響をどのように感じていますか？

カラスコ　10年以上クラブをけん引してきた地元企業の経営者夫妻から、MLBで球団GMなどを経験したジェフ・ルーノウ氏が率いる国際的な投資グループが経営を引き継ぎました。アメリカではスポーツをショーとして見せる文化があり、その面でクラブの設備やインフラが充実しましたし、育成やスカウティングでのビッグデータの活用やアカデミー展開もより積極的に行っています。
　グループの提携拠点が各国にあるため、メキシコやアフリカ方面への進出や、海外クラブとの交流もスムーズになりましたね。若手選手の発掘に関しても、アフリカやオーストラリアなど、世界的な展開が可能になりました。
　もちろん、これまで通り地元密着の姿勢は変わらず、育成に関しても地元の教育機関や施設と連携し、幼い年代から幅広い階層に向けた育成基盤を整えています。

■「サッカーを通じた人間育成」を柱に、女子サッカーにも注力

―――近年は特に女子サッカーに注力していると聞きました。

カラスコ　新しいオーナーの意向もありますが、もともとクラブとして女子サッカーのポテンシャルには大いに注目していました。経済的な面に限らず、クラブとしてとても価値ある取り組みだと認識しています。アカデミー部門の活動としては、キャンプやセレクションなどのイベントを定期的に開催し、国内外から有望な選手を常に集めています。大学などと連携して語学や学業、仕事と両立しながらサッカーを学べる環境を整えており、現在は6カテゴリーで100名以上の選手が所属しています。
　個人的に日本の女子サッカーのスタイルが好きで大きなポテンシャルを感じているので、日本の選手にもぜひ来てもらいたいですね。今年の夏には、レガネスから講師を派遣して日本とオーストラリアでトライアウトイベントを実施するので、興味のある方はぜひ参加してもらえればと。

―――レガネスにおける育成のポリシーを教えてください。

カラスコ　私たちが掲げているのは「サッカーを通じた人間育成」です。プロになるためのサッカーの技術だけでなく、どこの世界でも活躍していけるようピッチ外での教育も重視しています。国籍や性別を越え、多様な文化的背景を持った仲間とのプレーや生活を通して、成長するきっかけにしてもらいたいと考えています。

[写真]=ラ・リーガ

―――育成に関して、女子サッカーならではの特徴や難しさは、どのような点にあるのでしょうか？

カラスコ　女子選手の場合は、子供を心配する両親や家族へのケアがとても大事になりますし、選手に対する細やかな配慮も必要です。また経済的な面でも、男子サッカーに比べ決して恵まれているとは言えません。そのため選手たちには、学業や仕事と両立する意味、人として成長できる意義など、ここでサッカーを続ける価値を伝えています。

―――最後に、今後の展望について教えてください。

カラスコ　これまでの取り組みの成果もあって、所属する女子選手の数は増えていますし、レガネス自体のファンも増えてきています。これからも地域密着を維持しつつ、レガネスらしい人として成長できる環境を用意して、サッカー界に貢献したいですね。まずは女子チームのトップリーグ昇格を目指して、クラブだけでなくレガネスという街の価値をもっともっとあげていきたいと思っています。

[写真]=ラ・リーガ