2014.06.29

逆境を強みに。短期決戦を勝ち抜くオランダ代表ファン・ハール監督の“采配力”

ファン・ハール
柔軟な采配でオランダ代表を快進撃に導いたファン・ハール監督(左) [写真]=Getty Images

 本稿執筆時点で決勝トーナメント1回戦、オランダ対メキシコ戦の結果は明らかではないが、オランダの指揮官ルイス・ファン・ハールは、少なくとも“グループリーグの主役”というべき好チームを作り上げたといえるだろう。

 大会初戦で王者スペインに5-1で圧勝して世界の度肝を抜いたオランダは、続くオーストラリア戦では3-2で競り勝って決勝トーナメントに一番乗りを挙げた。3戦目のチリ戦を2-0でものにし、強豪がひしめいたグループBで首位通過を果たしたが、この結果を予想できた者は、多くはなかったはずだ。

 4年前の南アフリカ・ワールドカップで準優勝を果たしたオランダだが、その2年後のユーロではグループリーグ3連敗を喫した。今予選では全10試合を負けなしで終え首位通過したものの、その後の日本戦では不安定さを露呈。FWアルイェン・ロッベンは、「我々は優勝候補ではない」とはっきり話していた。

 決して前評判の高くなかったオランダ代表に、大会直前、さらなる追い打ちがかかった。109キャップを持つベテランMFラファエル・ファン・デル・ファールトに加え、チームの心臓ともいえるMFケヴィン・ストロートマンが左ひざの負傷により、本大会を欠場することになったのだ。

「彼らの代役はいない」。ファン・ハール監督は、大会直前になって急きょ、従来の基本的なフォーメーションであり、オランダの伝統でもある4-3-3を捨て、DFを5人に増やした5-3-2への変更を決めた。もちろんこれは、主力の欠場ばかりではなく、ポゼッションサッカーを志向する欧州王者スペイン、南米3位のチリとの相性を見越しての決断でもある。

 最終ラインを低くして、前線のスピードと個人技に頼る効率重視のサッカーは、はたして、スペインを相手に猛威を振るった。守備時は5人のうち1人がボールホルダーへ寄せに入り、残り4人は従来の4バックを形成してゾーンで守ることでバランスを維持。ボールを奪えば、一気に前線めがけてロングパスを送り込んだ。オフサイドラインぎりぎりから飛び出すロビン・ファン・ペルシーらFWは、高いラインを懸命に維持しようとするスペインのDF陣を、面白いように揺さぶった。

 オランダは2戦目、3戦目も同様の戦い方で勝利を重ねた。3戦目のチリ戦後、記者からファン・ハールに向けて、「こんなに守備的なサッカーをする理由は?」との質問が浴びせられたが、指揮官は「逆に聞くが、こんなに得点機を作るチームのどこを守備的というのか教えてほしい」と反論した。

 事実、オランダがグループリーグ3試合で挙げた10ゴールは、全32カ国中、最多である。ファン・ハールの戦術が守備的か、攻撃的か、という議論はオランダ国内でも起きているそうだが、その答えは、当の指揮官が言うように「何を持って攻撃的とするのか」を定義しなければ、明確な結論を導き出すことはできないだろう。

 少なくとも明白なのは、オランダの現メンバーが5-3-2に適していること。そして、激戦区であるグループBを首位で通過したことであり、その戦い方は「このチームを誇りに思っている」と話したロッベンら、主力の厚い信頼を得ていることだ。

 大会前は、GKを含めたDFのメンバー全員が大会初出場であることに、大きな不安の声が寄せられていた。しかし、蓋を開けてみれば、ロン・フラールがイタリア紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』に、ダレイ・ブリントがイギリスのメディア『BBC』ユーザーにより、それぞれグループリーグのベスト・イレブンに選出されるなど、若いDF陣は急速に評価を高めている。

 ファン・ハールはもともと実績やネームバリューに囚われないメンバー選考に定評があった。ベンチで彼の傍らに座るコーチのパトリック・クライファート氏も、18歳の時に指揮官に見出され、チャンピオンズリーグ決勝で当時最強と謳われたミランを相手に、ゴールを決めてスターの仲間入りを果たした。グループリーグで2戦連続ゴールを決めたFWメンフィス・デパイにも、クライファートと同じ匂いがする。

 主力のコンディション不良や負傷離脱により、4年間で積み上げてきたものが大会直前になって覆されるような事態は、どこの国にもあり得ることだ。ワールドカップは短期決戦である。不測の事態を逆手にとり、大会直前に戦い方を変えるのも、有効な手立てとなりえることをオランダは証明した。

 余談となるが、2013年11月に行われた日本とオランダのテストマッチは、2-2のドローで終えたものの、試合内容では日本に軍配が上がり、オランダのメディアは「日本が大学ならオランダは幼稚園」と書き立てた。それから約7カ月を経て、両者の立場は逆転したように思える。

 旧来のメンバー編成と自らのスタイルにこだわり抜き、高らかに優勝宣言を掲げながら敗れ去った日本。伝統もプライドも捨て、劇的に世代交代を遂げつつあるオランダから、学びとることは多いだろう。

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