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【WSK編集雑記 vol.2】ブンデスリーガが教えてくれること

2017.01.20

 ゲレンデが溶けるほど恋したいこの季節、いかがお過ごしでしょうか。われらが『ワールドサッカーキング』編集部は、いよいよ1月21日に控えるブンデスリーガ再開に合わせて、増刊「ブンデスリーガ後半戦ガイド」を制作中。すでに脳が溶けそうです……ちなみにさっき調べたら「ゲレンデ」って実はドイツ語らしいです。

 さて、編集者には自分が担当した記事をことごとく覚えているタイプと、仕上げたそばから忘れてしまうタイプとがいるものですが、僕はかなり覚えているほうです。で、以前は『ワールドサッカーキング』のドイツ担当だったもので、ブンデスリーガ関連の記事もけっこう手がけました。その中に印象深い記事がひとつありまして……調べたら「サッカーキング」のウェブサイトに転載してました。こういうときウェブって便利!

ファンを引き付けるフットボール以外の魅力…ブンデスリーガ熱狂の理由とは
https://www.soccer-king.jp/sk_column/article/102802.html

 もともと本誌に掲載した原稿なので少し長いし、さすがに4年前の記事なので古いところもあります。でも、今読んでも基本的なところは納得できると思うんですね。2000年代に元気がなかったブンデスリーガが、この10年ほどの間に劇的な復活を遂げたのはなぜか? その背景にはもちろん、さまざまな要因がありました。よく話題になるのは次のようなことでしょうか。

・2000年のユーロでドイツ代表が惨敗した後、全国的にユース育成を推進した結果、才能ある若手が台頭した。
・2006年のドイツ・ワールドカップ開催を契機に、国全体にフットボールブームが巻き起こった。
・厳格なライセンス制度によってクラブが健全に経営されているため、不況の影響をあまり受けなかった。

 しかしながら、上に挙げたものと同じくらい、いや、それ以上に重要なのが「スタジアム」ではないかと思うんですよ。バイエルンのアリアンツ・アレーナ、シャルケのフェルティンス・アレーナ、ハンブルガーSVのフォルクスパルク・シュタディオン、フランクフルトのコメルツバンク・アレーナ……2000年代、ドイツには本当に素晴らしいスタジアムがいくつも完成した。そして今、これらのスタジアムは毎試合のように満員の観客を集めています。

image (1)

 スタジアムっていったい何でしょうか? 「選手が試合を行う場所」ではないですよね。だって、試合するだけなら別にトレーニング場だって河川敷だっていいわけですし。大事なのはピッチじゃなくてスタンド、つまり観客がそこにいるかどうか。お客さんがいなければスタジアムなんて1ミリも必要ないわけです。チケットを買ったファンが大勢集まって、食事をして、グッズを買って、ビールを飲んで、トイレに行って、試合を見て、肩を組んで声を枯らす……スタジアムはそんな彼らのために存在する。そう考えたとき、ブンデスリーガはやっぱりすごいと思わされます。まずチケットが安いし、ピッチはめっちゃ近いし、入退場も楽だしね。え、あのでかいパイプってビールが流れてるの? これは地響き? いやサポーターの声か……そう、スタジアムにおける最高の演出って、実は観客そのものだと思うんですよね。

 フットボールは最高のエンターテインメントだと思っていますが、それはプレーの話じゃありません。たまーにキャンプ中のトレーニングマッチがネット中継されたりしますけど、あれを興味深く見られるのはよほどのファンか、僕らみたいなオタクだけじゃないでしょうか。観客のいない試合はやっぱり緊張感に欠ける気がする。選手が一生懸命やってない、ということじゃないですよ? 白熱していないように「見える」ってことです。

 ところでこのテーマを考えるとき、僕の頭に浮かぶのは“Buddy”というミュージカル(http://www.buddythemusical.com/)なんですよね。伝説のロックンローラー、バディ・ホリーの生涯を描いたストーリーで、初演が28年前の1989年。日本では陣内孝則さんがバディ・ホリー役で、10年くらい前に公演されました。イギリスではなんと今もまだ公演してます。

 これ、ストーリー自体は大したことないと言ったらアレですが、とてもシンプルなんです。バディ・ホリーがスターダムを駆け上がる過程をお芝居で見せていくだけ。ただ、そこはやっぱり伝説のロックンローラーですから、ストーリーの中に当然ライブの場面がある。そのとき観客の役を誰が演じるのかというと、実際のお客さんが演じるんです。つまり、その場面だけ劇場が本物のライブ会場になるんですよ。この仕掛けがあるので、めちゃくちゃ盛り上がる。他のお芝居でもたまにありますが(『ジーザス・クライスト・スーパースター』のラストシーンとかね)、観客を芝居の「内側」に入り込ませる仕組みというのは、ものすごい一体感を生む演出なんです。

 フットボールの試合も同じで、実は「満員のサポーター」こそが、試合を盛り上げる最強の舞台装置だと思うわけです。テレビで中継映像を見ていても、スタンドがガラガラだといまいち気分が乗らないし、どうも白熱した試合に見えてこない。逆に一つひとつのプレーで観客が沸いたり、ブーイングが起きたりする試合は、何気ないプレーが何倍にも意味のあるプレーに見えてくる。これは、繰り返しますが選手のレベルやプレーの質とは全く関係がありません。そう「見える」ってだけの話。だから高校選手権の試合がJリーグよりも楽しめるって人、けっこういるんじゃないかなあと思ったりするわけですよ。

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 例えばドルトムントがバイエルンやシャルケとの対戦で8万人の観客を集めるのは、まあ分かります。でも、フライブルクやマインツとの試合でも、ジグナル・イドゥナ・パルクは8万人のファンで埋まる。これは本当にすごいことですよね。だってフットボールの試合にとって、「8万人の観客」よりもすごい演出はちょっと考えられない。映画制作の現場でも、モブ(群衆)のシーンを撮影するのが一番大変だと聞きます。エキストラをたくさん集めなくちゃならないからね。

「演出」という観点でフットボールを見てみると、そこには「プレーのレベル」がどうだとか、「戦術」や「システム」がどうだとか、そういった話とは根本的に違う世界が広がっています。魅力的なプレーとは何か? 魅力的な応援とは? 魅力的なスタジアムとは? 答えはもちろんひとつではないでしょうが、フットボールを「競技」ではなく「エンターテインメント」として見たとき、海外のリーグ、特にブンデスリーガから学べることはけっこうあるんじゃないかなあ、と。そう思うんです。

 そんな視点から、いよいよ始まる後半戦もブンデスリーガを楽しみたいと思います! そしてワールドサッカーキング増刊 「ブンデスリーガ後半戦ガイド」は1月27日(金)発売です!(最後に宣伝……すみません!)

文=坂本聡(ワールドサッカーキング編集長)

【WSK編集雑記 vol.1】ノーベル賞に思う。レアルはやっぱり偉大だ

By 坂本 聡

雑誌版SOCCER KINGの元編集長。前身の『ワールドサッカーキング』ではプレミアリーグやブンデスリーガを担当し、現在はJリーグが主戦場。心のクラブはサンダーランドと名古屋グランパス。

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