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[捲土挑来――。指揮官、語る] 曺 貴裁「“らしく”あれ。」③

[写真]=神山陽平

今シーズンのキャッチフレーズは“捲土挑来”。再び勢いを盛り返して巻き返すことを意味する言葉の造語は、湘南ベルマーレを想う、すべての人が送る監督へのメッセージ。ベルマーレを率いて6年目。背負っているものは決して小さくはない。けれど―。「選手に対しても“らしさ”で勝負するしかない」「夢とか希望を捨ててやりたくないんだよ」曺貴裁監督の心は、いつでも真っ直ぐだ。

インタビュー・文=細江克弥

Jリーグサッカーキング5月号[湘南ベルマーレ特集]共走-KYOUSOU-

指導者としての弱み? そんなのいっぱいあるよ

曺さんのそういう価値判断の基準って、最初からずっと変わらないんですか?

根本的なものは何も変わらない。でも、指導者としての細かい技術というか、いつ、どこで、どういうふうに話をするとか、そういうことは少しは分かってきたんじゃないかな。

指導者としてのゴールは、どこにあるんですか? そもそも見えていますか?

そんなのないよ。だって、全部分かっちゃったら面白くないじゃん。

そうなんですけど、モチベーションとしてのゴールは欲しくないですか? 夢を持つことと近いと思うんですけど。

いや、それは考えたことがないですね。だって、税率や法律が変わる時代だよ。銀行なくなっちゃったりするんだよ。そんな世の中で、ゴールって何よ(笑)?

それでもしつこく聞きますけど、「こんな自分になりたい」というイメージは?

若い頃からずっと「毎日成長したい」と思っているよ。でも、キラキラした目で「こんな自分になりたい」なんて言うような、そんなナルシストじゃないよ、

俺。なるほど。それって、ナルシストの発想だったのか……。

まあ、分からないけどさ(笑)。でもね、「毎日生きるのに必死」では決してない。そうじゃなくて、楽しんでとか、工夫してとか、前向きにとか、そうやって生きないとつまらないじゃん。どうせやるなら楽しむしかない。他人の評価なんて不確かなものだから、そこに向けて「頑張ってます」なんてアピールする必要はないと思う。だから、人に言われてうれしいのは「らしい」という言葉なんです。だって、自分らしく生きることしかできないんだもん。選手に対しても“らしさ”で勝負するしかない。「今日は良かったけど」なんて前置きで気を使わずに「今日のお前は全然ダメ」と言いますよ。それが自分の姿勢を示すことにもなる。最近は選手も俺のそういう部分を理解しちゃっているから、裏の裏を突くような言葉を選んだりするんだけどね。

[写真]=神山陽平

質問を変えてみます。曺さんの、指導者としての自分の弱みは?

そんなのいっぱいありますよ。うんとね……(考えること30秒)。どこか、バカになれない自分がいるというのは事実かな。いつも理性を失っちゃいけないと思っているから、第三者として自分を見なきゃいけない。でも、そうなると最終的には理屈で説き伏せたり、論理性にすり替えてしまうことが俺の中である。何がなんでも、どうしてもこの試合に勝たなきゃならないんだというのを本当に心の底から言えているのかどうか本当は自信がない。

そもそも、それって必要ですか?

……(考えること10秒)。実は俺、勝手に(イビチャ)オシムさんも同じタイプなんじゃないかなと思っているんですけど、もしオシムさんだったら「誰も必要だと思って戦争なんてしていない。それでも戦争は起こる」という感じで答えるんじゃないの(笑)?

なるほど(笑)。

必要だと思うけど、それが指導者にとって「絶対に必要だ」となると、この世の中やサッカー界は機能的だけど機械的というか、どこか興冷めしてしまうというか、魂の宿らないものになってしまう気がする。監督たるもの勝利に対する絶対的な執着心を持って戦わなければいけないと思うし、もちろん僕もそれは持っているつもり。でも一方で俺は、俺の方法で勝ちたいとも思っていて、そういう優柔不断な自分がダメなのかなと感じる時もあるな。

気持ちは伝わります。

ただ、最終的にはチームの方向性について決定する立場にあるからね。俺が言うことがすべて正しいとは全く思わないけど、勝負のアヤは、努力したからといって運が転がり込むものじゃない。でも、勝ちにも負けにも偶然はないよね。いずれにしても、めちゃくちゃ緊迫した状況下にあっても理性的であろうとする俺の部分は、指導者としての「弱み」と言える気がする。ケンカして殴られても、どこかで「殴らせてあげよう」と思う自分がいるような。

[写真]=神山陽平

でも、それが「強み」であるという見方もできますよね。

一つだけ言えるのは、そんな感じだから“究極の負けず嫌い”では決してないのかなと。ただ、それは俺のパーソナリティーだから、いい悪いの話じゃないんだと思う。もちろん負けたくないけどさ(笑)。

だとすると、今、チームに対して感じる「最高の喜び」とはどんな瞬間ですか?

うーん……分からないね、それ。J2で優勝する? プレーオフで昇格を勝ち取る? 平均年齢23歳以下で……いや、違うよな。5年後のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場する? それも違う。

……。

やっぱり、今このクラブにいるスタッフ、アカデミーの子たち、スタッフ含めて、誰にも頼らずに自分の仕事をしながら「クラブやチームがこうなってきた」とそれぞれが実感できる空間になった瞬間。それが一体となった時に生み出すパワーで、いいゲームをして相手に勝つ。もしくはギリギリのところで負けても、それにめげないで次に向かう。そういうところが、「究極」にある我々の喜びにならなくちゃいけない。それを毎年続けることが簡単じゃないということを、世の中の人と共有したり、自分たちの中ではっきりさせないといけない1年なんだろうね。

そういう意味も含めて、もう一度ゼロからスタートすべき1年。

うん。みんな、どこかで諦めちゃうんですよ。一元的な利益や喜びがないと、人間は耐えられない。だけど、自分に関して言えば、若い時よりもそのスパンがずいぶん長くなった気はする。若い時は目の前のことや1カ月位のスパンでしか耐えられなかった。うん……そこはちょっとだけ成長したかな。ハハハ。そんな気がします。

■曺 貴裁(ちょう・きじぇ)
1969年1月16日生まれ、京都府出身。川崎Fで指導者のキャリアをスタートし、2005年から湘南のアカデミーで指導に従事。以後トップチームのコーチを経て12年、監督に就任。6年目を迎えた今シーズンは「共走」というスローガンを掲げ、新たな競争を促しながら、今日を精一杯走り抜けるベルマーレをつくり続けている。

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