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【躍進するアジアフットサル】タイ/“アジアのブラジル”を称するタイフットサルの今

2017.02.13

タイにおけるフットサルはワールドカップに初出場した2000年以降、常にアジアで上位をキープし続けてきた。彼らにとってフットサルは、国技のセパタクローと同様、特質に合ったものだった。国内リーグも整備されつつある今、タイフットサルはさらなる上昇を期す―。

文=本多辰成 写真=ゲッティ イメージズ
Text by Tatsunari HONDA Photo by Getty Images

[Jリーグサッカーキング2月号増刊「進化を遂げるタイサッカー」]

アジアのブラジル


 サッカーでは近年の急成長によってアジアの上位争いに加わってきたタイ。だがフットサルにおいてはそれ以前からアジアトップレベルの力を有している。最新の世界ランキングでは16位に位置し、6位のイラン、15位の日本に次いでアジアでは3番目のポジションに付けている。

 タイ代表がアジアの舞台で最初に存在感を見せたのは、2000年にタイで行われた第2回AFCアジア選手権。グループリーグで韓国を破って決勝トーナメントに進むと、準決勝では優勝したイランに敗れたものの、ワールドカップ出場を懸けた日本との3位決定戦に8-6と勝利。日本を抑えてワールドカップ初出場を果たした。同大会には、サッカーの元タイ代表で現在はタイリーグのチョンブリーFCで選手兼監督を務めるテサック・チャイマンが出場していた。11ゴールで大会得点王となる大活躍で、タイのW杯初出場に大きく貢献した。タイがいち早くフットサルに対応できた要因の一つを、このテサックの活躍から読み取ることができる。

 09年にフットサルのタイリーグでプレーした経歴を持ち、現在はエージェントとしてタイを拠点に活動する真野浩一氏はタイのフットボール文化についてこう語る。

「日本人はサッカーとフットサルではボールも違うし、全く別のスポーツだという固定観念がある。でも、タイ人にはそういう感覚がなく、今でもトップレベルの選手がサッカーとフットサルをどちらもプレーすることが珍しくない。ストリートサッカーなども盛んで、環境に関係なくボールを蹴ることに慣れている。そういう意味で、タイは“アジアのブラジル”だと思う」

 タイではサッカーに加えて同じく足でボールを扱う競技であるセパタクローも文化として定着しているため、元々、足元の細かいテクニックには定評がある。狭いスペースでボールを扱うフットサルは、サッカー以上にタイ人の特質に合った競技だった。

アジアの上位をキープ


 アジアトップレベルのタレントも輩出されている。現在タイのナンバーワン選手であるスパウット・トゥンクラーンは、13年にAFCの年間最優秀選手を受賞。昨年のAFCフットサルアジア選手権でも14ゴールを挙げて得点王に輝いたアジア最高レベルのピヴォの一人だ。今シーズンはイランリーグでプレーしている。

 タイ代表はW杯に初出場した00年以降、アジアで安定して上位の成績を残してきた。アジア選手権での優勝はまだないものの、ベスト4以上に7回進出。08年と12年には準優勝を果たした。スペイン人のプルピス監督が率いた09年には、世界ランキングが最高で9位まで上昇した。W杯にも00年以降、5大会連続出場中であり、日本が出場を逃した昨年のコロンビア大会にも出場している。

 昨年はW杯本大会を前に元日本代表監督のミゲル・ロドリゴが監督に就任。グループリーグで2勝を挙げて、自国開催だった12年に続いてW杯2大会連続となる決勝トーナメント進出を果たした。

整備が進む国内リーグ


 タイの国内リーグは06年から行われている。テレビ中継もあり、一定の注目を集めているが、これまではリーグの開催時期が定まらず、開催されない年もあるなど不安定な運営が続いていた。そういった状況下でも、タイの最強チームであるチョンブリー・ブルーウェーブはAFCアジアクラブ選手権で常に上位に顔を出し、13年に初優勝。クラブレベルでもアジアトップレベルの実力を示してきた。

 タイリーグでは、日本人選手もこれまでに計10名近くがプレーしてきた。だが、不安定な運営と待遇の面などがネックとなり、今のところサッカーのタイリーグのような日本人選手増加には至っていない。

 12年から15年までタイリーグのクラブに所属していた軽部斉広も、タイでのプレーは苦労が多かったと振り返る。

「開幕時期も決まっていなかったので、まずチームを探すことが大変だった。タイに来てから練習参加できるまでに3カ月くらい掛かり、そこからリーグが始まるまでにさらに5カ月くらいという感じ」

 金銭的な待遇も「サッカーと比べたら天と地」だったと言い、選手の基本給は月給2万円台。試合給などを含めても3万円程度にしかならず、タイでも地方都市であればどうにか生活ができる程度の水準だった。その上、給料の未払いに悩まされることもあったという。軽部の場合、日本ではバルドラール浦安セグンドでプレーしていたが、トップに昇格することはできなかった。フットサル人生に区切りを付けたいという特別な思いがあっての挑戦だった。そういった特別な思いや事情があるわけでなければ、純粋にプロ選手としてタイリーグを職場とするのは難しいのがこれまでの状況だった。

 しかし今、タイリーグの環境に少しずつ変化が見られる。かつてはバンコク郊外にあるショッピングモール内のコートで集中開催されていたが、近年はホーム&アウェー方式へと移行。現在は2部リーグ制となり、1部リーグが14クラブ、2部リーグが10クラブの計24チームで争われている。さらに、16シーズンからはタイの大手通信会社「AIS」がスポンサーとなったことで、リーグの運営も安定に向かう兆しがある。選手の待遇も向上傾向にあり、今後は外国人選手がプレーする環境も整っていく可能性があるだろう。

 日本とタイの間で今、双方向的に選手が移動する動きが生まれつつあると前出のエージェントの真野氏は言う。

「タイ人選手に興味を持っているFリーグのクラブも出てきていて、実際に動いている話もある。タイでプレーする日本人選手についても今後、増えてくる可能性は十分にあると思っている」

 サッカーの台頭に象徴されるように、タイでは今、経済の成長に伴うスポーツ文化の開花が顕著だ。フットサルも例外ではなく、プレー環境が整えばタイの存在感はさらに増すことになるだろう。

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