2017.02.10

【進化を遂げるタイサッカー】タイリーグが目指す道

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タイリーグは昨年、プミポン・アドゥンヤデート国王の崩御に際して、3節を残してリーグ戦が終了。ムアントン・ユナイテッドが4年ぶりに王座を奪還した。覇権を握ってきたブリーラム・ユナイテッドの牙城は崩れ、国内を取り巻く事情は大きく変化を遂げた。急成長の影には、問題も山積している。タイリーグはこの先、どんな道を歩んでいくのだろうか――。

文=本多辰成 Text by Tatsunari HONDA
写真= Samurai x TPL Photo by Samurai x TPL

[Jリーグサッカーキング2月号増刊「進化を遂げるタイサッカー」]

ブリーラムの牙城を崩した“ドリームチーム”


 2016年のタイリーグは唐突なエンディングを迎えた。10月13日に長くタイの国民から大きな尊敬を集めてきたプミポン・アドゥンヤデート国王が崩御したことを受け、タイリーグは3節を残してのシーズン終了を決定。世界最長の在位70年を誇り、タイの象徴でもあった偉大な国王の死に国中が悲しみに包まれる中、昨シーズンのタイのサッカーシーンは静かに幕を下ろすことになった。

 リーグ戦は突然の終了が決まった第31節までの順位を年間順位とし、その時点で首位に立っていたムアントン・ユナイテッドの4シーズンぶり4度目の優勝が決定。今シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(以下ACL)出場権の懸かったタイFAカップも中止となったため若干の混乱を招いたが、ベスト4に残っていたチームによる抽選(チョンブリーFCは辞退)という形で、スコータイFCが初のACLプレーオフ出場権を獲得するという結果になった。

 意外な結末となったものの、ムアントンのリーグ優勝は文句のないものだった。3試合を残して勝ち点差5で2位に付けていたバンコク・ユナイテッドには優勝の可能性が残されていたが、おそらく予定どおりに最終節まで行われていたとしても、ムアントンがそのまま優勝を決めた可能性はかなり高かっただろう。得失点も14ポイントの差が付いていたことを考えても、ムアントンが優勝に値するチームであったことは間違いなかった。

昨シーズンは4年ぶり4度目のリーグ優勝を果たしたムアントン・ユナイテッドは、数多くのタイ代表選手を擁する“ドリームチーム”として躍進した

 タイリーグといえば、ここ数年はブリーラム・ユナイテッドが覇権を握ってきた。一昨シーズンまではリーグを3連覇しており、11年、13年、15年にはタイFAカップとリーグカップを含めた国内3冠を達成した。ACLにも12年から昨シーズンまで5年連続で本戦に出場し、13年にはベスト8に進出。タイリーグの台頭をアジアに印象付けるのに、ブリーラムが果たした役割は大きかった。だが、16シーズンは序盤から振るわず、最終順位は4位。消化試合が1試合少なかったとはいえ、首位のムアントンには勝ち点25もの差を付けられる惨敗に終わった。

 ブリーラムに代わって覇権を手にしたムアントンは、シーズン開幕前に大補強を敢行した。“タイのメッシ”ことチャナティップ・ソングラシンをはじめ、タイ代表の主力選手が次々と加入。ブリーラムからもタイ代表のキャプテンを務める左サイドバックのティーラトン・ブンマータンを獲得するなど、さながらタイ代表のスタメンに外国人選手を加えたかのような“ドリームチーム”が誕生した。リーグ序盤戦ではかみ合わない部分も見られたが、試合を重ねるにつれて圧倒的な個の力の差を見せ付けてのタイトル獲得だった。

 母体企業であるタイの大手メディア「トゥルー・コーポレーション」が本格的にクラブ強化に乗り出したバンコク・ユナイテッドの台頭も含め、16年はブリーラムの一強時代にくさびが打ち込まれる年となった。

名門BECテロ・サーサナは事実上、親会社が売却されたことで主力選手の放出を余儀なくされた


財政、経営、運営問題、台頭の陰で噴出した数々の問題


 昨年はアジアのサッカーシーンにおいてタイが本格的に存在感を示し始めた年だった。1月にはリオデジャネイロ・オリンピックのアジア最終予選を戦い、2018FIFAワールドカップロシアの予選でもアジア最終予選に駒を進めた。この数年で急激に力を付けていたタイ代表が、ついにアジアトップレベルの争いに参戦してきた。

 タイ代表の急成長は、国内リーグの盛り上がりを背景に成し遂げられた。経済の成長とともに10年代に入ってリーグの規模が拡大、それまではイングランドのプレミアリーグに向けられていたタイのファンの目が徐々に国内リーグにも向けられるようになった。選手のステータスも上がり、待遇も向上したため、多くの日本人選手がプレーするリーグとしても脚光を浴びることとなった。まずはACLでブリーラムが存在感を見せ始めると、続いてタイ代表も才能ある若い選手たちの登場によって一気に力を付けていった。

 だが、タイリーグはまだ十分に成熟したリーグとはいえない状況にあるのも事実である。昨シーズンはタイリーグが抱える問題点が噴出した年でもあった。

 開幕前には複数のチームが財政面の問題などでクラブ存続の危機に遭った。給与未払い問題を抱えていたTOTSCは、開幕直前に行われたタイサッカー協会会長選で新会長が誕生したことによる方針転換を受け、なんと開幕の2日前に急きょリーグ参加が認められないことが通達され、クラブ消滅という最悪の結末となった。また、ムアントンに多くのタイ代表選手が移籍加入した背景にも、不安定な面を抱えるタイリーグの事情がある。02年にはACLで準優勝するなどタイリーグを代表する名門クラブの一つ、BECテロ・サーサナが事実上、ムアントンを保有する「サイアムスポーツ」に売却されることになった。その結果、BECテロ・サーサナにはチャナティップをはじめとする多くのタイ代表選手が所属していたが、そのほとんどがムアントンに移籍するという結末を招いた。

 さらに、1部、2部の昇降格を巡ってのトラブルなどさまざまな問題が絡み合い、開幕直前まで参加クラブが決定されないという異常事態も発生。以前から問題視されてきた選手の契約に関する種々のトラブルや審判の買収問題なども、改善傾向にはあるものの根深く残っている。いずれの問題も成熟したリーグであれば考えられないものだと言えるだろう。

 しかしながら、大局的に見てタイリーグが注目に値する成長局面にあることもまた事実である。育成面では各クラブにはアカデミーの保有が義務付けられ、環境面ではサッカー専用の新スタジアムを建設する動きが目立つなど、さまざまな面での進化が続いている。

タイ代表でも活躍する“タイのメッシ”ことチャナティップ・ソングラシンは今年7月からJ1の北海道コンサドーレ札幌でプレーする

タイサッカーのカギを握る初のタイ人Jリーガー


“タイといえばブリーラム”という印象が定着しつつあった近年だが、今シーズンはそのブリーラムが6シーズンぶりにACL出場を逃した。プレーオフステージの常連だったチョンブリーFCも出場しないため、今シーズンのACLに出場するタイ勢は新鮮な顔ぶれが並ぶことになった。

 タイリーグ王者として本戦から出場するムアントンは、前述したようにタイ代表の主力をずらりとそろえている。加えて、前線には外国人として初めてタイリーグ通算100ゴールを達成したブラジル人エース、クレイトン・シルバ、最終ラインには青山直晃が入り、外国人選手の質も高い。昨シーズン、ヴァンフォーレ甲府からムアントンに移籍した青山は、ACLでJリーグクラブと対戦することを大きな目標にしてきたという。タイ代表選手たちと共に戦う青山のプレーは、今シーズンのACLの見どころの一つだろう。

 プレーオフステージからの出場となる2チームも興味深い。ムアントンと熾烈な優勝争いを演じたバンコク・ユナイテッドは、前身のバンコク・ユニバーシティ時代の07年に出場して以来となるACLに臨む。このクラブは、昨シーズン、ムアントンから獲得したマケドニア代表のマリオ・ジュロヴスキーが攻撃を操っている。プレーオフ2回戦を勝てば、本戦出場を懸けてJリーグ勢と対戦することになる。もう一つ、タイFAカップでベスト4に残り、抽選の結果ACLプレーオフ初出場を決めたスコータイFCは09年に創設された新しいクラブ。15年に2部リーグに昇格するとわずか1年で1部に昇格、昨シーズンは初めての1部の舞台ではあったが、リーグ戦でも7位に付ける健闘を見せた。スコータイFCには元ギラヴァンツ北九州の片野寛理がいる。昨シーズンは守備の要として大きく貢献し、タイの大手メディア「SMMスポーツ」による年間ベストイレブンにセンターバックとして選出された。ブリーラム時代にくさびを打ち込んだ3クラブが、アジアの舞台でどんな戦いを見せるのか、国内でも大きな注目を浴びている。

 また16年12月19日には“タイのメッシ”チャナティップが、今年7月から1年半の契約で北海道コンサドーレ札幌へ期限付き移籍することが発表された。Jリーグの「アジア戦略」によってベトナムやインドネシアなど東南アジア諸国からJリーガーが生まれてきた中で、待望されていた初の“タイ人Jリーガー”が誕生した。タイリーグの成長によりスター選手のサラリーが高騰、タイ人選手獲得を狙うJクラブと条件面で折り合いが付きにくい状況が続いていたが、チャナティップの才能にほれ込んだ札幌がついに獲得にこぎつけた。チャナティップを3年ほど前から徹底マークしてきたという札幌の三上大勝GMは、昨シーズンのプレーを見て「レギュラークラスの戦力になると確信した」と語っている。チャナティップの札幌移籍はJリーグ「アジア戦略」にとっても大きな意義を持つだけではなく、純粋にプレーでも小さくないインパクトを与える可能性が十分にあるだろう。

 さらに、チョンブリーFCの若手選手がJリーグのトライアウトに参加するなど、他にも具体的な動きが見られ、タイ人選手のJリーグ移籍は加速しそうな雰囲気がある。タイがアジアトップレベルの仲間入りを果たすには海外移籍も不可欠な要素だけに、そうした意味でも、タイ人Jリーガーの動向は、将来のタイサッカーのカギを握っていると言える。

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