[写真]=須田康暉
中村憲剛と阿部勇樹。現役時代は第一線で活躍し続け、2010年の南アフリカW杯では共闘した仲だ。中村は2020年、阿部は2021年に引退を発表し、現在は指導者として新たな道を歩み始めている。「何かきっかけや気付きを与えられる存在でありたい(中村)」「どんどん新しい要素や考え方を取り入れていきたい(阿部)」と、指導者としての決意を語ってくれた。
取材・文=三島大輔(サッカーキング編集部)
取材協力=ミズノ
――親子で参加するサッカー教室『ミズノフットボールフェスタ』では、お2人が練習メニューを決めて行われました。現役時代に「この練習は面白かった!」というものは取り入れたりするのでしょうか?
中村 これまでやってきたことや体感したことは、自分の中で残っていますね。その経験を伝えてあげたいですし、それで見えるものを提示したり、気付きを与えたりしたいと思っています。
――阿部さんは現役時代に外国籍の監督と一緒にやる機会も多かったと思います。やはり練習内容は違いましたか?
阿部 練習メニューは監督によって違いますし、それぞれの色が出ます。少し似ている部分があったりもしますが、あまり同じような練習はなかったですね。
――現役を引退されて指導者としての道を歩まれていますが、今年に入ってからの気付きや学びはありますか?
中村 今年はS級ライセンスを受講しています。たくさんの指導法や考え方、話の進め方について密度濃くやっているので、本当に勉強になりますね。育成年代だとできることや理解度も違うので、年代によってのアプローチの方法を学んでいます。いつも帰りの車で「これで良かったのか?」と自分に問いかけながらハンドルを握っています(笑)。これ、ない?
阿部 あります! あります!
中村 「このアプローチどうだったかな? 大丈夫だったかな?」と振り返りながら、帰っていますね。
阿部 自分はとある大学の附属高校で体の使い方、反応、認知の部分について学びに行っています。この先に必要になる要素だと思ったからです。それを練習にどう落とし込み、伝えていくのかを考えています。真面目に取り組む練習の中にも遊びの要素を入れたいと思っています。今までの自分の経験もありますけど、もう昔のことなので考え方をアップデートし続けていけたらいいなと思っています。
――指導者の方にお話を聞くと、皆さん口を揃えて「今の子供たちはうまい!」とおっしゃいます。ご自身の学生時代と比べ、どのあたりが一番違うと感じますか?
中村 環境や情報量も含め、全部です。頭も整理されているし、どうしたら良いのかという技術論も確立されていると思います。今の子供たちは教わり慣れているなと感じます。それが悪いことではありませんが、もっと自分の色を出して良いんですよ。試合で勝つため、素晴らしいプレーをするために、どうすべきなのかという自由度が制限されている感覚があります。自分は全て指導者の言う通りじゃなくても良いと思っています。それは指導者を超えて行ってほしいからです。
阿部 環境の変化は大きいと思います。芝生でサッカーができる環境も増えていますが、その反面でタフさという部分では、自分たちの時代と違うなと感じます。
中村 難しいですよね。環境を整備すればするほど良くなるのに、その反面で失うものもある。
阿部 最近は球技NGの公園も増えていますよね。
中村 サッカーが習い事になってしまっている。遊びではなく競技になると欠けていく要素も多いと思いますし、サッカーができる環境が限られることは不安です。サッカーを教わることができる場所は増えていますが、その自由度の部分が難しいですね。指導者に提示されてやるのと、何の制限もなく自分たちの発想やアイディアでやるのはまた違いますから。
阿部 後は、みんな真面目ですよね。言われたことをやらないと、試合に出られないと思っているのかもしれませんが。
中村 こっちが提示したルールのギリギリを攻めるとか、ちょっと外して勝負するとか。そういう選手がもっと増えると面白いですよね。それが試合の中で相手選手の逆を突くことにもつながります。で、これ何の話でしたっけ?(笑)。
阿部 今の子たちはとにかくうまいということです! 技術も知識もあります!
――では、最後に指導者としての目標含め、今度どんな選手を増やしていきたいですか?
中村 自分が経験してきたことは、自分にしか発信できません。ただ、サッカーは自分だけの世界ではないので、もっともっと勉強しなければいけないと思っています。自分に課せられた役割はあると思っていますし、意識的に伝えるようにしています。それが自分の色であり、武器です。自分の中で“育てる”という意識はあまりなくて、いつか振り返った時に「そういえば、中村憲剛がこんなこと言っていたな」とか「阿部さんがこんなこと教えてくれたな」とか、何かきっかけや気付きを与えられる存在でありたいなと思います。あまり矯正はしたくないので、自分の発想で成長していってほしいです。
阿部 たとえ教科書通りじゃなくても、状況に応じて考えて行動できる選手を増やしていきたいと思います。指導者として自分の経験も大切ですが、どんどん新しい要素や考え方を取り入れていきたいです。よく言われていますけど、次は選手ではなく日本人の指導者が海外に行く時代になっていくべきだと思っています。日本サッカーが強くなる上で必要だと思いますし、個人的にそれは一つの目標です。
By 三島大輔
サッカーキング編集部