2018.06.18

部活に成績をつけるからサッカーが嫌になる。楽しんで続けられ、日本が強くなる「最強の強化方法」とは

ジュニアサッカーの保護者向け情報サイト「サカイク」。「自分で考えるサッカーを子どもたちに。」をテーマに、サッカーと教育に関する幅広い専門情報をお届けします。

 前編ではFIFAランキングと競技者人口の相関について、データを元に話してくれた幸野さん。FIFAランキング1位のドイツは20%を超えるサッカー人口がおり、サッカーが生活の一部になっている人が多いことがわかります。後編では楽しんで長く続けるために、日本はどう変わっていけばいいかお話を伺いました。

(取材・文:鈴木智之)

■年齢が進むにつれて競技人口が減る日本の問題点

「日本の競技者人口の推移を見ると、ジュニア年代での登録選手数が一番多く、年齢が上がるに連れて減ってきます。つまり、きれいな円錐形になるわけです。しかし、ドイツはジュニア年代にサッカーを始めた人が、年齢を経ても辞めずに自分のレベルに合ったリーグでプレーしています。結果として円錐形のピラミッドではなく、円柱形にプレー人口が推移していきます」

 子供から大人まで年齢関係なく、サッカーをプレーすることを楽しむドイツ。かたや小学校卒業時、中学卒業時、高校卒業時と学校の区切りでサッカーを辞める選手が多く、年齢が進むに連れて、競技人口が減っていく日本――。

「ドイツはサッカーを始めた人が辞めません。サッカーに関わる人が多い、肥沃な大地があります。それは代表チームの強さにも現れていて、ドイツやブラジルは同じぐらいの強さのチームが3、4つできます。でも、日本はそうではありません。選手人口が少ないので、選手層が薄いんです。ブラジル人で、海外でプレーしているのはおよそ1200人と言われていて、それはJリーガーの数に相当します。そこから見ると、日本のFIFAランキング60位は妥当な結果かもしれません。大事なのは、肥沃な大地を作ること。ジュニアからシニアまで、すべてのカテゴリーの集積が日本代表に反映されていくんです」

 ジュニアからシニアまで、男女ともにサッカーをプレーする人、サッカーに関わる人を増やす。代表選手を選ぶ分母を大きくすることが、代表チームの強化につながることは、想像に難くありません。

「過去のFIFAランキングを見ても、競技人口比3%台の国がトップ10に入ったことはありません。そこから考えると、トップ10に入るにはまず6%にする必要があります。日本の3%の倍です。そのためにまずすべきことは、プレーする場所、つまりグラウンドを増やすこと。中学年代のクラブチームが少ないから、チームを作りたいと思う人がいたとします。クラブユース連盟に登録を届け出ると『どこのグランドを使うのですか?』と言われて『グラウンドはありません』と答えると、『そんなチームは加盟を認められません』と言われて終わりです。熱意があっても場所がなければ、サッカーをしたり、教えることができないんです」

 特に首都圏のグラウンド不足は深刻です。日本サッカー協会も現状を理解しており、アクションを起こそうとはしていますが、多くのステークホルダーが関わる案件のため、簡単に解決できる問題ではありません。

「グラウンドを増やす。既存のグラウンドを効率的に使う。無駄な試合を減らして、トレーニング効果の高い試合を増やす。これらが、現状すぐに手をつけられる、選手を増やすための施策だと思います」

■800チームが100チームに減少。続けられる環境が少ない

 なかでも「無駄な試合を減らし、トレーニング効果の高い試合を増やす」ことは、知恵を使えばすぐにできます。

「以前、サカイクでも書きましたが、千葉県のU-11リーグの試合を調べたら、29%が5点差以上つく、対戦チーム双方にとって無意味な試合でした。およそ3試合に1試合が、実力差のある相手と試合をしているわけです。もっともトレーニング効果があるのは、同等か少し上の力のチームと対戦するときです。形だけのリーグ戦ではなく、1部、2部、3部とカテゴリーを分け、選手の移籍を活発にし、その選手のレベルに合った試合ができる環境を一刻も早く作るべきです」

 環境整備と同時進行で取り組みたいのが、サッカーを始めた子を辞めさせないこと。競技人口を増やすためには、一度サッカーを始めた子が少年、青年、大人になるまで、続けられる環境が必要です。幸野さんは「そのためには、スポーツを体育から取り戻すことが重要」と言葉に力をこめます。

「東京には小学生年代のクラブが800近くありますが、中学生年代になると100に減ってしまいます。クラブチームに入れない子たちは、しょうがなく中学校の部活に行くか、サッカーを辞めてしまいます。小学生年代は楽しくサッカーをしていたのが、部活になると先輩後輩の関係、1年生は球拾いなど、体育の“育”、つまりスポーツに不必要な教育の部分が入ってきます。それが嫌でサッカーを辞める子も出てしまうのが現状です」

 日本のスポーツ環境として、本来スポーツとは切り離して考えるべき、教育と体育が繋がっていることが、理不尽な指導、体罰などの温床になっていると、幸野さんは指摘します。

■スポーツに成績をつけるから部活が楽しくなくなる

「スポーツの定義は遊びです。つまり“楽しい”という気持ちが最初に来なければいけません。サッカーだって、子どものときに楽しいと感じたから始めたわけですよね? それが学校と結びついた途端、教育になるので規律や忍耐、努力などが重視され、楽しさが一番上に来ないんです。周りと同じことをしなければいけない、本来は遊びのはずなのに、成績をつけられる。勝つことが最優先になる。それらが楽しさを奪い、スポーツ嫌い、運動嫌いの人を増やしています」

 昨今、部活動のあり方が見直され、外部コーチの登用や地域のスポーツクラブが学校の施設を借りて、スポーツを教えるといった動きが出始めてきてはいますが、そのスピードは遅く、中学、高校では部活動という形態でスポーツをするのが一般的です。

「多くの日本人にとって、小学校の体育の場が、スポーツとの出会いになります。でもそれは教育の一貫であって、本来の“遊び”という意味を持つ“スポーツ”との出会いではありません。遊びの楽しさを取り戻し、スポーツの原点に帰るためにも、学校の施設を民間が借り受けて、スポーツを教えるプロが入り、管理運営をする。そして、スポーツを楽しいと感じる人を増やす。楽しいと感じているうちは、スポーツを辞めません。教育的観点から理不尽に怒られたりして、嫌気がさして辞めるわけです」

 少子化、人口減少、サッカー以外の娯楽の多様化。サッカー環境、競技力向上のためには、多くのハードルが存在しています。

「サッカーはただ楽しいだけではなく、みんなで協力して物事に取り組むといった、教育的な側面もあります。でもそれはあくまで付随的なものであって、そこがメインになるのは本末転倒です。まずはボールを蹴ることが楽しい、身体を動かすことが楽しいと思える環境を作ることが、サッカーを長く続ける人を増やすことになります。誰もが楽しめる環境を作ることが、最強の強化の方法なんです」

幸野健一(こうの・けんいち)


サッカーコンサルタント、アーセナルサッカースクール市川代表
10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。
日本のサッカーが世界に追いつくためにはどうしたらいいかを考え、育成年代を中心にサッカーに関する課題解決を図るサッカーコンサルタントとして活動中。
2014年4月「アーセナルサッカースクール市川」代表に就任。スクールの運営でも手腕を発揮している。

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