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日テレ・東京ヴェルディベレーザの新たな“武器”。チームを進化させる分析ツール「FL-UX」

2022.10.07

昨季の悔しさを胸に2年目のWEリーグに挑むベレーザ [写真]=東京ヴェルディ

 10月22日に「2022-23 Yogibo WEリーグ」が開幕する。日テレ・東京ヴェルディベレーザはWEリーグ初年度を3位という悔しい成績で終えたが、プロ化に伴うさまざまな変化や課題と向き合いながら、チームとして着実に成長してきた。そして、その成長を陰ながら支えているのが、昨シーズンからチームに導入された映像分析ツール「FL-UX」(開発・提供RUN.EDGE株式会社)だ。

 ベレーザの活動を長く支援しているスカイライトコンサルティング株式会社のサポートによって導入されたこの分析ツールは、映像へのタグ付けや描画、映像の共有や映像を通したコミュニケーション、さらには最先端のリアルタイム分析など、さまざまな機能が一つになった強力なアプリケーションだ。この「FL-UX」の活用によってチームにはどのような恩恵がもたらされたのか。関係者に話を聞いた。

試合前半の分析映像をベンチやハーフタイム中に確認

「FL-UXを導入したのはWEリーグがスタートするタイミングでした。それまでコーチ陣は、動画編集ソフトなどを使って自分のパソコンで分析映像を作っていたのですが、FL-UXの導入によってその作業は劇的に変わりました」

 こう話すのは、WEリーグ開幕前にベレーザのアシスタントコーチに就任した宮地佑典コーチだ。対戦相手の分析やリアルタイムでの試合分析が主な役割だという宮地コーチは、ベレーザにやって来る以前からFL-UXを愛用していたという。その理由は、「通常の映像編集ソフトではできないこと、時間がかかることが簡単にできる」からだ。

「FL-UXの便利なところは、例えば『シュート』、『パス』といったタグを自由にカスタマイズして、映像にタグ付けができることです。シュートシーンをタグ付けしておけば、あとでその部分だけをまとめて見ることができますし、シュートを何本打ったかという数字もすぐに把握することができます。また、映像の中に絵や線を書いたり、選手に印をつけたりということが簡単にできるのもFL-UXの魅力の一つですね」

 宮地コーチの試合日の仕事は、アプリ内のカメラ機能を使ってスタンドから試合を撮影し、クラウド上にアップロードしてタブレットやパソコンでリアルタイムに編集すること。その情報は即座にベンチにいるコーチ陣に伝わるだけでなく、ハーフタイムには選手たちも確認できる状態にしているという。

「永田雅人ヘッドコーチがベンチにタブレットを持ち込んでいて、僕が共有した映像をベンチ内で見られるようにしています。また、ロッカールームにモニターを置いて、ハーフタイムに前半の分析映像を流しています。これは選手たちに強制的に見せるというものではなく、前半で気になったプレーがある選手が、自発的に映像を確認してもらえるような仕組みです」

「実際の試合では、事前に想定していたこととは全く違う現象が起こり得ます。そういうときに『どこが違っていて、どう対応したらいいのか?』を映像で客観的に見ることで、プレー改善のヒントになることがあります。ハーフタイムの時間は限られるので、言葉よりも視覚的に見てもらうほうが選手たちに伝わりやすいということもあると思います」

「FL-UX」によって、選手たちはハーフタイムにもプレー映像を確認できるようになった[写真]=東京ヴェルディ

ベレーザは映像やデータ分析の分野でも一番前を走らなければいけない存在

 では、FL-UX導入による効果はどんな場面で実感できるのだろうか。宮地コーチは「直接的に試合の結果に結びついているかどうかはまた別の話」と前置きしながらも、その効果について次のように話す。

「特に前半の15〜20分くらいまでは、相手チームがやりたいこと、準備してきたものが出やすいので、それを客観的に見られる映像をベンチや選手に共有できるのは効果的ですね。チームの中では特にディフェンスの選手たちが映像を見たがります。試合後もそうですし、ハーフタイム中に『ここはどうなっている? 上から見るとどう?』と、積極的に自分たちのプレーを改善しようとしています。そういう時に、選手が求めている映像をパッと見てもらえるのは、FL-UXを導入して良かったなと思える瞬間です」

 選手たちもその効果を実感しているようだ。ディフェンスリーダーを担う岩清水梓は、「試合の流れを俯瞰で見られる映像があると、とても頭に入りやすい。いま戦っている試合の課題や修正部分、相手の分析をハーフタイム中に知ることができるのは選手にとってとても大きい」と話す。コーチ陣に対しては、「撮影して、分析して、作業も大変だと思うのに、いつも素早く対応してくれて本当にありがたい」と感謝の言葉も忘れない。

 もちろん、すべてを映像に頼るわけではない。監督やコーチがベンチで見て感じたもの、選手がピッチ上で体感したものを無視して、サッカーの戦略を立てることなどできない。映像はあくまでも、コーチや選手が何かの判断を下すための材料の一つ。宮地コーチも「映像ですべての指示が決まるわけではなく、判断の手助けになれば」というスタンスを崩さない。それでも、映像分析によって目に見える成果が感じられた時は何よりもやりがいを感じる。

「選手たちに映像を見てもらった後で、明らかな変化があったり、はっきりとした改善が見られたりすると素直にうれしいですね。僕が共有したものが、選手への指示にどこまで反映されているかは分かりません。でも、それが少しでも反映されていたらうれしいですし、すごくやりがいを感じます」

「昨季のWEリーグ第14節、ノジマステラ神奈川相模原戦でDFの清水梨紗(現ウェストハム・ユナイテッド)がゴールを決めたのですが、あの試合の前半を見ていて、「サイドバックがもっと上がったほうがいい」と感じていました。それで、ハーフタイム映像にそういう趣旨のものを入れたら、後半に清水が上がっていってゴールを決めてくれました。彼女がその映像を実際に見てくれていたかどうかは分かりませんが、もしかすると見てくれていたのかなとうれしくなりました(笑)」

 ベンチからの視点とはまた違う、試合を上から見ているからこそ気づくことはある。その情報をどう生かすかはケースバイケースだが、スタッフや選手がその情報を知ったうえで戦略を立てることにこそ大きな意味がある。現在のサッカーにおいてテクノロジーは切っても切れないもの。だからこそ宮地コーチは、それがチームに役立つ材料になると信じて情報を共有し続ける。

「InStatという会社がWEリーグをサポートしてくれていて、各チームに映像や統計データを送ってくれます。Jリーグではすでに当たり前ですが、そういうものが女子サッカーにも入ってきて、各チームが日々進化を続けています。ベレーザはそういう分野でも一番前を走らなければいけない存在だと思いますし、常に最先端を取り入れていく必要があります。映像やデータがすべてではないけれど、それはベレーザが目指す『見ていて楽しいサッカー』の実現に向けて、必ず助けになってくれると信じています。周りの進化においていかれないように、僕ら自身も日々アップデートし、より良いチームのサポートができるように向上していかなければいけないと思っています」

長年、日本女子サッカーをけん引してきたベレーザは分析の分野でもトップを目指す[写真]=東京ヴェルディ

By サッカーキング編集部

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