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チーム発足4年目の挑戦…「競技でも一流、社会でも一流」をコンセプトに掲げるFCふじざくら山梨が目指す2022年シーズン

2022.03.17

情熱の一つの形

 FCふじざくら山梨の金子智弘・代表理事代行に話を聞いた。創立4年目になるFCふじざくら山梨を立ち上げ、WEリーグを目指すクラブを運営してきた人の情熱が伺えた。

 金子代表理事代行の本籍は富士観光開発株式会社にある。これはFCふじざくら山梨を運営する責任企業で、その社内では取締役副本部長の肩書を持つ金子代表理事代行の想いと共に会社が動き、そして人の輪が生まれた。富士山の眺望と、その富士山からの湧水。そして綺麗な空気が自慢の土地に、女子サッカー選手たちが集まった。

 人が集まると、想いも集まる。それぞれの契約金額の多寡はさておき、協力企業の数は200社を超えたという。人が動いたからこそ、お金も動いたことになる。そのFCふじざくら山梨が2022年3月4日に2022年の新体制発表会を行った。

 登壇したのは金子代表理事代行と五十嵐雅彦GM。そして新加入の5選手たち。

 選手たちを紹介する前に、改めてFCふじざくら山梨というチームについて説明しておきたい。「プレイングワーカー」という耳新しい概念を提唱し、サッカーと仕事を両立させようとのコンセプトで2019年に立ち上げられたチームだ。社会人チームとの違いは、サッカーを行いつつ、通常の社員に近い就業時間で勤務するという部分。金子代表理事代行は、プレイングワーカーの成果を次のように説明している。

「プレイングワーカーという理念は発足以来3年間、選手全員、弊社富士観光開発の社員として、社業を全うしながら、またサッカー選手としても輝く中で、2021年シーズンは選手17名のうち16名が富士観光開発の9部門の施設において、接客、事務職、営業職それぞれに就業。またほとんどの選手が、弊社のゴルフ場であるふじざくらカントリークラブのハウスキャディとしてお客様と接しており社会常識などの知識などを高めている。これらの結果、会社の売上や利益にも直結したのが昨シーズンの大きな成果だと思っています」

 さらにプレイングワーカーとしてのキャリアを通し「サッカーと同様に仕事やオフザピッチの活動に向き合うことで人間形成がなされ、社会で活躍できる武器を生み出すことにつながるとの考えもございます」と金子代表理事代行。サッカー選手引退後も、希望者には継続雇用が可能だとのことで、セカンドキャリアの受け皿ともなり得る制度だと言える。

 富士観光開発が実践する女子サッカーチームの立上げおよび雇用創出は、人材不足に悩む地方の企業にとって示唆的だ。女子サッカー選手は、サッカーをプレーする場と安定的な収入を。人材難の企業は、サッカーに打ち込み、それを競技レベルまで突き詰めた頑張れる若者を雇用できる。個人的にはとても魅力的に映った。

 女子サッカーという競技に将来を見通す夢があるのもいい。街クラブが何年かかけてプロリーグにまで昇格することも決してありえない話ではないからだ。もちろんカテゴリーが上がるにつれて資金力に課題が出てくるはず。ただ、プロチームへの道は、全ての街クラブに平等に開かれているのも事実だ。FCふじざくら山梨の夢の軌跡はどのようなものになるだろうか。

監督代行で戦うシーズン

 金子代表理事代行に続きマイクを握った五十嵐GMは、チームの現状を説明した。

 FCふじざくら山梨にとっての大きなニュースは、6年契約の4年目のシーズンとなる菅野将晃監督が退団を決意したということ。なお今季は後任監督はおかず。チーム創設以来、菅野監督と共に指導してきた田口友久コーチが監督代行に就任。渡辺海GKコーチと共にシーズンを戦うことになるとのこと。

「菅野監督が作り上げてきたチームをアップデートし、目指すべきサッカーとしては、チーム全員が状況に応じて適切な判断ができるサッカーを掲げてトレーニングしています」と話す五十嵐GMは「昨季はなでしこリーグ入れ替え戦予選大会、皇后杯本戦1回戦など、大事な試合で格上のチームに勝つことができませんでした。昨季まではディフェンスラインからビルドアップ、サイドを起点としながら攻撃のベースを作っていたが、そこを相手に封じられたり、格上の相手であったりすると、それができず苦しいシーンが多くなった」のだと説明。田口ヘッドコーチ、渡辺海GKコーチとチーム創りを考え、「今季は攻撃のバリエーションを増やし、どんな形でも得点が取れる。点が取れるチームを目指す」としている。

 また、パスをつなぐスタイルは継続しつつも「一つの戦いに固執することなく、相手に応じて攻撃を組み立てられる。それによって勝利を目指すというスタイルを今季に関しては築き上げたいと思っています」としている。

 なお五十嵐GMは今季を戦うにあたり、目標を3つ掲げている。

・なでしこリーグ入れ替え戦予選大会での勝利、およびなでしこリーグ2部参入
・関東リーグ2部の優勝
・皇后杯での本戦の勝利

 なでしこリーグ2部参入については、入れ替え戦に出場するための予選大会を勝ち抜く必要がある。今季はこの部分のレギュレーションが発表されていないとのことだが、チームの目標はすでに定まっていると言える。

選手コメント

 記者会見は、五十嵐GMからの選手紹介に続き、各選手の自己紹介となった。これが3クラブ目となるキャリア豊富な26歳の出口春奈選手に加え、大卒が3選手。クラブ初の10代選手となる高卒の18歳・大宮響夏音選手までフレッシュな選手たちの自己紹介の言葉が響いた。

○出口春奈(でぐち・はるな)GK #1
「FCふじざくら山梨に決めたきっかけは3つあります。1つ目は、自分が移籍を考え始めた時に、一番はじめに声をかけてくれたチームだったということ。2つ目は、いろいろな経験、成長をしていくためにいろいろなGKコーチの指導を受けたいなと思っていたこと。そして3つ目が、実家から近いチームだったということです(笑)。自分自身、今年27歳になるので、いつまでサッカーできるかなと考えた時に、ずっと応援してくれる家族が少しでも見に来てくれるような環境を作りたいと思い、入団を決めました。お話しを頂いた時に、このチームはサッカーだけでなく、社会人としても必要とされることを大切にするチームだと聞きました。正直、どうなりたいかという目標が今現在、定まっていないのですが、このチームに入団すれば、なりたい自分や目標が見つけられそうだなと思います。チームが始動して3週間目になりますが、選手やスタッフがとても前向きで、すでにいいチームだなと実感しています。なるべく早く少しでもチームの力になれるように、日々の練習やこれから始まる仕事に全力で取り組みたいと思います。今季も応援よろしくおねがいします」

――どんな社会人になりたいですか?
「私は横浜FCシーガルズ時代に4年間、社会人として働いていたんですが、サービス業で働くのが初めてなので。お客さまとの関わり方や、同じ一緒に働いているひととたくさんコミュニケーションをとって、自分らしさを出していければいいなと思います」

○濱名花子(はまな・かこ)MF/DF #6
「(このチームに決めたのは)仕事とサッカーの両立を応援してもらえる環境にあると感じたからです。働きながらサッカーをしている選手の中には、サッカーをするために働いている人、働かなくては生活ができないから、しょうがなく仕事をしてる人など様々な人を見てきました。しかし、私はそうではなく、社会経験を通じて人間力を高めたいと思っています。そのために仕事をしていろんなことを吸収していきたいです。人間力があるからこそサッカー選手としても成長できる。逆に人間力が低ければ、どれだけいいものを持っていても、選手としては一流にはなれないこと。これは私が大学4年間で学んだことです。サッカーで学んだことを職場で。職場で学んだことをサッカーへと、お互いに活かしながら成長していきたいと思います。だから、両立しなければならないではなく、両立を応援していただける、FCふじざくら山梨に入団を決意しました。創部当初から練習試合や、公式戦など対戦相手として関わらせていただきました。その中で、ユニフォームにつくスポンサーの数や、応援に来てくれてる方々が年々増えていくのを側で見てきました。周りの方々のサポートを受け、成長している姿を見て、山梨から愛されるチームになっているなと感じていました。そのようなチームの一員になれてとても嬉しいですし、これからは私達が歴史を作っていきたいです。今はなでしこリーグ参入に向け、チームに貢献したいという気持ちで溢れています。精一杯がんばります。応援よろしくお願いします」

――どんな社会人になりたいですか?
「私は、気付ける人になりたいです。私が社会人として尊敬している人の共通点は気づきが速いことです。誰かが困っていることや、必要としていることに敏感で、それに対していち早く気づいて行動できるので、私もそういった人になりたいと思っています」

○大宮 響夏音(おおみや・ひなね)GK #12
「私はこのチームの練習に参加させてもらった際に、選手のみなさんが温かく迎えてくださったことがきっかけで、このチームで一緒に成長したい。プレーしたいと思い、入団させていただくことになりました。FCふじざくら山梨では、選手としても、社会人としても成長して自分のことを知ってもらえるよう、一生懸命にプレーして一生懸命に仕事して、ふじざくらを応援してくれる一人でも多くの方々から、たくさんの応援していただけるよう、目指していきます。よろしくお願いします」

――どんな社会人になりたいですか?
「まだ社会経験がないので、まず慣れることを目標に、目上の方や、大人の方々とコミュニケーションを取れるようにがんばっていきたいと思っています」

○中村友香(なかむら・ゆうか)MF/SB #11
「理由は、山梨県の帝京第三高の出身ということもあり、その時からこのチームに興味を持ちました。そして、私自身なでしこリーグでプレーしてみたいという思いがあり、このチームの目標であるなでしこリーグ昇格に少しでも貢献したいと思い、このチームを選択しました。また、サッカーだけでなく。プレイングワーカー、一人の社会人として、仕事も精一杯取り組んでいきたいと思います。社会人1年目は様々な挑戦をして、人としても成長していきたいです。精一杯がんばりますのでこれからもFCふじざくら山梨の応援をよろしくお願いします」

――どんな社会人になりたいですか?
「与えられた仕事を100%でこなすのはもちろんなんですが、100%だけでなく、それにプラスアルファして120%で取り組んでいきたいというのが私の目標です。人としても社会人として、成長できる場だと思うので、人間として、人として成長したいと考えています」

○脇田紗弥(わきた・さや)FW/SH #14
「今年は関東リーグ2部と、力を付けているチームで、練習参加した時に、足元の技術、シュートの威力などの違いを肌で体感して、このチームでうまくなりたい、上に行きたいという気持ちが強くなりました。またオフザピッチの面でも選手の皆さんはとても優しく迎えてくれて、入団を決めました。入団した今季はスタメン出場にこだわりたいと思っています。具体的な目標として、90分プラスアルファ走りきれる体力を付けることなどで、まずはスタメンで出れることを常に目標として努力したいです。社会人としては、自分の思っていることを、自分の言葉で発言できる力を身に着けたいです。今の場面もそうですが、社会人になって思っていることを発言しなければいけない場面がたくさんあると思います。なので、その時にしっかり答えられるようにしたいと思っています。サッカー選手としても社会人としても成長できる場所が、FCふじざくら山梨だと思います。たくさんのことにチャレンジして行きたいです。よろしくお願いします」

――どんな社会人になりたいですか?
「社会人としては自分の思っていることを発言できるようになりたいです。FCふじざくら山梨に入団して、SNSの活動を積極的にしたり、職場ではたくさん色々な人とコミュニケーションを取るなどして、そういう力を身に着けていきたいです」

 質疑応答中には、地域貢献活動についての質問も出た。

 出口選手は「山梨のたくさん美味しい野菜とか、果物を全国の人に届けられるように。山梨の名前を知ってもらえるように、活動できたらと思っています」と回答。しばらく考え込んだ大宮選手は「オフザピッチの面で、いろんなことに興味があって、いまふじざくらがやっている活動にも興味があるんですが、山梨には美味しいご飯とか、いいところがたくさんあると思うので、自分はそれを知って行って、若い人にも同じ年代の人にも、SNSとかで発信して、山梨のいいところをたくさん知ってもらってそこで地域貢献をしたいと思っています」と答えていた。

 また「教員免許を持っていたり、キッズリーダーや、B級の資格もある」と話す脇田選手は、それらを活かして、「子どもたちにサッカーの楽しさを教えていきたいです」と話していた。

共に夢を見る

 FCふじざくら山梨は決して大きなクラブではない。コロナ禍の現状、無料で開放された試合に100~200人程度があつまればいい方だ。それでも創部初年度を山梨県女子サッカーリーグ2部からスタートさせたチームは昇格を重ね、創部4年目の今年は主戦場を関東女子サッカーリーグ2部に移している。最終目標のWEリーグから数えて5つ目のディビジョンで戦う今季、入れ替え戦を経てなでしこリーグ2部入りを果たすことができるのだろうか。

「最後になるが、女性特有のキャリアパスについて触れさせていただこうと思う。多様な生き方があることを尊重しつつ、あえて書かせてもらえれば、多くの女性にとって出産、育児という人生を左右する大きな出来事と向き合う時が来る。代表クラスのママさんサッカー選手は話題に上ることはあるが、多くの女性にとってそれが簡単に超えられるハードルではないのも事実だ。」

いずれにしても今季の彼女たちの戦いはすでに始まっている。それぞれの目標に向けての日々を見守りたいと思う。

(文/江藤高志・写真/北原基行)

By サッカーキング編集部

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