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【コラム】アジア大会で「エース」の役割を…スピードスター・前田大然が見据えるA代表と“先輩”

2018.08.08

快速を武器にする前田 [写真]=Getty Images

 8月4日、千葉・フクダ電子アリーナで行われたJ2第27節・ジェフユナイテッド千葉戦。松本山雅FCは、かつて自チームの背番号10をつけてJ1初昇格の立役者となった船山貴之にPK弾を決められ、前半から苦境に陥っていた。そんな前半終了間際の45分、右の岩上祐三の絶妙のタテパスに反応し、ベテランDF近藤直也を抜群のスピードでぶっちぎり、豪快な右足シュートを決めたのが、弱冠20歳のスピードスター・前田大然だった。

「千葉さんには研究されていたけど、DFと一緒に走り出せれば勝てるって自信があった。ただ、中に永井(龍)選手がいたけど、僕には見えていなかった。そこを見れるようになればもっと幅が広がるのかなと思いますね」と坊主頭の背番号7は恐縮していた。


 1-1に追いつく同点弾は松本に前向きなムードをもたらし、後半に入ると岩上と岩間雄大が立て続けに追加点を奪う。結果的に決勝弾となった岩間の3点目は前田が右から送ったクロスが起点になったものだ。自ら得点を奪うだけでなく、チャンスメークにも絡めるところをしっかりと示した若きFWはチームの3-2の逆転勝利とJ2首位キープに貢献。同時に「U-21日本代表エース」の座に名乗りを挙げたのだ。

 森保一監督がU-21とA代表を兼務することになって初めての公式大会であるアジア大会(インドネシア)は、非常に注目度の高いトーナメントだったが、Jリーグが佳境を迎え、欧州リーグも開幕前後ということでベストメンバー招集は叶わなかった。FW陣は小川航基(ジュビロ磐田)や田川亨介(サガン鳥栖)、堂安律(フローニンゲン)や久保建英(FC東京)も参戦せず、リストに名を連ねたのは前田と旗手怜央(順天堂大)、上田綺世(法政大)の両大学生の3人だけ。それだけに前田に託される期待は大きいのだ。

 日本は14日のネパール戦を皮切りに、16日のパキスタン、19日のベトナムと1次リーグを戦い、上位2位に入ればラウンド16に進出できる。森保監督は「ベスト4以上」を目標掲げているが、U-21で挑む日本に対し、ライバル国はU-23で戦ってくる。アジア大会優勝で兵役免除になる韓国はA代表のスターであり、イングランド・プレミアリーグで活躍するソン・フンミン(トッテナム)をメンバー入りさせるほどの本気モードで来る。

 4年前の2014年仁川大会でも、日本はまだU-21だった遠藤航(シント・トロイデン)、大島僚太(川崎)、植田直道(セルクル・ブルージュKSV)らで挑んだが、ベスト8で韓国に0-1で完敗。2010年広州大会に続く連覇は果たせなかった。戦力的に厳しい今回もタイトルに手が届く可能性は高いとは言えないが、前田が50メートル5・8秒の爆発的スピードで相手を凌駕してくれれば、サプライズを起こせる可能性もゼロではない。

「山雅にもアジア大会に出ている選手が何人かいて、優勝している選手(當間建文)もいるので、僕たちも優勝したい。自分はFWなんで、ゴールを取れれば勝てると思う。他のFWでどれだけすごい選手がいようが、ゴールを取れれば代表にも入り続けると思うんで、もうゴールだけ狙っていきたいと思います」と前田は貪欲さを前面に押し出した。

 今季のJ2では、まだ6ゴールと得点ランキング上位には顔を出せていない。松本でも8得点のセルジーニョに次ぐ数字。まだまだエースFWとは言い切れない状況だ。それでも2008年北京五輪代表を率いて岡崎慎司(レスター)や長友佑都(ガラタサライ)ら隠れた原石を発掘した反町康治監督も「大然は攻撃力も守備力もある。ボールを止める蹴るが課題ではあるが、口酸っぱくしてトレーニングでやらせることで少しずつよくなってほしい。1試合40回以上のスプリントができるし、後ろにも下がりながら走れる選手なんで、まだまだ伸びしろがあると思う」と非凡な可能性を感じている様子だ。

 森保監督も同じようなポテンシャルと感じていると見られるだけに、今回のアジア大会でどこまで強烈なインパクトを残せるか否かで、今後のキャリアも大きく変わってくる。東京五輪代表入りはもちろんのこと、A代表へのステップアップの道も開けてくるかもしれない。仮に前田がA代表入りのチャンスを与えられた場合、超えなければならないのは、同じスピードスターの浅野拓磨(ハノーファー)だろう。浅野は今回のロシアワールドカップには最後の最後で落選したが、昨年8月の最終予選大一番・オーストラリア戦(埼玉)で値千金の先制点を挙げるなど、ここ一番での勝負強さを備えている。新天地・ハノーファーでもプレシーズンから絶好調で、今季は大活躍する可能性も少なからずある。森保監督のサンフレッチェ広島時代の秘蔵っ子でもあり、信頼関係も強固なものがあるだけに、同タイプの前田は違った魅力を示し続けていかなければならない。

 さしあたって今目指すべきなのは、松本でコンスタントな結果を残し、U-21日本代表定着を果たすことだが、3つ年上の浅野はそんなに遠いところにいる選手ではない。その領域を目指して、自らの強みである速さに磨きをかけ、決定力や足元の技術という課題を克服していくこと。そしてインドネシアで目覚ましい働きを示すこと。新世代のスピードスターにはそれを強く求めたい。

文=元川悦子

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