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【コラム】化学変化もたらした乾&香川、“生かし生かされる”2人が見出した可能性

2018.06.13

勝利の立役者となった乾(左)と香川(右)[写真]=Getty Images

 5月30日のガーナ戦、6月8日のスイス戦を0-2と、西野朗監督体制発足2試合を続けて無得点で落としたことで、1週間後の2018 FIFAワールドカップ ロシア初戦のコロンビア戦に向かう日本代表には暗雲が立ち込めていた。

 嫌なムードを払拭するためにも、本番前最後のテストマッチであるパラグアイ戦は何としても得点がほしかった。が、今回も前半終了時は0-1。またも不用意なミスが出て、ビハインドを強いられたのだ。このままだと直近2試合と同じ道を辿ってしまう……。まさに崖っぷちに追い込まれたチームを救い出したのが、2列目の左に入った乾貴士(ベティス)とトップ下に陣取った香川真司(ドルトムント)の好連携だった。


 後半立ち上がりの51分、昌子源(鹿島アントラーズ)がボールを持ち上がり、中央に位置した香川に縦パスを送った瞬間、ロシア大会最軽量アタッカー・乾は迷うことなく抜け出した。パスを受け、自らドリブルで突き進み、ペナルティエリア少し手前の位置から右足を一閃。値千金の西野ジャパン初ゴールを奪うことに成功した。この12分後にも、背番号14は再び香川との連携から追加点を叩き出す。右サイドを抜け出した武藤嘉紀(マインツ)の折り返しを背番号10が流し、中央に侵入してきた乾が右足シュート。見事にネットを揺らしたのだ。最終的なスコアは4-2となったが、この逆転弾がなかったら、日本は喉から手が出るほどほしかった白星を手に入れられなかっただろう。それだけ香川と乾がやってのけた仕事には大きな価値があった。

「真司とはセレッソでずっとやっていた選手なのですごくやりやすいし、2人で絡んで得点までつなげられたのはすごく良かった。前半も自分に預けてその後、真司が回ったりとかいろいろなパターンがあったし、そういうのをもっと増やしていければ崩せるんじゃないかという手応えはありました」と乾が前向きに言えば、香川も「乾とは本当に長年やってる分、プレースタイルをよく知っているし、チームの一つの武器になることを今日証明できたと思う。監督が変わって攻撃のベースがない中で、(乾との連携で)一つのベースを作り出していきたいと思ってました」と自信を覗かせる。息の合った2人のユニットが、停滞しがちだった日本の攻撃を活性化したのは間違いない。彼らがロシアW杯を戦うチームの希望の光になったことは確かだろう。

 乾が言うように、かつて2人はセレッソ大阪の2枚看板として君臨した。圧巻だったのはJ2を戦った2009年。27ゴールを挙げた香川はJ2得点王に輝き、乾も20得点という目覚ましい数字を残すことに成功した。彼らが日本代表入りしたのもセレッソ時代。2010年の南アフリカW杯参戦は叶わなかったものの、「2014年ブラジルW杯に向かう日本代表では揃って攻撃の軸を担うようになるだろう」という見方も出ていた。

乾貴士

C大阪時代からコンビネーションは抜群だった [写真]=J.LEAGUE

 そのアルベルト・ザッケローニ監督時代の4年間を振り返ると、香川はエースナンバー10を背負ったが、乾は思うように定着が叶わなかった。たまに招集されても、同じ4-2-3-1の左MFを争う間柄だったため、共演は叶わず。結局、乾のブラジル行きは実現せずじまい。香川は大舞台に挑んだものの、第2戦のギリシャ戦でスタメン落ちを強いられるなど、屈辱ばかりを味わうことになった。続くハビエル・アギーレ体制では、香川がインサイドハーフ、乾が左サイドで共演する機会に恵まれたが、2015年のAFCアジアカップの8強敗退直後に指揮官が解任。2人のユニットは完成されることなく終わった。その後のヴァイッド・ハリルホジッチ前監督時代も一緒にプレーするチャンスが少ないまま年月が経過。確固たる関係性を構築し切れないまま、2018年まで来てしまった。

 乾はまさに紆余曲折の10年間を強いられたが「僕は1人で縦に仕掛けるタイプではなくて、周りと連動しながら攻撃を作っていきたいタイプ。真司とは特に一緒にやりたい」と熱望し続けていた。「真司は雲の上の存在というか、自分よりはるかに上の存在。それは認めざるを得ない。同い年だけど尊敬できるし、ちょっとでも追いつきたいという気持ちでやってきた」と常に盟友の背中を追い続けてここまで来たという。その思いを香川の方もしっかりと理解し、お互いに“生かし生かされる”関係を構築すべく努力を重ねてきた。それがロシアW杯直前の重要局面でとうとう明確な一つの形になった。今回の2つのゴールは乾と香川にとっても、西野ジャパンにとっても非常に大きな意味を持つものだと言っていい。

「これをやり続けないと意味がないんで。次はより厳しい戦いになりますし、また気を引き締めてやりたいなと思います」と香川はここからが本当の戦いだと自分に言い聞かせるように話した。それも前回の失敗を痛感しているから。直前テストマッチであるザンビア戦で4-3と派手な打ち合いを制し、自身もゴールを挙げながら、ブラジルの地では全くと言っていいほど仕事ができなかった。その二の舞を繰り返さないためにも、誰よりも息の合う同い年のアタッカーとのコンビをより成熟させ、完成度の高いものにしていく作業が強く求められる。

 乾にしても30歳にして初のW杯に向かうことになるが、香川のサポートを受けられることは力強い材料に他ならない。このパラグアイ戦のような思い切りの良さとフィニッシュの精度を前面に押し出せれば、何かを起こせる可能性は少なくない。「乾+香川」の化学反応がロシアの大舞台でどう出るか。いずれにせよ、日本攻撃陣の成否を左右する2人のユニットの動向から目が離せない。

取材・文=元川悦子

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