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【コラム】ロシアW杯最軽量ドリブラー乾貴士、完全復活で“負の連鎖”を断ち切れるか

2018.06.11

パラグアイ戦では先発出場に期待がかかる [写真]=Getty Images

 8日のスイス戦(ルガーノ)の55分、宇佐美貴史(デュッセルドルフ)に代わってピッチに送り出されたのが、乾貴士(エイバル→ベティス)だった。

 右太もも前打撲の影響で、2018 FIFAワールドカップ ロシア本大会に向けて5月21日からスタートした国内合宿では期間中通して別メニューを強いられ、30日のガーナ戦(日産)も出番なしに終わったことから、一時は落選危機もささやかれていた。それでも西野朗監督は「個で打開できる選手」と彼を絶賛し、最終登録メンバーに残した。その後、オーストリア・ゼーフェルトでの直前合宿ではようやく全体練習に合流。スイス戦でついに実戦の場に戻ってきたのである。

「コンディション的には問題ないです」と言い続けた背番号14は出場するや否や、右サイドを駆け上がった酒井宏樹(マルセイユ)のクロスに反応し、ファーサイドからゴール前に飛び込もうとする。ボールには触れなかったが、持ち前の動き出しの速さを印象付ける。ロシアW杯出場全選手の中で最軽量の彼と、長友佑都(ガラタサライ)という小柄な左のタテ関係が、重量感のあるジェルダン・シャチリ(ストーク)とシュテファン・リヒトシュタイナー(ユヴェントス→アーセナル)からなる相手右サイドを封じるのは至難の業だったが、守備への献身的姿勢も強く押し出した。

 ただ、出場35分間で最大の武器であるドリブル突破をあまり見せられなかったのは、やはり悔いが残る部分。「何個かいいシーンがあって、ボールも来ましたけど、そこで何もできなかった。もうちょっと仕掛けてもよかったのかなと思います」と本人も悔しさをにじませた。それをいかに発揮して、攻撃を活性化させるのか。ゴールに直結する仕事を見せるのか。それが乾貴士に課せられた最大のタスクと言っていいだろう。

乾貴士

スイス戦で実戦復帰を果たした [写真]=Getty Images

「このチームは細かくやるのが好きな選手が揃っていますし、自分もそうですけど、広く使うコートがあるし、フットサルをやっているんじゃないので、もっと外を有効に使わないともったいない。狭いところだけじゃ、なかなか相手も崩れないし、サイドに揺さぶった時がチャンスになる。それは自分だけじゃなくて佑都君も分かっている。2対1になる状況も増えるので、そういうのをやっていきたい」

 彼はスイス戦後にこう強調していたが、確かにもっと外を広く使わなければ、“各駅停車”のパス回しだけに終始してしまいがちだ。乾自身のドリブル突破もよりスペースがある時の方が生きる。エイバルでも左サイドをタテヘ、タテヘと突進していくプレーが随所に見られたが、そういうシーンをどう出していくのか。その解決策を19日の初戦・コロンビア戦(サランスク)までに見出すことが、乾にとっても日本のとっても重要なカギになると言っていい。

 ここまで西野監督は「3-4-3」の左シャドウや「4-2-3-1」の左MFにガンバ大阪時代の秘蔵っ子・宇佐美を重用してきたが、背番号11は特にスイス戦で精彩を欠いた。前からのプレッシングも運動量と迫力を欠き、ゴールに迫る部分でも勢いを見せられなかった。そんな状況だからこそ、乾に託される役割は大きい。12日のパラグアイ戦(インスブルック)では先発出場濃厚と見られることから、そこで宇佐美との違いを見せつけると同時に、自身が提言していた広くサイドを使った攻めを繰り出すことが必要不可欠だ。長友とのタテ関係で日本攻撃陣を活性化し、ここ2試合遠ざかっているゴールを奪うことができれば、本番に向けてかすかな希望も見えてくる。その突破口を開くとしたら、遅れてきた男・乾貴士ではないだろうか。

 奇しくも8年前の南アフリカW杯でも、国際合宿をケガのリハビリに費やしながら、直前合宿地・サースフェーで一気にコンディションを上げたのが松井大輔(横浜FC)だった。松井は直前テストマッチ3試合はすべてスタメンから外れたが、南ア入りした直後のジンバブエとの練習試合で右MFのポジションを手にし、初戦・カメルーン戦(ブルームフォンテーヌ)で本田圭佑(パチューカ)の値千金の先制弾をお膳立てした。そうやって意外な人間がチームをガラリと変えるというのは、W杯という大舞台ではしばしば起こり得ること。今回で言えば、松井と全く同じ軌跡を辿っている乾が最有力ということになる。そういう意味でも期待は大きい。

 さらに言うなら、今の乾は以前のように自分のことだけを考えるエゴイスト的なタイプではなくなっている。そこも彼のアドバンテージだ。スイス戦後も「攻撃の方向性? それは俺が決めることじゃないけど、言わないよりは言った方がずっといい。自分が出た時は言っていこうと思っていますし、練習からもずっと言っています」と彼なりにチームをよくしようと躍起になっている。それが今月2日に30代の大台を迎えた男が感じる責任なのかもしれない。もちろんエイバルで明るくオープンになり、何事も前向きに行動できるようになったことも大きいが、そういう人間的成長もここで生かすべきだ。

 いずれにしても、誰かがこの“負の連鎖”を断ち切るきっかけを作らなければ、日本はこのままズルズルと最悪のシナリオを突き進んでしまう可能性もゼロではない。初代表から10年越しでW杯行きの切符をつかんだ乾に、その救世主になってほしいものである。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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