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【コラム】真価発揮へ…成長著しい“新世代のダイナモ”井手口陽介、代表初先発なるか

2017.06.13

シリア戦でA代表デビューを飾り、大きなインパクトを残した井手口陽介 [写真]=Getty Images

 日本代表の2018 FIFAワールドカップロシア出場権獲得の行方を大きく左右するイラク戦(テヘラン)が13日に迫ってきた。彼らは9日に現地入りし、トレーニングを行っているが、7日のシリア戦(東京)で右すねを強打した山口蛍(セレッソ大阪)が8日から10日の練習を3日連続で欠席。11日は復帰したものの、別メニュー調整を強いられており、大一番出場が危うくなってきた。

 そうなると、代役筆頭はシリア戦で途中出場した井手口陽介ガンバ大阪)。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が前回と同じ「4-3-3」を採る場合はアンカー、本来の「4-2-3-1」を採用する場合はダブルボランチの一角を占めることになる。もう2枚の中盤はG大阪のチームメイト・今野泰幸と、G大阪ジュニアユースの先輩に当たる本田圭佑(ミラン)だろう。経験豊富な30代のベテラン選手たちのサポートを受ければ、次が国際Aマッチ2試合目となる20歳のダイナモも平常心でプレーできる可能性が高そうだ。

「(山口選手の欠場?)そのことは分からないので、いつ言われても行けるようにしっかり準備をしておきたい。シリア戦は今野さんや秋(倉田=G大阪)君がカバーしてくれるとイメージしていたので、どんどん前に行こうと思っていました。本田選手との連携はまだまだだと思うけど、何がやりたいのかを聞き出していけばいい。自分としてはボールを奪ってからの攻撃参加をどんどん出していきたいです」と井手口はどんな状況で投入されてもベストを尽くす覚悟だ。

「井手口はジュニアユース時代から飛びぬけていた」と同期の鎌田大地(サガン鳥栖)が言うように、彼は中学生の頃から傑出した才能を誇る選手だった。U-16代表候補、U-19代表、リオデジャネイロ・オリンピックと年代別代表を順調にステップアップしてきた彼だが、10代の頃はメンタル的な不安定さが懸念された。人見知りが激しいうえに感情の起伏も大きく、監督によっては使いづらさを感じるケースも少なくなかったようだ。U-16代表時代には合宿中のJグリーン堺からそのまま帰ってしまうという大胆行動に出たこともあったという。結局、代表からも外れることになり、2013年のU-17ワールドカップ(UAE)には出場できなかった。

 トップ昇格後も人見知りの性格はなかなか治らず、A代表初招集だった昨年11月のオマーン(カシマ)・サウジアラビア(埼玉)2連戦の時も人前で話すのが苦手な様子だった。が、今回の代表シリーズでは自分からメディアに対して頑張って話そうという姿が目につく。年長の選手たちに対しての立ち振る舞いも前向きに変化した印象だ。それも今季のG大阪で中心的な存在になった自信の表れなのだろう。

 シリア戦のパフォーマンスは非常に積極的で、物怖じすることなく相手と間合いを詰めてボールを奪いに行っていた。宇佐美貴史(アウクスブルク)も「陽介の特徴である相手を刈りに行くプレーがよく出ていた」と絶賛していた。後半は相手のペースダウンも追い風となったが、先発した山口以上の輝きを放ったといっても過言ではないほどだった。

「前回呼ばれた時はすごくレベルの差を感じたし、悔しい思いもした。今回は少しでもその差を縮めていけるように頑張っていきたいと思ってやってきました。一番感じたのはプレースピードや判断スピード。それを含めて全部です」と本人も約半年前に覚えたショックの大きさを口にする。その基準に達しなければ、日本代表に定着することはできない。そう痛感した20歳の若武者は意識を高く持ち続けてきた。だからこそ、ハリルホジッチ監督の評価がここへきて急激に上がったのだろう。

 気温35度超の猛暑に不慣れなピッチなど今回のイラク戦は困難な要素が山積している。昨年9月のUAE戦(埼玉)でいきなりスタメンに抜擢された大島僚太(川崎フロンターレ)より状況的には難しいかもしれない。最終予選初戦の重圧が重くのしかかった大島は2失点に絡むミスを犯し、重要な初戦黒星に直接関わってしまったが、井手口はその教訓を生かしてプレーするしかない。A代表経験が多かろうが少なかろうが、やるべき仕事をこなすのが代表選手の責務。それは間近で遠藤保仁や今野といった代表選手を見てきた彼にはよく分かっているはずだ。

「まだまだ代表チームの戦術を理解し切れていない部分があるので、求められていることをしっかりピッチで表現していきたい。中東の選手は体が強い選手が多いし、シリア戦では詰めの部分で甘さを感じたので、もっと詰めてボールを奪えるようにしたいです」と井手口は頭を使いながらイラクに真っ向から勝負していこうとしている。このトライが成功すれば、日本のボランチ問題に光明が差すのは間違いない。

 まだ山口先発の可能性は捨てきれないが、井手口に出番が与えられた場合には、日本の勝利に直結するような力強いパフォーマンスを見せてほしいものである。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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