2015.11.01

人生初のSBでもがいたU22代表候補初選出の中野嘉大…悔しさを糧に

中野嘉大
U-22日本代表候補に初招集された中野。練習試合ではSBとして出場した
サッカーキング編集部

 スルスルとドリブルでペナルティエリア内に侵入する。相手をかわしながら自信を持って仕掛ける。左サイドから切り込んでシュートを放つ——。そんな中野嘉大の姿を見ることはなかった。だが、己の殻を破るチャンスを迎えているのかもしれない。

 リオデジャネイロ・オリンピック出場を目指すU-22日本代表候補は10月25日から29日までの5日間、佐賀市内で強化合宿を実施。川崎フロンターレのルーキー・中野嘉大が、手倉森ジャパンの新戦力として初招集された。リオ五輪アジア最終予選を兼ねたAFC U-23選手権カタール 2016を来年1月に控えた貴重な合宿で、「手元に置いてみないと分からない」(手倉森誠監督)とチームで好調を見せていた中野に声がかかった。

 しかし、川崎ではサイドアタッカーとしてプレーしている中野が登録されたのはディフェンダーだった。本人は「監督の意図や評価された部分があるんだと思う。一番得意なポジションではないけれど、それでもしっかりアピールしたい」と合宿初日に意気込んだが、“人生初”のサイドバックという壁にぶち当たった。

 フォーメーション練習では、1回目こそ左サイドハーフ(SH)にポジションを取り、周囲との連係を見せたものの、合宿3日目の午前練習では左サイドバック(SB)に入った。その日の午後に行われた福岡大学との練習試合も左SBで出場。試合前には「僕の強みはドリブル。一人で局面を変えられるドリブルだと思っているので、ゲームの中でもしっかりと出していきたい」とアピールを狙っていたが、慣れないポジションに苦戦する。中野は「ドリブルをするチャンスもあったけれど、強引さが足りなかった。ペナルティエリア付近まで上がったらSBとかは関係ないし、そこでもっと自分のアイデアを出して打開したかった」と悔しさを吐き出した。今は与えられたポジションでアピールするしかない。そのことを十分に理解している中野は、「前でやりたい」という気持ちをグッと抑え、「満足のいくプレーをできていないので、手応えは全くない。やっぱりSBでも結果を残したかった。自分の持ち味は攻撃的なところなので、それを出したかった」とSBでアピールすることだけに集中した。

 中野の持ち味は小学校時代から磨いてきたドリブルだ。手倉森監督が思わず「ピッチで見るより細い(笑)」と口にしたほどの細身の体に力強さはないが、細かいステップで間をすり抜けるドリブルは相手守備陣に恐怖を与える。パスも多彩で、ゴール前で冷静な判断もできる。「もちろんピッチ上で大きく見えたからこそ招集した」と手倉森監督も新戦力に期待を寄せた。

 さらに今回、手倉森監督が最終予選に向けて「色々なオプションを試したいのはもちろん、(リオ五輪アジア最終予選の)集中開催では二つくらいのポジションをできる選手が絶対に必要」とユーティリティ性を求めていることは明確。合宿初日にはこんなことを言っていた。「中野にはどちらでもできるだろうという確認をした。左にこだわらないでくれ、とも伝えた」。つまり、中野がSBでも機能することをアピールできれば、メンバー生き残りの可能性は上がってくる。

 合宿4日目のフォーメーション練習で、指揮官はその言葉の通り右SBで試した。福岡大戦では攻撃に絡もうとするあまり、ビルドアップの際に上がり過ぎて守備面が疎かになっていた中野。「自分のサイドでかわされる場面やシュートを打たれる場面があった。まだ慣れていないところはあるけど、リスク管理やボールを繋ぐ意識が必要」と福岡大戦での反省点を踏まえて練習に取り組んだ。初めてのポジションをどうにかこなそうと、必死に向き合っていた。

 だが、自分の中で葛藤があったのも事実。得意のポジションで自分の武器を披露できない悔しさ、不慣れなポジション習得への戸惑い、そしてライバルたちが結果を出していることへの焦り——。特に、同じ初招集ながら福岡大戦で存在感を見せつけたMF関根貴大(浦和レッズ)の影響は大きいだろう。浦和では右ウイングバックだが、右SHで出場した関根は攻撃のリズムを生み出し、スピードに乗ったドリブルで好機を演出しようと奮闘した。手倉森監督も「4-4-2のサイドでも十分アクセントになれることが分かった」と納得の表情。ライバルの活躍を見て、「もちろん前でやりたい気持ちはある。攻撃の部分をアピールしたい」と歯がゆさばかりが募った。

 迎えた合宿最終日は、サガン鳥栖との練習試合に臨んだ。中野は62分から右SBで出場。終盤はMF喜田拓也(横浜F・マリノス)が負傷退場したため左SBでプレーしたが、ボールが回ってくる場面も少なく、アピール成功とは言い難かった。本人も「アピールできたかどうかは分からない。自分の中で初めてのポジションだったし、できた基準がよく分からない」と苦笑いを浮かべながら素直な感想を口にした。

 一方で、苦悩した5日間に大きな収穫もあった。一つは守備での課題がはっきりと見えたこと。「自分はやっぱり攻撃を得意とする選手で、いつも点を取ろうとやっているけど、守備面ではもう少し止められないといけない。前の選手を上手く使えるようになること、自分のところでもっと止められるようになること。慣れない競り合いでもボールを取れるようにやっていきたい」。中野の武器であるドリブルで、いかに攻撃に厚みを持たせることができるかは川崎で証明済み。そこに守備能力が加われば、それこそ手倉森監督が求めているユーティリティ性が高まり、最終メンバー入りの可能性も出てくる。

 もう一つは、実際に代表メンバーとピッチに立ったことで感じたものだ。5日間の合宿を終えた感想を聞いた時、次のような答えが返ってきた。

「新しいメンバーとやる中でも、自分を出さないといけないことを痛感した。今回、少しはできたと思うけど、他の選手を見ていると、急造で集まったとしてもやっぱり自分をしっかりと表現できていた。代表に選ばれる人はそういう選手。自分もチームでできているだけじゃダメだと思った。自分のスタイルを持ちながら、色んなサッカーに適応できる能力を高めたい」

 代表ではクラブと異なる戦術に短期間で順応し、指揮官が求めるものを表現しながら自分の持ち味を発揮しなければならない。ライバルたちとしのぎを削る中で、そのことを痛感したはずだ。中野の表情や口調からは「もっとやれたはず」という自責の念がうかがえた。

 今回、実戦で与えられたチャンスはごくわずか。しかも不慣れなポジションでのプレーだった。ただ、悔恨の思いはあれど下を向いている暇はない。不完全燃焼に終わった手倉森ジャパンでの経験を糧に自らの殻を破れば、もう一段階ステップアップできる。プロ1年目の中野が、初代表の場で味わった悔しさを成長へと変えていく。

文=高尾太恵子

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