香川(左)はチーム3点目を決めるも、前半の決定機を生かしきれず [写真]=兼子愼一郎
文=戸塚啓
6月のシンガポール戦から、変化を読み取ることはできたか。
引いた相手を崩す手立てに、バリエーションは見られたか。アイディアだけでなく思い切りや意外性はあったか。
日本は強さを示したか。
すべて答えは「NO」である。9月3日のカンボジア戦だ。
スコアレスドローに終わったシンガポール戦に続いて、この日も自陣ゴール前に貼り付いた相手と向き合った。いわゆる「ベタ引き」である。
ペナルティエリア内には、スペースも時間もない。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が求める「タテに速いサッカー」は、この試合でも相手を崩す有効策とはならない。それでも、公式記録が拾うだけで34本ものシュートを記録した。決定機と呼べるシーンも「10」を数えた。FW岡崎慎司とMF香川真司が前半の決定機を生かしていれば、最終的なスコアは3対0ではなく5対0か6対0になっていただろう。
試合後のハリルホジッチ監督は、「選手が少しプレッシャーを感じていたのかもしれない」と話した。ゴール前へ早く入り過ぎてしまい、シュートを打てるスペースを自分で潰してしまうことのあった岡崎やFW武藤嘉紀は、責任感がプレッシャーへと変質していたところがあった。前半の決定機で信じられないシュートミスをした香川も、この試合に賭ける意気込みが力みとなっていた。
シンガポール戦と同じ轍は踏まないという強い意思は、誰もが胸に抱くものだったに違いない。だからこそのプレッシャーなのだろう……が、相手はカンボジアである。FIFAランキング180位の格下だ。
ゴールをこじ開けるのは難しかったが、失点の心配はなかったと言っていい。許したシュートは1本だけで、それもリスタートからである。攻撃に専念できる意味では、攻めることに気持ちをまとめやすかったはずだ。
そう考えると、「この試合でプレッシャーを感じた」と指揮官の話すチームに、同情ではなく不安を感じざるを得ない。オーストラリア、イラン、韓国らを迎えたホームゲームで、果たして重圧を感じずにプレーできるのか。失点のリスクを管理しながら、得点を奪えるのかと思ってしまう。
日本がカンボジアから3点しか奪えなかったこの日、韓国はホームでラオスを8対0で一蹴した。ラオスのFIFAランクは174位で、カンボジアは180位である。似通った力関係の試合で、韓国は圧倒的な強さを示した。
日本のスタメンには、8人の欧州組が並んだ。帰国間もない彼らのコンディションはベストでなかったが、それなら韓国の欧州組も同じである。韓国の大勝が眩しく感じられるのは、僕だけではないだろう。
格下相手に力の差を見せつけたのは、韓国だけではない。
中立地のイランに台湾を迎えたイラクは、5対1の大勝を飾った。イランは6対0でグアムを退け、オーストラリアは5対0でバングラデシュの希望を打ち砕いた。サウジアラビアは東ティモールを8対0で粉砕している。
国際試合は勝利こそがすべてだ。エンターテインメント性は求められない。1対0でも10対0でも勝点は同じ「3」で、だからこそしっかりと勝ち切ることが大事である。
参加国を8つのグループに分けた2次予選は、グループ首位か2位の上位4カ国に入らなければならない。それが、最終予選に進出する条件だ。
2試合を終えて1勝1分けの日本は、シリア、シンガポールに次いで3位となっている。予選突破の圏外だ。複数チームが勝ち点で並んだ場合、得失点差が重みを持つ。
カンボジア相手に3対0という結果を、「勝てばOK」と片付けていいだろうか。僕にはそうは思えないのだ。