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胸に残るモヤモヤ感を払拭した吉田の一言…カンボジア戦の勝利が持つ意義とは

2015.09.04

右足で放ったミドルシュートはネットを揺らした [写真]=兼子愼一郎

文=青山知雄

「勝利を求めていた。そして勝利を手にした」

 3日のカンボジア戦を終えた日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、試合後の記者会見でこう切り出した。

 6月のシンガポール戦に引き分けたことで決定力不足が叫ばれ、国内組だけで臨んだ8月のEAFF東アジアカップ2015で未勝利のまま最下位に終わるなど、不甲斐なさが目立っていただけに、今回は人数をかけて守りを固めるであろうカンボジア相手にどんなサッカーをするのかが注目を集めていた。

 3カ月前の記憶が残る中、どこか重苦しい空気を含んだ試合で、日本代表がFIFAランキング180位のカンボジアから奪ったゴールは3つ。本田圭佑(ミラン/イタリア)が左足で豪快に撃ち抜いた無回転ミドル、オーバーラップした吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)が右足で放った低空ミドルシュート、そして前半に押しこむだけのビッグチャンスを外していた香川真司(ドルトムント)がペナルティエリア内でこぼれ球を蹴り込んだ一発だ。

 終わってみれば日本代表のボール支配率は73.9パーセントに達し、前後半合わせて計34本のシュートを放った。これだけ攻め込みながら、またしてもフィニッシュの精度を欠いたことで、脳裏に残る苦いイメージを払拭しきれなかったのは正直なところだ。42分には香川が押しこむだけのシュートを決めきれず、エース岡崎慎司(レスター/イングランド)は厳しいマークと密集したエリアで持ち味を発揮できないままノーゴールに終わった。ミドルシュートを求めていたボランチの長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)と山口蛍(セレッソ大阪)が中距離弾を狙う機会は少なく、チーム全体として攻撃に迫力を欠いた感は否めない。シンガポールが4-0で勝った相手に3点しか奪えなかったという事実も残る。監督や選手たちは試合後に「もっと点を取れた」、「満足していない」と口をそろえていたが、実際に作り出したチャンスの数を考えると、「3ゴールでは物足りない」と考えるのは明らか。どこか不完全燃焼感が残る試合だったように感じられてならない。

 とはいえ、守りを固める相手からしっかり勝ち点3を得たという結果は評価されるべきだろう。シンガポール戦からの成長が感じられた部分はいくつもあった。

 立ち上がりから一方的に攻め込みながら得点が決まらなくても、焦らずに戦えたのは教訓の賜物だ。指揮官は同じ轍を踏まないために「6〜7つのソリューション」をチームに授け、ピッチ内での臨機応変さを求めた。そして選手たちは試合を支配しながら戦えば、必ずゴールを奪えるという信念を持って敵陣に攻め込み続けた。

 シンガポール戦のように前線に人が溢れかえって“渋滞”が発生することはなく、スペースを作る動きと周囲の動き出しを引き出す意識が感じられた。特に右サイドバックの酒井宏樹はニアとファーに蹴り分けるアーリークロス、ゴールライン際まで攻め上がっての鋭角の折り返し、さらには大きなサイドチェンジと、監督が授けたソリューションを意識しながら、前方で起点になってくれる本田とうまく連係して監督の狙いを忠実にピッチに落とし込み続けた。結果的に合宿開始から強く意識させてきたミドルシュートが2本決まったことは、ハリルの狙いが実を結んだ形とも言える。

 攻撃ばかりが注目されがちな試合だったが、その一方で守備面のアグレッシブさには目を見張るものがあった。奪われた瞬間に3人、4人と一気に襲い掛かるプレス、特に相手が少しボールを戻した瞬間に前線から複数の選手がプレスバックして奪い返した12分のシーンからは選手たちの意識の高さが感じられ、ハリルホジッチ監督も「本当に選手たちのスピリットが素晴らしかった。『6〜7秒で相手のボールを奪え』と言っていたが、3秒で奪っていた」と手放しで称賛していた。相手が攻め出てこない中で緩くなりがちな守備において高い意識を持ち続けたのは、ピッチで戦う選手たちの結果に対する執念の表れだったようにも思われた。

 記者会見で「もっと点を取って勝つのが理想だが、今夜はネガティブにはならない。選手たちにはおめでとうとだけ言いたい」としたハリルホジッチ監督だが、さらなる高みを目指す発言は忘れなかった。

「勝ったことには満足しているが、もっともっと得点は取れた。我々に厳しい要求を続けてください。チームはビックチャンスを作りつづけることが大事です。まだまだフィニッシュはハイレベルじゃないし、そこを含めていろいろな部分を伸ばさなければならない。私はどこを伸ばすべきかを完璧に分かっています。このチームはまだ伸びる。勝利のスパイラルを続けたいし、自信をつけたい」

 目指すべきところは、まだまだ先にある。かねてから指揮官はそう語ってきた。今は引いた相手を崩すことが求められているが、いずれ強豪国に対しての戦い方もポイントになってくるのは間違いない。チームとして結果を出して自信をつけながら、同時に課題を見つけながら、一つずつ進んでいくしかない。世界と戦って結果を出すためのハードル設定を下げることは決してない。その中でどんなトライを続け、何を得ていくかだ。

 状況は理解している。先を見据えなければならないことも分かっている。だが、どうしても気になっていたことがあった。「引いた相手を崩せない」と言われていた選手たちは、果たしてこの勝利でモヤモヤしていたものが晴れたのか。この疑問を思い切って吉田麻也にぶつけてみた。

 彼の解答は明快だった。

「これで一歩踏み出せたとは思います。ただ、シンガポール戦のあと、東アジアカップもあって、サポーターや日本国民の皆さんはかなり落胆していると思うので、僕らは『まだまだこれからだ』ってところを見せていかなければいけないし、自分たちでそれを証明していかないといけない」

 明らかに格下相手の勝利で「勝って当たり前」と言う人もいるだろう。それも間違いではないが、選手たちにとっては、とにもかくにもシンガポール戦から続いていた“ゼロの呪縛”からひとまず抜け出したことが大きな一歩なのだと思う。「勝ちながら課題を見つけて解決していけばいい」とは吉田と並んで最終ラインでバランスを保った森重真人(FC東京)の弁だ。そして本田は「もっと高いところを目指していかないと。勝った時にこそ厳しく、『なんで3点しか取れなかったのか』って見ていくべきだと思う」と意識の高さをうかがわせた。

 フィニッシュの精度、守りを固める相手への対応、強豪国との戦い方……。課題をクリアするために、また新たな課題が見つかるだろう。ポジショニングやコンビネーションなど細かな部分を上げればキリがない。これから取り組まなければならないことは多い。課題は山積だ。もちろん結果は重視すべきだが、必要以上に一喜一憂せず、覚悟を持って日の丸を着け、存在意義を証明していく選手たちの成長を見ることも重要となる。

 千里の道も一歩から。停滞していたチームが、ようやく動き出した。ハリルジャパン、ロシアへの旅はまだ始まったばかりだ。

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