日本代表サポーター歴約8年の福森正也さん
時に“12番目の選手”とも呼ばれる。ゴール裏で巨大なフラッグをはためかせ、圧倒的な熱量で声援をとどろかせて、サッカーチームを支える人々がいる。その熱さで選手とともに戦うサポーターの存在がなければ、サッカーの魅力も半減してしまうはずだ。日本代表の試合では、エースの本田圭佑を焚きつけるほどの情熱を持つというが、彼らを突き動かすものは果たして何なのだろうか。
◆巨大なスタジアムで、数万人の観衆を巻き込むのが自分たちの役目
「昔は、“僕たちコアなサポーターがメインになって応援しているんだぞ”っていう意識が強かったんです」
そう語るのは、日本代表サポーター歴約8年の福森正也さん(26)だ。現在は地元奈良のクラブチームの応援をベースに、日本代表のサポーターとしても活動している。サポーター活動を始めたのは、高校卒業とほぼ同じタイミング。日本代表サポーターである知人の誘いを受け、一緒に応援するようになったのだ。そこで、サポーターの真の役割に気づいたという。
「まだ地元リーグだった頃の奈良クラブのホームって、いわゆるゴール裏というスペースがほとんどないくらいの小さな競技場で。そんな環境で、当初は『自分たちが中心なんだ』という意識で応援し始めたんですね。それが日本代表の試合になると、埼玉スタジアムのように6万人もの観客が入る。そこで知ったのは、観客の大半は“受け身”であるということ。それに気づいた時、自分たちの役割は中心になって応援するだけではなく、応援の“伝道師”でなくてはいけないということだったんです」
インタビュー当日は、ロシアワールドカップ2次予選のシンガポール戦前日。試合前日にもかかわらず、福森さんを始め多くのサポーターが埼玉スタジアムに集結していた。コレオグラフィー、すなわち選手の心を高ぶらせるための横断幕を用意するためだ。選手同様、彼らの戦いもすでに始まっていた。
「今日は、6万枚のコレオグラフィーの準備があったんですよ。明日は大事なワールドカップ予選第一発目ということもあって、選手が入場してきた時にスタジアム全体をコレオグラフィーで染めて、『さあ、ここからがんばろう!』というメッセージを受け取ってもらえたらいいな、と思って」
試合に際しては、毎回応援の準備がある。また、練習に臨む選手たちに声援を送る必要もある。そのため、前日からスタジアムに集まることも珍しくないという。試合当日も夜のキックオフに備えて朝から集まり、横断幕や旗の設置場所の確認、打楽器の搬入など、詳細な準備と打ち合わせを行う。
「僕はまだ若手で、ようやく周りに認めてもらえるようになってきたかな、くらいの立ち位置」と謙遜する福森さんだが、試合が始まれば、サポーター達は彼に導かれるように声を張り上げる。
「最近は最前列で、メガホンを持ってコールやチャントを先導する役割をさせてもらっています。慣れない頃は、試合後によく先輩に怒られましたよ(笑)。『周りが見えていない』って。脚立に乗っているので、頭ひとつ分出ているじゃないですか。少しでも気を抜くと、表情でみんなに伝わっちゃうんですよ。なので、『僕が誰よりも一生懸命応援するから、みんなも一緒に乗ってくれ!』っていう気持ちを前面に押し出して、応援をするようになりましたね」
◆本田選手が上げた右手に、すべての想いを乗せて
そんなサポーターの熱心な応援に対し、選手はどんなリアクションを見せるのだろうか。福森さんの記憶の中には、忘れられない場面があるという。
「2012年の札幌ドーム、ベネズエラ戦でした。試合中、ゴール裏付近まで給水にきた本田圭佑選手に“ケイスケ・コール”をしたんですよ。そのコールの裏には、もっと力を見せてくれ、という本田選手を鼓舞するメッセージが込められていました。それを受けて、水を置いた本田選手がパッと右手を上げて呼応してくれたんです。まるで『わかったよ』という返事が聞こえてくるような仕草で……。本田選手ってクールなキャラクターみたいに言われていますけど、こんな風に熱く応えてくれる選手なんだ、この選手にはもっともっとがんばってほしい、そう思わせられた体験でしたね」
「小さなことなんですけどね」そう付け加えながら、懐かしそうに笑顔を見せた福森さん。声を枯らせた声援に選手が応えてくれることこそが、サポーターにとっては大きな喜びなのだろう。最後に、福森さんにとってのサポーター活動とは何なのかと尋ねてみた。
「自分自身の想いや感情、考えとか、そういったものを表現させてくれる、一番幸せな場所ですね。サポーターの中にも出身地域や年齢などいろいろなグループがあって、もちろん自分の意見を押し殺すことも時には必要なんですけど……。でも、お互いに言いたいことを言い合って、サポーターが一丸となってスタジアム全体を巻き込めるような応援ができて、最終的に選手が満足のいくプレーを見せてくれた時の喜びは、何にも代えがたいものなんです」
インタビュー・文・写真=波多野友子