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志半ばでの契約解除…アギーレ監督、日本代表に残した足跡と情熱

2015.02.05

アジアカップで日本代表を率いたアギーレ監督  [写真]=Getty Images

 会見直前、指揮官との契約解除を伝える1枚のA4用紙が配られた。大勢の報道陣が詰め掛け、熱気が充満していた会見場の温度が更に上昇する。

 3日、日本代表として初めてのメキシコ人政権は、突如として幕を下ろすことになった。

 かねてから、八百長関与の疑惑が伝えられていたハビエル・アギーレ監督。2日夜に検察側の告発が受理されたことを確認した日本サッカー協会は、3日の会議で指揮官との契約解除に踏み切った。

 電撃的な契約解除となったが、如何に苦渋の決断だったかは、会見に出席した大仁邦彌会長の表情が物語っている。硬い表情を崩さず、「手腕を高く評価しています」と繰り返した。就任から10試合で、6勝2分け2敗。初の公式戦となったアジアカップでは、5大会ぶりのベスト8にとどまった。

 結果だけを見れば、褒められたものではなかったかもしれない。しかし、1勝もできずに敗れ去ったブラジル・ワールドカップから、再びスタートを切った選手たちの感覚は異なっていたようだ。

 アジアカップ敗退が決まったUAE代表戦直後に、長谷部誠は「新しい監督が来て、新しいシステム、やり方でやって、手応えをもちろん掴んだ中でのこういう結果」と語った。本田圭佑は、優勝した前回大会との比較で、確かな思いを口にする。

「前回もよく優勝できたなというような形だったわけですし、クオリティやチームの完成度、戦い方という点においては、絶対に今回の大会の方が高かった」

 守備時は4-3-3、攻撃時は3-4-3の陣形をとる可変システムは、縦への早さを生み出した。自主性を重んじる指導法は、選手自らがピッチ上で判断して結論を出すため、各々の意識を高める意味もあった。

 そして、選手たちの心に突き刺さった、指揮官の底知れぬほどの情熱も無視はできない。

 アジアカップに向けた合宿は、八百長疑惑が世間を騒がせる中でのスタートとなった。疑念の視線が注がれていた初日、指揮官から説明を受けたことを長谷部が練習後に明かしている。

「本当に監督もサッカーを愛しているというか、サッカー人なので。『私はサッカーに対する裏切りはしない』と。そういう意味で、選手たちもサッカー人というか、サッカーバカみたいなものなので、そこでは通じるところがありました」

 アジアカップ敗退直後、会見に臨んだアギーレ監督は勝利こそ挙げられなかったが、UAEを圧倒した内容を誇るかのように「上を向いてこれからも続けていきたい」と口にした。敗れてもなお、顔色を変えずに淡々と語る口ぶりは、歩む道は誤っていないという絶対的な自信すらも感じさせた。大会を通じて、6月から始まるワールドカップ予選に向けた確かな手応えを掴んでいた様子にも見える。

 約半年前、真夏の日本に降り立った指揮官は、「次のワールドカップを目指すことは、自分にとって非常に価値ある仕事だと思って今回のオファーを受けることにした」という言葉をはじめ、2018年のロシア・ワールドカップへの思いを何度も口にしていた。

 アジアカップの借りを返す絶好の機会ともなり、チーム作りも深化していよいよここから――。ところが、そのワールドカップこそが、契約解除の大きな要因になったことは、何とも皮肉だった。大仁会長が説明する。

「我々、日本サッカー協会にとって最大のミッション、使命はワールドカップへの出場ということ。2018年のロシア・ワールドカップの出場権を何としても獲得しないといけない。その予選が6月から始まる。今回の告発の受理によって、これから捜査が始まり、その後には起訴され、裁判が始まる可能性があります。我々としましては、こういう影響がワールドカップ予選にできるだけ出ないように、リスクを排除する必要があると考えました」

 選手とコーチとして1度ずつ、監督として2度のワールドカップを経験してきた指揮官である。大舞台の尊さは言うまでもなく身に染みているはずだ。昨年9月のスペインでの第一報以降、どれほど報道が過熱しても一貫して関与を否定しながら、3日に大仁会長から決断を伝えられた際は、契約解除にも「やむを得ない」と同意するしかなかったのだろう。

 告発受理こそされたが、アギーレ監督は現時点では有罪どころか起訴もされていない。日本サッカー協会も、「推定無罪の原則ということで、有罪ということを前提に契約を解除したということではない」と強調する。大仁会長も、「アギーレ監督にとって、名誉に関わる大変重要な問題であるという風に思っております。従いまして、アギーレ監督には無実の証明に全力を尽くして欲しいと我々は考えています」と願いを込めた。

「プロサッカーにかかわって39年。スペイン、メキシコ、アメリカ、日本。その39年間、汚点は全くない。その点は信じてもらいたい」

 老兵は死なず、ただ消え去るのみ――。半年前、鬼軍曹と恐れすら抱かせながら就任したメキシコ人指揮官は、確かな足跡を残し、誇りを失うことなく、日本での挑戦から身を引くことを余儀なくされた。

文=小谷紘友

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