アジアカップに向けた国内合宿の初日に臨んだ長谷部誠 [写真]=小林浩一
ハビエル・アギーレ監督が2011年5月、指揮していたサラゴサ対レバンテの八百長試合に絡んだとされる疑惑が完全に晴れない中、日本代表は2015年アジアカップ(オーストラリア)に向けて29日に本格始動した。
しかしながら、物々しい雰囲気に包まれた周囲とは対照的に、指揮官と吉田麻也(サウサンプトン)を除くメンバー23人とサポートメンバーの牲川歩見(ジュビロ磐田)、中島翔哉(FC東京)を加えた合計25人の選手たちは、1時間半のトレーニングをごく普通に消化した。最後の3対3のフットバレーでは、多くの選手から笑顔がこぼれる場面も見られた。
前向きなムードが生まれた背景には、練習開始前、指揮官が自らで全員の前で潔白を主張したことが大きいだろう。アギーレ監督の話を聞いて、安堵感を覚えた選手も多かったという。キャプテンを務める長谷部誠(フランクフルト)も、ミーティングでの説明をポジティブに受け止めた1人だ。
「監督が直接、話してくれることによって、やっぱり僕たちの心の中に入ってくる。そういう言葉が沢山聞けました。今までは間接的だったけど、監督から直接言葉を聞いて、ミーティング後の選手たちの表情を見ても、さまざまに熱いものを感じたと思った。チームは間違いなく同じ方向に向けてる。もちろん自分たちの信頼する力も試されてるけど、チームを作るうえで、お互いが信頼してやっていくことができると思います。応援してくださるファン、サポーターの方たちにはホントに心配をかけて申し訳ないとは思います。だけど、アジアカップを戦ううえで、日本代表に関わる全ての人が同じ方向を向かないと勝てない。そこは大事かなと思いますね」と、どんな時もブレない男は、改めて多くの人々の結束を呼びかけた。
2010年5月のイングランド戦(グラーツ)で当時の岡田武史監督からキャプテンマークを託されて以来、長谷部はさまざまな紆余曲折を乗り越えてきた。南アフリカ・ワールドカップ期間中はキャプテンを外された中澤佑二(横浜F・マリノス)やベテラン・川口能活(FC岐阜)らに気を使いながら一体感を保つように努力していたし、アルベルト・ザッケローニ前監督が指揮した4年間にも結果が出なくてどん底に沈んだ2013年10月のセルビア・ベラルーシ遠征など苦悩の時期もあった。
今回の八百長疑惑は過去の壁とは全く違った種類の障害ではあるが、チームを大きく揺さぶるネガティブ要素なのはは間違いない。そういう時こそ、精神的に落ち着き、チーム全体がサッカーに集中できる環境を整えることが最大の役割だと、彼は足掛け5年間の経験から心得ている。この日、長谷部がメディア対応の中でアギーレ監督との強い信頼関係をことさら強調したのも、不穏な空気を封じ込めたいという強い思いからだろう。
こうした努力のかいあって、騒動はいったんは沈静化に向かいそうだが、スペイン司法当局が告発をいつ受理するか分からない。そうなれば、日本のみならずアジア、世界のメディアも騒ぎ出す。それがアジアカップ期間中に現実のものとなるかも未知数だが、そういう最悪の事態が起きたとしても、長谷部はチームを統率しなければならない。
ある意味、日本のアジアカップ連覇の大きなカギは、アギーレ監督以上に長谷部のリーダーシップかもしれない。
文=元川悦子