初優勝に挑むリトルなでしこ [写真]=FIFA via Getty Images
文/池田敏明
コスタリカで開催されているU-17女子ワールドカップにおいて、U-17日本女子代表が決勝進出を果たした。ここまで5試合を戦い全勝で、21得点1失点と圧倒的な実力を発揮している。彼女ら“リトルなでしこ”の試合を見ると、他国と比べて2ランク程上のレベルでプレーをしているような印象を受ける。強さの要因として浮かび上がってくるのは、“柔軟性”というキーワード。リトルなでしこの選手たちは、あらゆる側面において柔軟性を備えているのだ。
まず、複数のポジションをこなせる選手が多いことが挙げられる。準決勝のベネズエラ戦では、後半に左SBの北川ひかるが相手との接触で負傷するアクシデントに見舞われた。通常なら同じポジションの選手を投入する場面だが、高倉麻子監督が切ったカードは、FWの齋原みず稀。彼女をワントップに入れると、FWで出場していた小林里歌子を左SH、宮川麻都を一列下げて左SBに入れた。小林はチームのエースストライカーだが、サイドでの起点作りやドリブルからのチャンスメークもできるため、SHでも十分に機能する。宮川も機動力と体幹の強さを生かして相手の強力アタッカー陣に対応し、守備力の高さを示した。
他にも、今大会で右SHと左SBをこなしている松原志歩や、FW登録ながらCBとしてプレーする大熊良奈と、ポリバレント性を備えた選手が揃う。フォーメーション変更や不測の事態にも、柔軟に対応できる強みを持つ。
そして、何と言っても技術力の高さは群を抜く。特にチームの中心であるボランチの杉田妃和とトップ下の長谷川唯は、ともに今大会のMVP候補と言えるほどのパフォーマンスを見せている。杉田は懐の深さを生かしたボールキープと創造性溢れるパス、長谷川は縦横無尽な動きとフィニッシュに絡む積極性が持ち味。2人とも利き足がどちらか分からないほど、両足で巧みにボールを操る。杉田や長谷川以外の選手も、両足をバランスよく使いこなし、タッチも柔らかい。高く上がったボールを足元に収めたり、強烈なパスを受けたりといったシーンでは、リトルなでしこと他国の技術力の差がはっきり浮き彫りになるほどだ。
エースの小林は2ゴールにとどまっているが、杉田が5ゴール、長谷川が3ゴールを挙げており、DFの市瀬奈々や遠藤優もゴールを奪っている。中央突破やサイドからの崩し、セットプレーとパターンも豊富で、誰もがフィニッシャーになり得る柔軟性に富んだ攻撃が大量得点を生んでいる。
見逃せないところは、攻め手の多彩さに隠れてしまいがちだが、守備意識の高さも強さの要因と言える。相手ボールになった際、すぐさまボール付近の選手がチェックに入り、周囲との連動で瞬く間にボールを刈り取るディフェンスも見事で、全選手が攻から守、更に攻へと素早く意識を切り替えられる上、一人が抜かれても他の選手がフォローに回れる。スペインとのファイナルでも、この連動した守備を機能させることが勝利への第一条件。そこからの波状攻撃に移ることができれば、意外な選手がゴールを奪ってヒロインを演じるかもしれない。