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“現在地”を知ったなでしこジャパン…女子W杯で躍進へ、キーワードは「意思疎通」と「共通認識」

[写真]=AFC

 池田太監督が率いるなでしこジャパンにとって、初めての国際大会だったAFC女子アジアカップは準決勝敗退に終わった。

 まずインドで開催された大会での戦績を簡単に振り返っておこう。グループステージ初戦はミャンマー女子代表に5-0で勝利し、第2戦のベトナム女子代表戦も3-0で制した。第3戦の韓国女子代表戦は1-1のドローとなったがグループ1位で決勝トーナメントに進出する。準々決勝ではタイ女子代表に7-0の大勝を収め、2023年に行われるFIFA女子ワールドカップ出場権を獲得した。だが、準決勝に落とし穴が。中国女子代表との一戦は2-2のままPK戦までもつれこむ激闘となり、1人目のDF熊谷紗希と5人目のDF南萌華が失敗したなでしこジャパンは3-4で敗れた。今大会は準決勝進出でワールドカップ出場権獲得が決まることもあって、3位決定戦は行われない。そのため、なでしこジャパンの最終成績はベスト4となった。公式記者会見の中でも度々「ディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーはあるか?」と問われ続けてきたが、結局大会3連覇を成し遂げることはできなかった。中国戦を終えた後の取材における熊谷の発言が、なでしこジャパンの現在地をよく反映していたように思う。それは次のようなものだ。

「自分たちは負けていますけど、正直このアジアカップは世界と比べて決してレベルの高い大会ではないと思いますし、これから本当に自分たちがワールドカップで勝つとなったら、戦う相手が全く変わってくるので、中国に負けてくるようでは勝てない。もちろんこの大会を通してチームを作っていくという意味では、今大会の負け、そしてこの経験を積み重ねていかなければいけないとは思うんですけど、そもそも戦うところ、戦う相手がこんなところじゃないぞ、というのは全員が理解する必要があると思います」

 2011年の女子ワールドカップ優勝メンバーであり、10年以上にわたって欧州のトップレベルで戦い続けてきた熊谷は、さらに続ける。

「個の能力、チームの能力としての『妥協点』をもっともっと上げていかなければいけないと思います。やっぱり何より個々の能力アップがチームの能力アップにつながると思うので、世界で戦うために何をやっていくか、もちろん自分も含めて、ここからもう一度考え直す必要があると思います」

 本大会の出場国数が「24」から「32」に増え、男子と同規模になる2023年の女子ワールドカップでは、欧州から11カ国が参戦してくる。対してアジアの出場枠は開催国のオーストラリアも含めて6カ国だ。となれば、アジアカップよりも格段にレベルの上がる大会になるのは間違いない。なでしこジャパンが12年ぶりの戴冠を果たすためには、圧倒的な成長が求められる。

 ただ、アジアカップで収穫がなかったわけではない。池田ジャパンで主軸になっていきそうな若手選手の台頭はポジティブな要素だ。中でもMF宮澤ひなたやFW植木理子は、この国際大会の経験を得て、「世界で戦う」ことへの自覚を強めているだろう。主に左サイドで抜群のスピードとパスセンスで存在感を発揮した宮澤は、5試合中4試合で先発起用され、準々決勝のタイ戦でなでしこジャパン初ゴールを挙げた。その試合と準決勝の中国戦ではアシストも記録し、一躍主役の一人となった。

[写真]=AFC

「大会を通して試合に関われる回数が今まで以上に増えてきた中で、やっぱり出場機会をもらっているからこそ、やらなきゃいけないことはもっともっとあると思います。こういう結果(ベスト4敗退)になってしまいましたけど、自分としてはもっと代表の中心選手になれるように、出ているだけで満足してはいけないなと思うので、クラブに帰ってからも自分のプレースタイルであったり、本当に貪欲にゴールを目指すところはより追求していきたいと思います」

 宮澤は直前まで候補に残っていながら、東京五輪出場を逃していた。今回のアジアカップがなでしこジャパンとして出場する初めての国際大会で、来年のワールドカップに向けて成長への大きなきっかけをつかんだ。

 同様に東京五輪出場が叶わず、A代表レベルでは初めての国際大会出場だったFW植木理子も特大のインパクトを残した。5試合全てに出場してチーム最多の5得点を挙げ、準決勝の中国戦でも2得点。攻守にわたるハードワークのみならず、ゴール前での巧みな動き出しで相手の脅威となり、絶妙なタイミングでクロスに合わせるヘディングシュートでのゴールの多さも印象的だった。そんな植木も「個人としてゴールを決められたのは自信につながると思いますけど、やっぱりチームを勝たせるゴールは決められていない」と、中心選手としての自覚を強く持つようになった一人だ。個人として結果を残そうとも「自分の未熟さを痛感した大会」だと語り、さらなる成長を誓う。

「前回の(2019年の)ワールドカップはケガで(直前に)離脱して、まだ悔しさが残っています。そんな中でワールドカップのチケットを手にする大会に自分が参加できたのはすごく嬉しく思うので、この経験をしっかりワールドカップにつなげるためにも、ワールドカップまでの準備期間というのは、チームとしても個人としてもすごく大事になってくると思います。クラブ(ベレーザ)でゴールを取り続けることはもちろんですけど、その中で自分のできることを少しでも増やして、チームに残り、この競争に勝っていけるように頑張りたいと思います」

 彼女たちの意識の変化をワールドカップでの結果につなげるためには、チームとしても成長していく必要がある。アジアカップで池田ジャパンに大きな課題として突きつけられたのは「ゲームコントロールの拙さ」だった。熊谷も「自分たちがどうゲームをコントロールしていくかは、今大会のすごく大きな課題になったと思います」と述べる。主体的にボールを奪い、ゴームも奪うという新監督の掲げるコンセプトはチームに浸透してきており、試合の中でもその意識が表れる場面は多々あった。しかし、勝てなかった試合には明確に同じ傾向があったのも確かだ。グループステージ第3戦の韓国戦は、開始約30秒で先制しながら、終盤にセットプレーでのミスから失点して追いつかれた。準決勝の中国戦でも2度リードしながら、2度ともサイドからのクロス対応で後手を踏んで失点を重ねてPK戦に持ち込まれてしまった。

 特に中国戦では失点の時間帯も象徴的だった。1点リードで迎えた46分、「0-0からの気持ちでしっかり気を引き締めていこう」と話していた矢先の後半立ち上がりにゴールを許した。延長前半に再びリードを奪ったなでしこジャパンは、延長後半112分にDF高橋はなを投入してセンターバックを一人増やし、逃げ切り態勢に入っていた。しかし、試合終了間際の120分に相手にフリーキックを与え、その流れから陣形を立て直せていない間にゴールネットを揺らされてしまった。

「韓国戦も中国戦も、ほとんど自分たちがボールを持っている中で、得点も取れて、残り少ない時間、あるいは後半立ち上がりで相手が攻め上がってくるところで、いかに後ろが耐えられるかも今大会の大きな課題の1つだと思います」(熊谷)

 韓国戦も5バックで消極的に振る舞った相手にワンチャンスをものにされ、中国戦も相手に与えたチャンスは二度の失点場面のみ。この熊谷の言葉はシンプルだが、現在のなでしこジャパンが抱える大きな課題を端的に表しているように思う。新チーム立ち上げから「逃げ切る」「勝ち切る」という展開の試合が少なかったのも確かだ。昨年11月のオランダ遠征では日本リードの時間帯そのものがなく、アジアカップでも韓国戦と中国戦以外は相手との実力差が明らかで、常に気を張って慎重にゲームを運んでいく展開にならない大差が生まれてしまった。だからこそワールドカップに向けて課題が明確になったことをポジティブに捉えたい。本大会になればアジアカップよりも拮抗した展開の試合が増えるのは間違いなく、その中で主体的にゲームを進めて勝っていく力が必要になってくる。目標を達成するにはチームとして常に試合の流れを読みながら意思統一を図り、粘り強く勝利をつかんでいかなければならない。ここで中国戦に敗れた後の熊谷が口にした言葉を借りよう。

[写真]=AFC

「守り切るとなって、後ろを抑えるのはもちろんだけど、(パスの)出どころも抑えなければいけないので、そのための意思疎通はそこまでできていなかった。後ろは(センターバックを増やして)ハッキリしましたけど、跳ね返しても、跳ね返しても、前(のプレッシャー)がかからなかったら苦しいところは実際あったし、どんどん押し込まれていくのもあった。そこはもう少し共通認識とともに、自分たちがこういう形を持つという、戦い方のオプションをもっともっとチームとして植えつけ、身につける必要があると思います」

 これは「ゲームコントロール」に関する別角度からの質問に対する答えだが、二つのキーワードが隠れている。それは「意思疎通」と「共通認識」だ。ただ、コミュニケーションを増やして「こういう時はこうしよう」というパターンを増やせばいいわけではない。世界で戦い、賢く勝っていくために、なでしこジャパンの選手たちが身につけなければならない能力の一つは「リーダーシップ」だ。高倉麻子前監督が作っていたチームも、池田監督が作り始めたチームにも共通する課題でもある。自分のプレーや背中で引っ張っていくタイプのリーダーはいるが、一言でチームを導ける強烈なリーダーはいない。それだけでなく主体的にチームにとって最善の判断を下せる選手が少ない印象もある。まだ国際経験の浅い選手も多く、国内組と海外組でプレーに対する基準の設定に違いがあるようにも感じる。そして、新体制になってからチームトレーニングの時間を十分に取れておらず、表現したい戦術面は徐々に浸透し始めているが、細部には手をつけられていない現状も影響しているだろう。熊谷も「練習不足」に言及していた。

 ワールドカップ本大会まで約1年半。できるだけ多く実力の拮抗する国、あるいは日本よりも総合力の高い相手との試合を組み、その中でシビアな展開の試合を勝ち切る世界基準の戦い方を身につけていってもらいたい。強豪国との対戦の少なさは東京五輪前の強化の段階でも課題の一つに挙げられており、佐々木則夫女子委員長も改善の必要性を強く認識しているはずだ。そして、選手個々には欧米の女子サッカーのトップレベルに目を向け、自分の中により高い基準を設定してアップデートを繰り返していってもらいたい。アジアカップを通して中心選手としての自覚を強めているであろう植木や宮澤、そしてMF長野風花らはピッチ上でリーダーとして振る舞えるポテンシャルがある。

 熊谷の「何より個々の能力アップがチームの能力アップにつながる」という言葉は重い意味を持っている。個人レベルでも特定の状況に対する正しい判断を豊富に身につけていけば、チームとしてリードしている終盤の戦い方や、追いかける展開でも振る舞い方は確実に変わってくるはずだ。2011年のワールドカップ優勝という過去の栄光にすがっているままでは進歩していけない。世界の女子サッカーはこの10年で急速に成長を遂げており、再び頂点に立つためには欧米各国のトップレベルの基準を体感し、知ることも必要になる。新生なでしこジャパンの挑戦は始まったばかり。「世界で勝つのは程遠い」という現在地を認識し、たくさんの収穫と課題が見つかったアジアカップを無駄にすることなく、来年のワールドカップに向けて大きく飛躍してくれることを期待している。

文=舩木渉

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