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日本女子サッカーのリーディングチームとして…日テレ・東京ヴェルディベレーザの現在地

2021.05.28

WEリーグの初代女王を目指して本格始動した日テレ・東京ヴェルディベレーザ [写真提供]=東京ヴェルディ

WEリーグ開幕に向けて“新生”ベレーザが本格始動
 日本初の女子プロサッカーリーグ、WEリーグの開幕に先駆けて、参入11クラブによる「2021WEリーグプレシーズンマッチ」が各地で行われている。プレマッチはすでに日程の半分以上が終わり、9月の開幕に向けて各チームの輪郭が見えてきた。

 日本女子サッカーリーグ優勝17回、皇后杯優勝15回を誇る日テレ・東京ヴェルディベレーザは、2015年から19年にかけてリーグ史上初の5連覇を達成。しかし“第4次黄金期”とも言える時期を支えた有吉佐織、阪口夢穂、山下杏也加、長谷川唯、宮澤ひなたなどが昨シーズン終了後に退団した。最後尾から最前線まで相次ぐビッグネームの退団を受け、ベレーザはどんな状況にあるのか。それが垣間見えたのが、プレマッチの2試合だった。

 ベレーザはプレマッチ開幕戦でジェフユナイテッド市原・千葉レディースに0−1で敗戦。その後、なでしこジャパン候補やU−19日本女子代表候補のキャンプに計11選手が参加し、チーム練習がほとんどできない中で大宮アルディージャVENTUS戦を迎えた。それでもこの一戦では18本のシュートを放ち、昨シーズン終盤にケガで戦列を離れていたFW植木理子のハットトリックを含む4ゴールで快勝。試合後、竹本一彦監督は、「強気なプレー、攻守両面でそれを強調して試合に臨んだ。徐々にリズムをとりながら、4点目まで取れたことが今日のゲームの大きな収穫」と、安堵にも似た表情で試合を振り返った。プレマッチといえども勝負にこだわる。そんなベレーザの流儀を体現しての快勝だった。

5月22日に行われた大宮V戦では植木がハットトリックの活躍を見せた [写真提供]=東京ヴェルディ

 昨シーズン、背番号を「19」から「9」に変えた植木の活躍は、チームにとって特に明るいニュースだろう。荒川恵理子、永里優季、田中美南などベレーザ歴代のエースストライカーは、背番号19で若手時代を過ごし、その後チームの得点源へと成長してきた。そんな系譜の延長線上にいる植木の活躍が、今シーズン不沈のカギとなるかもしれない。

 今季迎えた新戦力、MF北村菜々美(元セレッソ大阪堺レディース)も早速主力として活躍している。北村自身はベレーザでのパフォーマンスについて、「正直、まだそこまでの手応えを感じていない」と控えめだが、中盤だけでなく、多くのポジションをこなせるとあって、チームに新たなオプションを与える存在になりそうだ。なでしこジャパンでも、そのユーティリティ性を生かして活躍し始め、東京オリンピックメンバー入りも現実味を帯びてきた。

 育成組織の日テレ・メニーナ育ちで、多くの試合経験を積んで復帰したGK田中桃子への期待も大きい。2019年に大和シルフィードに期限付き移籍し、元ベレーザの小野寺志保GKコーチの指導を受けながら2年間で大きく成長。昨シーズンは大和Sの大幅な失点減に貢献した。FIFA U−20女子ワールドカップ2020では、連覇を狙うU−20日本女子代表の正GKとして出場するはずだったが、コロナ禍で中止となり活躍の場を失った。それでも、ベレーザで安定したプレーを続けていれば、おのずとなでしこジャパンへの道も開かれるはずだ。

 プレマッチでは試合の途中で4バックから3バックに変形する戦い方も披露した。メニーナ時代から複数のポジションをこなし、複数の武器を磨いていく育成方針が、現在のベレーザの柔軟な戦術を支えている。例えば大宮V戦で途中出場したDF伊藤彩羅は、左サイドバックでプレーを始めたが、試合終盤には右サイドハーフに移動した。各選手の、どの特長を生かすために、どこに配置するのか。もはや現代サッカーでは、布陣や選手の配置を90分間固定させておくことのほうが不自然と言えるかもしれない。

 キャプテンのDF清水梨紗は「最近のベレーザというと4−3−3というイメージが染みついていると思うが、4−4−2だったり3−5−2だったり、2バックのような形になることもある。いろんな形で戦えるのが今シーズンのベレーザの強みになる」と、新シーズンへの期待感を抱いている。

30日に新潟Lと対戦。有観客ホームゲームは今季初
 ベレーザは昨シーズンのなでしこリーグで3位に甘んじたものの、総得点ではリーグ最多の45点を奪い、その得点力を生かして皇后杯4連覇を達成。“得点へのこだわり”が結実したシーズンを経て、さらなるアップデートを目指している。日本女子サッカーのリーディングチームとして、これまでも過去の姿にこだわらず、常に理想を追い求めてきた。「テクニカルなサッカーのテイストは変えずに、ドリブルの巧みさ、グループコンビネーション、スルーパスやワンツーで相手を崩して多くのゴールを奪うというベレーザのスタイルを、今季も披露できるよう準備している」とは、竹本監督の言葉だ。

 1989年の第1回日本女子サッカーリーグで指揮を執った竹本監督と、昨シーズンまでベレーザの監督を務めて第4次黄金期を築いた永田雅人コーチの協働作業は、昨シーズンからの継続となる。「保守」と「革新」。一見すると相反するこの考えを、ベレーザはピッチ上で表現しようとしている。清水の言う「4−3−3というイメージ」も、良い意味で壊していくシーズンになるかもしれない。

絶えずチームのアップデートを図っている竹本監督(左)と永田コーチ(中央) [写真提供]=東京ヴェルディ

 ベレーザの根幹を成す、次世代の司令塔も成長途中にある。18歳のMF木下桃香はU−19世代ながら、飛び級でなでしこジャパン入りした逸材だ。昨シーズン、1年を通してなでしこリーグの試合に出場し続けたことで、スピードに慣れて落ち着いた攻撃参加が増えてきた。20歳のMF菅野奏音はU−20日本女子代表の司令塔としても活躍し、先のプレマッチでは一層「重くなった」シュートを放って、得点意欲の高まりを印象づけた。

 残された今後のプレマッチ2試合で、どのような戦いを見せるのか。5月30日(日)に味の素フィールド西が丘で行われるアルビレックス新潟レディース戦は、ベレーザにとって今季最初の有観客でのホームゲームとなる。新潟Lは現在、プレマッチ3連勝と好調を維持。今シーズンのWEリーグを占う意味でも両チームにとって大一番となるだろう。

 出産を経てピッチに戻ってきたDF岩清水梓、ケガから復帰したDF土光真代ら守備陣が、相手の得点源であるFW道上彩花、FW児野楓香をどう抑えるか。MF三浦成美ら中盤の選手と、新潟Lの攻撃に厚みを加えるMF川村優理との駆け引きも勝敗の行方を左右しそうだ。伝統の背番号10を引き継いだFW小林里歌子の決定力、サイドからダイナミックな攻め上がりを見せるFW遠藤純の攻撃参加も、ベレーザが勝利に近づくためのポイントになるだろう。

「やっぱりサッカーは楽しまないと、見ている方も楽しくないと思うので、サッカーを思いっきり楽しむというベレーザらしさはなくさず、その中で一つひとつのプレーに対する厳しさを持って、真面目に突き詰めていきたい」。キャプテン2年目の清水はWEリーグ初年度に向けてそう覚悟を示した。

 間違いなく日本女子サッカーの転換期となるであろう2021年も、日テレ・東京ヴェルディベレーザはさらなる境地を目指し続ける。その探求心こそが、唯一無二のチームを形作っている。

文=馬見新拓郎

By 馬見新拓郎

10年以上にわたり女子サッカーを追いかける気鋭のライター

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