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【WEリーグインタビュー】100年愛されるクラブに…参入に新潟の思いを乗せて

2021.04.24

新設となるWEリーグに参加するアルビレックス新潟レディース ©ALBIREX NIIGATA LADIES

 日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』(Women Empowerment League)が2021年9月に開幕を迎える。

 参加する11クラブの中で、唯一日本海側のクラブとして参加するのがアルビレックス新潟レディースだ。

 クラブは2019年、男子チームを主とする運営法人から独立。プロリーグ参加への準備を続けてきた。山本英明代表取締役社長に現段階でのチーム作りや、今後のビジョン、WEリーグへの期待などを語ってもらった。

インタビュー=小松春生

山本英明社長 ©ALBIREX NIIGATA LADIES

―――WEリーグ参入の経緯を教えてください。

山本英明(以下、山本) アルビレックス新潟レディースは2002年のクラブ立ち上げから19年が経ちます。WEリーグに参入することは、この歴史をさらにつないで、拡大していく大きなチャンスだと思いました。今日まで築いてきた新潟の女子サッカー文化をより発展できるのではないかと。そして日本サッカー界の課題である女子のサッカー人口を増やし、スポーツ界の発展に寄与するという点でも、やはり日本最高峰のプロリーグに参画することがベストな道だと判断しました。

―――ウイルス禍の影響もあり、参入に二の足を踏むクラブもあったと思います。迷いや不安はありませんでしたか?

山本 全くありませんでした。新潟を取り巻く人たちは、厳しい社会情勢であっても「絶対にチャンスをつかみにいこう」という気持ちが強いんです。女の子の憧れとなり得る新潟レディースを、より一層輝けるものにしていくという熱量が非常に高い。亀田製菓さんをはじめとするスポンサー企業や株主の方々、地元自治体、サッカー協会など、本当に多くの方の後押しがありました。こういった状況でも、みんなで何とか乗り越えていけるという気持ちのほうが強かったです。

―――レディース部門は2019年1月に株式会社アルビレックス新潟から独立しました。クラブ運営においてメリットもあれば、苦労した点も多かったと思います。

山本 想像以上に苦しい2年間でした。なでしこリーグはアマチュアリーグでしたが、私たちにはプロ選手もいましたし、興行としてしっかりと成り立たせないといけませんでした。簡単ではなかったですが、私たちには2021年にプロ化するという明確な目標がありました。スポンサーや株主の方々、何よりサポーターのみなさんが支えてくださったおかげで、この2年間を乗り切れました。絶対にWEリーグに入り、もっと成長するんだという地域全体の強い意志が、私たちをここまで導いてくれたと思っています。

―――WEリーグ創設に伴い、プロ契約選手数や監督のライセンスなど様々なルールが制定され、どのクラブも短期間での準備にかなりご苦労されている印象です。その点、プロ化を念頭において独立していた新潟はスムーズに動けたのでないでしょうか?

山本 おっしゃるとおりです。苦労した分、この2年間はいい経験をさせていただきました。当時は経験が浅かったスタッフも周りからのサポートやアドバイスを受け、日々トライアンドエラーを繰り返しながらここまで成長してくれました。プロフェッショナルとしてまだまだ力をつけなければいけませんが、非常に有意義な組織作りの期間でもありました。

トレーニングの様子 ©ALBIREX NIIGATA LADIES

―――チーム作りはいかがでしょうか。

山本 完璧に近いくらい、よく編成できていると感じています。残念ながらクラブを離れてしまった選手もいます。一緒に戦いたかったという気持ちがありますが、それは仕方ない部分です。新加入選手を含め、いいメンバーで臨めると思っています。

―――どんな戦い方を目指していきたいですか?

山本 まずは昨シーズンの戦いがベースになるでしょうが、村松大介監督が新しいエッセンスを加えてくれると期待しています。選手にもさらなるレベルアップを図ってもらいたい。最後まで諦めないひたむきな姿勢や見ている人たちに喜びや感動を味わってもらえるような一生懸命さは、新潟のカラーとして引き続き表現してきたいです。やるからには、1年目からタイトルを取りにいきます。

―――育成についてはどうお考えですか?

山本 もちろん、根を張りながらやっていくつもりです。ゆくゆくは新潟出身の選手がレギュラークラスの4割を占めていくようなクラブになったら嬉しいですね。関東や関西とは違い、新潟の女子サッカー人口はまだまだ少ない。新潟レディースのプレーを見てもらう機会を増やし、対外的な活動も積極的に行いながら裾野を広げていく。リーグとも協力しながら、10年くらいかけて新潟の女子サッカーを強化していきたいと思っています。短期的には昨年をベースにしながらレベルアップを図っていき、中期的には新潟の女子サッカーの人口拡大、そして女子サッカー文化の醸成により一層力を入れていきたいです。

今季新加入の選手たち ©ALBIREX NIIGATA LADIES

―――選手の中には「明日からプロです」と言われても切り替えられない選手がいるかもしれません。プロとしてこういう振る舞いをしてほしい、発信をしてほしいというものはありますか?

山本 この選手をもっと応援したい、この選手と触れ合ったからサッカーが、新潟レディースが好きになったというような、プロとして影響力のある選手の集団であってくれたらと思っています。クラブとしても導いていきたいですし、一緒に成長できるように努力していきたい。というのも、私には忘れられない思い出がありまして。

 私は小学校低学年の頃、野球をやっていました。ある日、大洋ホエールズ(現:横浜DeNAベイスターズ)のみなさんが横浜市の小学生チームを対象に野球教室を開催しまして、そのときに教えてくれたプロ野球選手のことが今でも忘れられないんです。豪速球を投げた、フィールディングがうまいといったことだけでなく、褒めてくれたり、楽しい会話をしてくれたり。テレビで見る人と触れ合った原体験から今でもその球団が好きです。生の体験は子どもに大きなインパクトを与えると思います。新潟には子どもたちだけでなく、いろいろな層のサポーターがいらっしゃいます。応援してくださる方々に対して選手一人ひとりが向き合ってほしいですし、彼女たちのパーソナリティをもっと発信していけるような導きをクラブとしてもやっていくつもりです。

―――「地域との連動」は新潟の強みだと思います。岡島喜久子チェアが「1試合の平均入場者数5000人」を掲げているなかで、集客面はどのようにアプローチしていきますか?

山本 これまで関わってきた地元企業や自治体の方々に対して、今一度、女子サッカーを見ていただく機会を積極的に展開することが集客への近道だと思っています。地域との関わりや応援していただける方々の輪を地道に広げていくこと。能動的に地域に出ていって、大勢の方にホームゲームへと足を運んでいただけるようなアプローチを続けること。普及とPRの両輪を回していけば、リーグが掲げている5000人に近づけると思っています。ただ、急ぎすぎると、また一時的なブームだと思われてしまう。リーグの理念にもある地域活動を積極的に推進していくこと、コミュニティ社会を一緒に作っていくことを、全クラブが地域のみなさんと一緒にやっていけば、間違いなく集客人数は増えると思っています。

―――アルビレックス新潟が持つ集客のノウハウを横展開することも可能ですね。

山本 そうですね。中野(幸夫)社長含め、いい連携ができていますし、そこはこれからも継続していきます。ウイルス禍の状況でどうなるか分かりませんが、男子チームのサポーターにも女子の試合を見て好きになってもらえるように、男女の試合を同日開催にしようという話もあります。オペレーション上、できるかどうかは最終調整中ですが、リーグからも期待されている部分です。新潟は男子チームと女子チーム、そして地域の方たちとが密接に関わりながら作り上げてきたクラブです。その連携体制があれば、WEリーグの目標をいち早く達成できると考えています。

―――一方で新しい層を獲得していく作業も必要になります。

山本 私たちはファミリー層に足を運んでいただけるような取り組みをしていますが、獲得にはやはり時間がかかります。ほかにも小・中・高校生の女の子がスタジアムに来てくれるようなきっかけ作りをしなければなりません。でも、SNSで発信するだけでは来てくれませんし、学校や企業との連携が必要になってきます。例えば、化粧品会社や食品会社と女性向けの施策を試してみるといった形ですね。施策を行い、どれだけの効果があったかを蓄積していく必要があります。これまでは会社の規模としても、なでしこリーグの規模としても、力を注ぎきれない点がありましたが、プロリーグになりますから。来場した方の滞在時間や試合の満足度など、ご支援いただける対価をしっかりと考えて質を上げていかなければいけません。そのなかで、実施したものがどれだけヒットして、どれだけ新しい層を増やしていけるか。これからいろいろなチャレンジをしていきたいと思っています。

新潟を率いるのは村松大介監督 ©ALBIREX NIIGATA LADIES

―――4月からプレシーズンが始まります。9月の開幕に向けてどんな戦いをしていきたいですか?

山本 一枚岩になって戦えるチームをもう一度しっかりと作っていきたいと思っています。昨年の皇后杯準決勝では浦和レッズレディースさんに敗れましたが、勝ち上がる過程でチームが一枚岩になっていくのを感じましたし、感動的な素晴らしい戦いを演じてくれました。見ている方に楽しんでいただけるプレーができたと思っています。そういうチームをしっかりと作って、WEリーグを戦いたいです。一方で、リーグとはしっかりと腕を組んで、ほかのクラブとも連携しながら女子サッカーを盛り上げていきたい。これから価値の高い新しいリーグを作っていくのですから。現場やチームの努力とともに、リーグと参画するクラブのみんなで盛り上げていくことがこの1年、非常に大切なことだと考えています。

―――WEリーグ成功のためには長期的な取り組みが必要になってくると思います。最後に、今後の展望をお聞かせください。

山本 地元のみなさんに愛されて、必要と思っていただける会社であり、クラブであり、選手であり、スタッフでありたいです。先日、創業400年以上の会社にお邪魔してきましたが、本当に地元の方に愛されているのを感じました。自分たちの思いだけではなく、周りの方々の思いも一緒に歩んでいく。男子チームもそうですが、新潟はみなさんと一緒に作り上げるクラブです。そこはこれからもずっと大切にしていきたいです。WEリーグでも、Jリーグでも、日本で一番多くの方が関わってくださっている。サポーター、企業、関係団体、自治体のみなさんの思いが詰まったクラブを一緒に作り上げていきたい。それが100年、200年と続いていってほしいですね。

By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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