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【インタビュー】W杯優勝から6年…成長を感じる熊谷紗希「“自分の強み”は確実に伸びた」

2017.07.14

 2011年7月、FIFA女子ワールドカップ決勝で最後のPKを決め、なでしこジャパンを世界一に導いたDF熊谷紗希は、同年夏に浦和レッズレディースからフランクフルトへと移籍した。

 二十歳で海を渡った熊谷はすぐに定位置を掴むと、2013年夏にリヨンへ移籍。リーグ7連覇中の強豪でも加入初年度からリーグ戦19試合(全22試合)に出場するなど、レギュラーを獲得してみせた。

 そして2015-16シーズンには最後のキッカーとしてPKを成功させ、念願だった自身初のチャンピオンズリーグ(CL)制覇を経験。同時に国内リーグとカップも制して3冠を達成すると、昨シーズンは2年連続の3冠という偉業に大きく貢献した。

 そんな熊谷が充実の1年を振り返るとともに、自身の成長や新シーズンへ向けた意気込み、新体制となって1年以上が経過したなでしこジャパンについて語った。

■特に嬉しかったのは初めてのCL優勝

――まずはリヨンでの昨シーズンを振り返ってください。どんな1年でしたか?
3冠を達成した次の年だったので、もう一度3冠を、というすごいプレッシャーがあり、簡単ではないなと思っていました。3冠の後でチームがかなり補強をしたので、代表選手がたくさんいる中でまた新たな戦いが始まるなと思って臨んだシーズンだったんですけど、なによりシーズン通して自分がケガなくピッチに立つことができたというところが、やっぱり1番よかったかなと思います。

――リヨンでは数多くの優勝を経験していますが、特に印象に残っているタイトルはありますか?
やっぱり初めてCLを獲ったときっていうのは、本当に嬉しかったです。フランクフルトからリヨンに行く時に、CLを獲れるチームに行きたくてっていう移籍だったのですが、リヨンの1年目、2年目というのはなかなかうまくCLでの結果が出せませんでした。そんななか、ようやく3シーズン目で獲れたっていう意味ではすごく嬉しかったです。ついこの間の2連覇目っていうのは、やっぱり初めてのときとはまた違った、本当に簡単ではなかったなっていうのが一番の印象というか、どちらかと言うとホッとしたというのが大きかったですね。

■来シーズンはゼロからのスタート

――決勝は2年連続でPKでの決着となりました。1年目は最後のキッカー、今年は外したら負けの場面でキック。どちらが緊張しましたか?
実はあの(CL)決勝の前にカップ戦の決勝で(同じ)パリ・サンジェルマンとやって、試合の中でのPKは決めたんですけど、最後PK戦になったときに私はポストに当てて外して…サドンデスの末に勝てたんですけど。そのシーンというのは(CL決勝では)一切よぎらなかったですけど、2週間の間に同じキーパーと3回PKで対峙するという意味ではかなり嫌でしたね。外すとは一切思わなかったですけど、正直、ヴォルフスブルク戦(2015-16シーズンのCL決勝)のほうが自信はありました。今回は本当に入ってよかったです。

――それも含めて、やはり今回のCL優勝は安心したという気持ちが強いということですね。
そうですね。本当に最後までどうなるかわからなかったですし、PKの前に決めたかったですけど。

――2年連続3冠という成功を掴んだわけですが、それを踏まえて来シーズンの目標はどうなりますか?
監督、スタッフ全員が変わるので、本当にどんなサッカーになるのか、ゼロからのスタートです。選手全員がスタートラインに立つ形で入ると思うので、まだ新しい選手の情報っていうのはないですけど、新たな戦いが始まると思います。まずはレギュラー争いの部分で楽しみっていうのはありますし、あとは本当に、CL3連覇はどこのチームもしたことがないので、そこを目指して行けたらいいなと思います。

■今のなでしこは可能性のあるチーム

――新たなスタートと言えば、この1年はなでしこジャパンも大きく変わりました。熊谷選手はキャプテンになりましたが、なにか変化はありますか?
キャプテンになったからっていうのはないですけど、高倉(麻子)監督になって約1年活動してきて、メンバーを見ても、自分が急にすごく(年齢的に)上のところにいる感じになって(笑)。自分のほうが経験があるという意味でも、責任とか自覚っていうのは今までとは違うところがあって、そのなかで監督からキャプテンにっていうことを言われたので、より責任だったり覚悟っていうのはあります。あとは自分にできることって言ったらプレーで引っ張ることかなと思うので、そういうところは変わりなくと言うか、自分にできる形でチームを引っ張っていけたらいいなと思います。

――W杯優勝を知る熊谷選手から見て、6年前のなでしこと比べて足りない部分はもちろんあると思いますが、逆に今のチームにしかない強みはありますか?
今のチームは本当にテクニックがある選手がすごく多いので、すごく小さいですけど。もっともっとチーム全員でレベルアップを図っていけばすごく面白いチームになるなと思います。2011年と比べてというのはちょっとわからないですけど、やっぱりまだまだ海外の選手、外国人との戦いというところでは経験が足りない。ただ、そういう経験を積んでいければ、すごく可能性のあるチームだと思うし、もっともっとできる事が増えていくし、そういった意味では本当にいいチームだなと思います。

■“自分の強み”は確実に伸びている

――W杯予選を兼ねたアジアカップが来年4月に開催されます。
チームとして直していかなければならないところというよりは、まだチームとしての形というのが確立できていないので、そこを確立しながら、活動も増えてきていますし、限られた時間を大切にしながらチームの形を確立して。やっぱり結果がでないと自信にはつながってこないと思うので、そういうところにもこだわりながらやっていきたいです。個人としてはケガをしないことと、自分がリヨンで通用していることだったり、一番大事にしている一対一、局面での戦いっていうのをなでしこジャパンのほうでも試合で出していければいいなと思うし、そこは継続してやっていかなければいけないところかなと思います。

――W杯優勝から6年、そして海外挑戦から6年が経ちました。一番成長したところはどこでしょう?
プレーだと、やっぱり外国人相手というのは6年目にもなると慣れてきますし、そのなかで自分が生きなければいけない、生きる術というのもある程度掴むことができて、“自分の強み”、“ここだけは絶対負けちゃいけないんだ”っていうところは確実に伸びていると思います。

あとは本当に人間面でも精神的な面でも、日本とは全く違う生活、日本では起こらないことが起きたりするので、大変なことはあまりないですけど、『ああ、そういうこともあるんだ』っていう意味では、だいたい何が起きても大丈夫です、今は。最初はやっぱり言葉とかもできないので、もどかしさはありました。やっぱり自分の良さっていうのは喋れるようになればなるほど出ていくし、味方も認めてくれるので。

――ポジション的にも言葉はすごく大事になりますよね。
本当にその通りで、やっぱりそういったところはやらなきゃいけなかったので、最初は大変でしたけど、どんどんやれることが増えて、自分ができることが増えると嬉しいし、認められると嬉しいしっていうなかで掴んでいったものっていうのはすごくあります。

■女子サッカー選手が子どもたちの夢になってほしい

――今オフは、SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL(ソルティーロ ファミリア サッカースクール)のなでしこアドバイザーとして、女子小学生を対象に『なでしこ限定クリニック』を実施しました。なでしこが世界一になって女子サッカーがすごく盛り上がったあとで、そこから先が少し行き詰まっていることを考えると、今回のイベントのようなものはすごく大事になりますね。
子どもたちに、「女子サッカー選手」が夢になってもらいたい。女子サッカー選手になりたいなって思ってほしい。あとは、海外でやっている選手はあまり多くないので、海外に出てみたいなと思ってもらいたいです。

(新たに)やってみたいっていう意味では、子どもたちがリヨンに来て、現地の同世代の子と戦ったり、自分の試合を向こうで観てもらうとまた違う世界が見えるのかなと思うので、そういったところはできたらいいなと思います。とにかく女子サッカー選手が夢になってほしいです。でも本当にまだまだ見直さなきゃいけないところはいっぱいあると思いますし、このイベントを1回やったところで、っていうのはあるんですけど、こういった時間を大切にしながら、子どもたちが本当にサッカー楽しいなって思ってもらえたら私自身も嬉しいです。

――実際にこういったイベントをやってきて、サッカーをする子どもが増えているという実感はありますか?
増えているんじゃないですかね? 今は女子チーム、女子だけのチームがすごい増えてきているし、私が小さいときにはなかったので。そういうところは嬉しいですし、もっともっと、やっぱり年が上がっていっても受け皿だったり、やれるところっていうのは増やしていかなければいけないと思うんですけど、(サッカーをする女の子は)すごく増えたと思います。

インタビュー・文=本間慎吾

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