[写真]=金田慎平
10月のインターナショナルマッチウィーク明けの前節・浦和レッズ戦は4-0で快勝。勝ち点を34まで伸ばした17位・横浜F・マリノスは、J1残留争いのライバルである18位・横浜FCとの差を2ポイント差に広げ、一歩リードした状況で25日のサンフレッチェ広島戦を迎えた。
「次まで1週間あるし、準備の段階でスキがあるようだったら足元をすくわれると思う。勘違いしちゃいけないですし、そういう雰囲気があったら、率先して引き締めます」とキャプテン・喜田拓也も語気を強めていたが、ここで連勝できるか否かが史上最大の危機を脱する分岐点になるのは間違いなかった。
こうした中、継続して結果を出さなければいけなかったのが、浦和戦で1ゴール1アシストという目覚ましい働きを見せた植中朝日だ。「マリノスを背負うことは正直、重い。そのプレッシャーを跳ねのけられる力をつけたい」と本人も強調。10月の中断期間に大島秀夫監督のアドバイスを受けながら、自身をブラッシュアップさせていたという。「点を取れない時も『チームのために』という気持ちは持ち続けていた。それが結果的にアシストとゴールになっただけ」とも浦和戦後に話していたが、その献身性と高度な決定力を今回も示し続ける必要があったのだ。
その好機が開始早々の12分にいきなり巡ってくる。前節同様、スタートからハイプレスを仕掛けに行ったマリノスは、味方からバックパスを受けたGK大迫敬介が前に蹴り出したロングボールが甘くなったのを見逃さなかった。これを喜田がカットし、ダイレクトで前線へ。これを受け、巧みなコントロールから右足を振り抜いたのが植中だった。「プレッシャーをかけた上で自分たちのボールにできて、自分が打ちましたけど、井上(健太)選手が追い越してくれる動きをしてくれたことで、相手がちょっと下がったりした。いろんな選手が関わったゴールだと思います」と本人も感謝を口にする。
直後にVAR判定となり、「オフサイドはないだろうと思いましたけど、喜田選手が『ないない』と言っていたので、本当に神頼みしました」と本音を吐露。結果的にゴールが認められ、広島に大きなプレッシャーをかけることができたのだ。
前半のマリノスはこのシュート1本だけ。相手にボールを保持され、守備偏重の戦いを強いられた。それでも、植中ら前線アタッカー陣は献身的なプレスをかけ続けた。そして広島が持ち駒を次々と投入してきた後半もハードワークを怠らず、後半41分に途中出場の天野純がPKを決め切って2−0に。さらに後半アディショナルタイムにはジェイソン・キニョーネスも右CKから3点目を叩き出した。
植中は2点目のPK奪取につながる天野へのパス出しを見せ、3点目もCKを奪取。約100分間に及んだゲームで決して足を止めることなく、3−0の勝利の原動力になったのである。「2試合連続で結果を出せたのは、やっぱり心に余裕ができたことが一番大きかった」と背番号14は神妙な面持ちで言う。「浦和戦の前まではシュートも外してましたし、点が取れてない試合も続いていた。中断期間なんかは、練習試合でサブ組で試合に出たりとかもあったし。自分もその評価が当たり前だとは思いましたけど、結局、試合には使ってもらった。『ここで変えなきゃ』という気持ちがいい方向に向いたのかなと思います」とチームトップの6点目を叩き出した若き点取り屋は改めて力を込めた。
これでマリノスは勝ち点を37に伸ばし、横浜FCとは5差に。11月8日の次節・京都サンガ戦での自力残留に王手をかけた。今季2回の監督交代があり、長期間に渡って最下位に沈んでいた名門は、ついに危機を乗り越える一歩手前まで辿り着いた。苦労の連続だった今季。植中が変貌する大きなきっかけとなったのが、アンでルソン・ロペス、ヤン・マテウス、エウベルの”ブラジル人トリオ”の移籍だったという。
「強力な外国人選手がいた時は、どうしても心のどっかで『あの選手たちに任せよう』という気持ちがありましたね。サポーターも何年もずっと攻撃的なサッカーを見ていたし、点が入らなくても『どっかでケチャドバするだろう』と考えていたと思います。でも、なかなかゴールが決まらない。そのギャップに僕たちも戸惑ってしまったのは確かです。その後、彼らがいなくなって『一人ひとりが今まで以上にやらなきゃ』という気持ちが芽生えた。自覚が足りなくて勝てなかった状況から今はすごく変わったと思います」
その植中自身も「自分が攻撃陣を引っ張らなきゃいけない」という強い責任感をピッチ上で表現するようになった。この2試合の気迫と守備強度、ゴールへの鋭さは本当に凄まじいものがあるのだ。
「今は自分たちで残留だったり、一個上の順位、勝利を手繰り寄せることができる状態にあると思います。最下位に沈んでいた時は『一個ずつ』としか考えられなかったけど、今は名古屋(グランパス)だったり、(ファジアーノ)岡山だったりとそんなに差はない。『残留とか優勝争いをかき乱してやろう』という気持ちもあります」
少し欲も出てきた植中。ここまで強気のマインドを持てるようになったのなら、ラスト3戦は大丈夫だろう。油断は禁物だが、ここで緊張感を切らさずに前へ前へと突き進んでいければ、彼はもっと逞しい点取り屋になれる。11月8日の京都戦も期待して良さそうだ。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子

