川崎F FW伊藤達哉 [写真]=小林渓太
2025年のJ1リーグも終盤戦に突入した。長谷部茂利監督新体制で24−25シーズンのAFCチャンピオンズリーグエリート決勝まで勝ち上がったものの、J1では中位に停滞しているのが、川崎フロンターレだ。シーズン途中に高井幸大、山田新が海外移籍に踏み切り、丸山祐市や大島僚太の負傷離脱を強いられるなど、戦力がなかなか揃わないのが苦戦の一因だが、8月以降は白星が先行している。そのキーマンとなっているのが、ゴールを量産している伊藤達哉だ。
背番号17をつけるJリーグ初参戦のアタッカーは8月16日のアルビレックス新潟戦を皮切りに、名古屋グランパス戦で2ゴール、FC町田ゼルビア戦、横浜F・マリノス戦でそれぞれ1ゴールと4試合で5ゴールを固め取り。得点ランキング上位に急浮上してきたのだ。その後、9月20日のFC東京戦で連続ゴールがストップしたものの、23日の湘南ベルマーレ戦で再びゴール。今季通算9得点に到達した。
「湘南戦で9点入った時に10は行くと思っていた」と本人も自信をのぞかせるが、28日の柏レイソル戦で有言実行してみせる。それは1−2のビハインドで迎えた前半アディショナルタイムの出来事である。始まりは相手右CKからの横パスをマルシーニョがカットしたプレーだ。背番号23は一目散にゴールへと突き進み、右から上がってきたファンウェルメスケルケン際へ展開した。次の瞬間、左から上がってきた伊藤はペナルティエリア内でボールを受け、DF2枚を剥がして右足を一閃。ゴール左隅に蹴り込んだのだ。
「2人来ていて、最初1人目をちょっと中にズラしたときにもう1人がカバーに来ていたので、そこもズラしてタイミングをうまく外して決めました。今日はあんまり枠に入らないシーンもあったんですけど、あの時はシュートというより、その前のドリブルのところである程度、勝負あったかなと。僕としてはファーで受けたんで、そんなシュートは難しくなかった」と本人は堂々たる口ぶりで自身の得点場面を解説。それだけ余裕があったということだろう。
試合は壮絶な打ち合いとなり、最終的に4−4で引き分けた。自身のゴールが勝利につながらなかったことで不完全燃焼感は少なからずあっただろう。それにしても、Jリーグを経験したことがなかったサイドアタッカーが、新天地に赴いていきなり2桁ゴールというのは、なかなかできることではない。それもアカデミー時代を過ごした柏を相手に達成したということで、ひと際大きな価値がある。
高度なフィニッシュワークの原動力となっているのが、ドイツ時代の積み重ねだという。「ドイツの最後のクラブ(マグデブルク)で途中から出ることが多くて、その立場の自分をどうにかするには、もう点を取るしかなかった。『短時間でも自分が点を取るんだ』という意識が身について、今フロンターレで先発で出させてもらう中で、その力を出せるようになってきたという感じですね。最初は右サイドに戸惑ったり、Jリーグの独特の感じにも慣れなかったですけど、ドイツで培ったものは今も生きていると思います」
伊藤は神妙な面持ちでこう語ったが、2015年7月に渡欧してからのキャリアは紆余曲折の連続だった。最初のクラブ・ハンブルガーSVではU−23チームでのプレーから始まり、トップ昇格後は酒井高徳と共闘。その後、2019年夏にはシントトロイデンへ完全移籍したが、2年半のリーグ戦出場は合計でわずか18試合。大きな壁にぶつかった。そんな自分を奮い立たせたのが、マグデブルクだったのだろう。ハンブルガー時代の恩師であるクリスチィアン・ティッツ監督に請われ、2022年1月からの半年間はドイツ3部でプレー。首尾よく2部復帰を果たすと、そこから2シーズンは主にジョーカーとしてフル稼働した。
さまざまな環境で修羅場をくぐった日々は伊藤にとって貴重な経験。そこで養ったタフさとしぶとさ、冷静さは他の選手には持ち合わせていない部分だ。長谷部監督も大きな信頼を寄せているに違いない。柏戦のゴールによって、得点ランキング6位となった伊藤。日本人選手では11得点の宮代大聖(ヴィッセル神戸)に続く2番手につけている。
「日本人得点王? そこはあんまり意識してもしょうがないんで。自分が取れるだけ取りたいというのはありますけど、この前も連続ゴールが続いていた時にはちょっと気持ちが前のめりになりすぎた。それは良くないので、自然体でいたいと思います」。本人はあくまで一つひとつのシュートを決めることだけに集中していく構えだ。果たしてJ1ラスト6試合で伊藤はどこまで数字を引き上げられるのか……。10月のYBCルヴァンカップ準決勝の動向も含めて、小柄な背番号17の一挙手一投足から目が離せない。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子



