FC東京DF室屋成 [写真]=Getty Images
6月の代表ウィークで中断していたJ1が再開した。FC東京は前半戦18試合終了時点でJ2降格圏の18位に沈んでおり、ここから巻き返しを図らなければならない状況だった。FIFAクラブワールドカップ開催のため、特別に設けられた移籍ウインドウを活用し、韓国代表GKキム・スンギュ、浦和レッズ時代に鉄壁の守備を築いたアレクサンダー・ショツル、松橋力蔵監督のアルビレックス新潟時代の秘蔵っ子・長倉幹樹を補強。さらにはドイツ・ブンデスリーガ2部・ハノーファーで5シーズンを過ごした室屋成も呼び戻し、ギアを上げようとしていた。
その一歩目となったのが、6月14日のセレッソ大阪戦だ。この一戦には新戦力4人のうち室屋だけがメンバー入り。渡独前と同じ背番号2をつけた男は『4−2−3−1』の右サイドバックでスタメンに名を連ねた。
「アップの時からサポーターが自分のチャントを歌ってくれて、すごく嬉しい気持ちになりました」と本人も特別な感情を抱いて、古巣復帰戦に臨んだという。強い気迫がチーム全体に伝播したのか、FC東京は開始早々の3分、電光石火の速攻からエースFWマルセロ・ヒアンが先制弾。この直後に室屋は対面したチアゴ・アンドラーデと衝突し、額を切るアクシデントに見舞われた。
「スタートの接触からの流血シーンは、ドイツで経験した守備時に間合いの近さをそのまま体現していた」と視察した日本代表の森保一監督も神妙な面持ちで語っていたが、「目の前の敵には絶対に負けたくない」という室屋の強い思いがにじみ出ていた。「自分は以前、日本にいた時からこういうプレースタイルでやっているので。ただ、(合流から)2週間の練習でインテンシティの高さを意識したし、『1対1で絶対にやらせるな』というのはチームメートにも話していた。僕自身がそこにこだわらなきゃいけなかった」と守備リーダーとしての自覚を色濃く示していた。
室屋がC大阪攻撃のキーマンであるチアゴ・アンドラーデを封じ、左サイドバックの白井康介もルーカス・フェルナンデスを止める。さらに高い位置でボールを奪ってカウンターを仕掛けるシーンを数多く作るなど、前半のFC東京の試合運びは悪くなかった。だが、前半終了間際に一瞬のスキを突かれて1−1の同点に。試合は後半勝負となった。
そこで先手を取ったのはC大阪だった。長期離脱から戻ってきたキャプテン・田中駿汰が交代出場するや否や、2点目をゲット。FC東京は一気に劣勢に追い込まれた。そのタイミングで室屋の対面には本間至恩が入り、若い高橋仁胡も最終ラインから攻め上がる形になり、さらなる警戒が求められた。
「1−2で負けている中で、3失点目は絶対にしちゃいけないと思いながらゲームコントロールしている展開でした。そういう中でも『常にこのくらいの強度の高さをベースにしなきゃいけない』っていうことを示したかった」と背番号2は切実な思いを打ち明けた。
そういう基本的なバトルを制するところからチームが前向きに変化していくことを、ドイツでの修羅場経験の中からよく理解していたに違いない。実際、ドイツでは5シーズン続けてブンデス1部昇格を逃したが、本人は「1部でやれる自信はあった」と言い切る。「ドルトムントに行ってプレーしている仲間もいるし、彼らと一緒にやっていても何の違いも感じなかった。自分も正直言うとオファーはあったし、もう少しドイツでやろうと思えばできたけど、『30歳になったら基本的に日本に帰ろう』と考えていたので、今回、そういう決断を下しました」と少し前に話していた。
決死の覚悟で古巣に戻った以上、“勝利請負人”にならないわけにはいかない。この日は首尾よく2−2に追いついたが、下位に低迷する彼らに勝ち点1だけでは足りない。ここからは3ポイントを積み重ね、浮上していくこと。それしかないのだ。
「こういう積み重ねが大事だと思うので、基本的な部分にこだわっていきたいですし、みんなが一人ひとり責任を持ってプレーしていたら、自然と勝ち点は積み上がっていくと思う。戦う意思だったり、情熱の部分も含めて、これをベースにしていかないといけない」と室屋は改めて闘志をむき出しにした。
侍のようなマインドを持つ男の帰還で勇気づけられている若手は少なくない。その1人が6月代表シリーズで2試合に出場した俵積田晃太だ。「(成君は)言葉とかで何かを言うタイプじゃないですけど、ガツガツしているし、『背中で語る』と言うか。自分がアカデミーの時から見ていた選手なんで、いずれ追い越せればいいと思います」
現状では右サイドバックと左サイドのアタッカーで直接的な絡みは少ないが、室屋のクロスを俵積田が仕留めるような形が増えてくれば、FC東京の得点力はグッと上がる。“ハイレベルなホットライン開通”を楽しみに待ちつつ、30代になった室屋の老獪さを見る者に焼き付け、救世主になってほしいものである。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子


