11月2日、「ナゴヤ〜」と主将GKランゲラックの音頭から、『風』のチャントが“聖地国立”に轟いた。今シーズン限りでのクラブ退団が決まっているレジェンドと獲った最後のタイトル。名古屋グランパスが、3年ぶり2度目のJリーグYBCルヴァンカップを制覇したのだ。
大会史上最多となる62517人が、『国立競技場』に来場した中、初優勝を目指したアルビレックス新潟と対戦した名古屋グランパスは、120分間で2度、タイトルに片手をかけたところから引き戻されたものの、PK戦で奪った3度目のリードは手放さず、Jリーグ全60クラブの頂点に立った。この旅路の始まりは、199日前。『クラブ、選手、ファン、全力で2024に星を』と掲げた今シーズンに、5つ目の“輝く星”を勝ち獲った軌跡を振り返る。
[写真]=J.LEAGUE via Getty Images、金田慎平
■1stラウンド&プレーオフ
名古屋グランパスの初戦は、奇しくも、3年前にルヴァン杯初制覇の立役者となった“クバ”ことFWシュヴィルツォクとの邂逅から始まった。4月17日の2回戦で大宮アルディージャと対戦したロッソジャッロは、FWパトリックのドブレーテで2-0と危なげなく勝利。続く、5月22日の3回戦では横浜FCを3-1で下して、プレーオフラウンドに駒を進めた。
柏レイソルと激突したプレーオフラウンドは、1stレグでFW山岸祐也が、2ndレグでMF中山克広が移籍後公式戦初得点をそれぞれ決め、2戦合計スコア2-1。6大会連続となるプライムラウンド(ベスト8)に進出した。
■躍動した若鯱たち
シーズン前半戦を象徴する出来事として挙げられるのが、若手選手の台頭だろう。今シーズンに名古屋グランパスU-18から昇格したGKピサノ・アレクサンドレ幸冬堀尾が、先の大宮アルディージャ戦で、プロデビューを果たした他、U-18最強世代の“2枚看板”も躍動。関西学院大学から帰還したMF倍井謙は、切れ味鋭いカットインを武器にJ1第8節ジュビロ磐田戦で初得点を記録するなど、攻撃の“ジョーカー”に。立正大学から帰還したMF榊原杏太は、天才肌のレフティらしく、違いを生み出す存在に。また、今シーズンから背番号『5』を託されたMF吉田温紀も、正確無比なキックでチームに貢献。不安定さがあらわになった中盤戦以降は出場機会を減らしたが、多くの経験を得た1年となったに違いない。
そして、爆発的な成長を遂げたのが、CB三國ケネディエブスだ。ディフェンス陣が大幅に入れ替わった中、アビスパ福岡から加入した同選手は、鹿島アントラーズとの開幕節に先発出場したものの、屈辱の3失点。この敗戦から、チームは2000年以来となる開幕3連敗と低迷した。が、三國は試合を重ねるごとに存在感を発揮。タイトな守備や空中戦は然ることながら、ビルドアップ面の伸びしろは目を見張るものだった。シーズンを折り返した頃には、“193cmの闘将”として最終ラインに君臨。韓国代表に選出されるほどの実力者であるCBハ・チャンレからポジションを奪い取った。
■プライムステージ
上位に踏みとどまれなかったリーグ戦、失態を犯した天皇杯を経て、現実的に可能性が残った“聖杯”を目指し、9月にプライムラウンド・準々決勝でサンフレッチェ広島と対戦した。約2週間前に行われたリーグ戦で完敗を喫した相手に対して、本拠地『豊田スタジアム』での1stレグでは善戦したものの、0-1と先手を奪われる展開に。迎えた2ndレグ、開始早々にパトリックのゴールで2戦合計スコアを振り出しに戻した後、延長前半に痛恨の失点。それでも、『Never Give Up』のスピリットが脈々と流れる名古屋グランパスは、延長後半にFW永井謙佑の突破からオウンゴールが生まれる。そして、持ち込んだPK戦で、背番号『1』が見せた。広島の2番手と4番手のキックをセーブ、1番手の枠外を誘発した他、自身もキッカーとして成功させる八面六臂の大活躍。2戦合計スコアは2-2、PK戦3-1でベスト4入りを果たした。
その準決勝は横浜F・マリノスと相見えた中、1stレグで夏加入のDF徳元悠平が左足から3アシストという脅威的な結果を残すと、2ndレグでは山岸が指揮官の期待に応える途中出場即ゴール。J屈指の攻撃陣を揃える横浜F・マリノスに苦しめられたものの、この1点が、2戦合計スコア4-3(1stレグ:3-1、2ndレグ:1-2)と国立への扉を開くものとなった。
■影の立役者
大会MVPを受賞したランゲラック、ゴールへと導いたMF森島司、舵を取ったMF稲垣祥、2得点を挙げた永井など、ルヴァン杯優勝に貢献した選手として脚光を浴びる中心選手たち。ただ、そんな彼らに負けず劣らず、タイトル獲得に欠かせなかった“影のMVP”を忘れてはならない。
「ケガをした瞬間から決勝に間に合わせるという気持ちはずっと持っていた」と、決勝前日に語ったのは、DF河面旺成だ。長谷川健太監督に「アキがいないとビルドアップが成り立たない」と言わしめた3バックの左センターバックは、2022年の加入以降、度重なるケガに泣かされており、先月13日の横浜F・マリノス戦でも負傷交代。今年5月に離脱した際は、復帰するまでの公式戦9試合で1勝3分5敗と負け越していることからも、勝敗のカギを握るほどの存在であることが分かる。前述した通り、決勝戦が復帰戦となったが、120分間を戦い抜いた。
そしてもう1人、今シーズンに名古屋グランパスと“ともに行く”ことを決断したMF内田宅哉。レンタル加入1年目となった2022シーズンはウィングバックとして、2年目となった2023シーズンはボランチとして、完全移籍に切り替わった今シーズンは右センターバックとして地位を確立した。確かなテクニックと、複数ポジションをこなせるサッカーIQに加え、名古屋グランパスで身につけたハードワークは、内田を選手として進化させるものに。長谷川健太監督も絶大な信頼を寄せている。
■ファイナル・アルビレックス新潟戦
迎えた11月2日、『国立競技場』でのファイナルで、名古屋グランパスはアルビレックス新潟と対戦した。長谷川健太監督は『3-4-1-2』のシステムを採用。GKにランゲラック、3バックに内田、三國、河面、中盤の2枚に稲垣、椎橋慧也、右WBに野上結貴、左WBに徳元、流動的な前線のトライアングルに和泉竜司、森島、永井と、“対保持型”のベストメンバーを揃えた。
試合は予想通り、名古屋グランパスが新潟のビルドアップにハイプレスをかける展開になると、31分にミスを見逃さなかった永井が先制点を挙げる。さらに42分、椎橋の縦パスからお手本のような崩しで、最後は和泉のお膳立てを受けた永井がこの日2点目。大きな追加点を奪って、前半を折り返すことに成功した。
しかし後半、初優勝に向けた新潟の執念に呑み込まれる。疲労の色が見え始めた71分に反撃の1点を許すと、後半アディショナルタイムに中山が痛恨のPK献上。これをFW小見洋太に決められ、あと1分のところで天国から地獄に突き落とされた。
それでも、2-2で突入した延長戦の93分に勝ち越し弾を挙げたのは、中山だった。数分前のミスを、苦悩したこの1年を取り返してやるという思いが溢れたゴール直後の雄叫び。“意地の1発”がチームを優勝に前進させた…ように思えたが、延長後半にまたしても失点。そして勝負はこのままPK戦へと突入する。
そのPK戦、ランゲラックの威圧が新潟2人目の枠外に繋がると、同選手を含めて4人目まで全員が成功した名古屋グランパスは、5人目に山岸が登場。長谷川健太監督に託された大役だったが、これを見事にゴール右側に沈めた。PK戦5-4。ロッソジャッロは、日本代表を率いる森保一監督も「ルヴァン杯史上、最も良い試合」と称した死闘を制した。
■“韋駄天”と“伝統の7番”
2016年11月3日、クラブ史上初のJ2リーグ降格の憂き目に遭った名古屋グランパス。あれから8年の月日が流れた2024年11月2日に、当時の悔しさを知る永井と和泉が、プロキャリアを始めた名古屋グランパスでの初タイトル獲得となった。試合後、永井は「やっと恩返しできた」と告白。両者はクラブを離れた時期もあったが、前者は2022年夏に、後者は2023年に復帰。35歳となった“韋駄天”はピッチ内外で、“伝統の7番”を受け継いだ和泉はプレー面でチームを牽引した。
そして、最古参のGK武田洋平。絶対的な守護神が君臨するチームにおいて、今シーズンは公式戦5試合の出場にとどまった。ただ、ドレッシングルームの精神的支柱となり、ランゲラックとのポジション争いに誰よりも意欲的に取り組んだ“熱い漢”と立った頂は、格別なものになった。
試合後には、アシスタントGKコーチを務める楢﨑正剛氏を交えた4名で記念撮影を行うと、同氏が公式Instagramのストーリーズにて「降格組で撮りましょう! って…」と綴ったのに対して、永井は引用する形で「今日がその日だから! 良い思い出も追加できましたね」と返している。
新エンブレム元年に勝ち獲った輝く星。この左胸の“誇り”をさらなる高みへ。6つ目の挑戦が、ここから始まる。
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