6月のインターナショナルウイークが終わり、24日に再開された明治安田生命J1リーグ。追加招集ながら、15日のエルサルバドル戦で日本代表初キャップを飾った大型ボランチの伊藤敦樹も所属の浦和レッズに戻り、川崎フロンターレと本拠地での対戦となった。
今季は苦戦を強いられている川崎Fだが、大島僚太や山根視来、家長昭博、脇坂泰斗といった代表経験者がズラリと並ぶチーム。その相手に対し、伊藤は現役代表としての意地とプライドを示したかった。
序盤から主導権を握ったのは浦和。右MF大久保智明が切れ込んで思い切ったシュートを放つなど、攻撃姿勢を鮮明にした。だが、伊藤自身はいつもよりボールタッチ数が少なく、動きにキレがない。突然の代表招集による精神的疲労も重なったのか、どこか普段の彼とは異なるパフォーマンスに終始した。
0-0で迎えた後半。浦和は関根貴大のロングシュートで1点を先制。伊藤も56分に鋭いインターセプトから攻撃の起点になるなど、ようやく本来のダイナミックさが表に出てくる。しかし、チームは予期せぬミスで失点。1-1になった後、相手の退場で数的優位に立ったものの、ここ一番で追加点を奪い切れない。
結局、勝てるはずだった試合を引き分け、暫定5位に後退。得点力不足が改めて重くのしかかった。
「(得点力は)チームとしての課題ですし、ファイナルサードまでのシュートに行く形、チャンスの回数を増やさないと得点は生まれない。自分のところだったらミドルやもう少しペナルティエリアに入っていくなりして、バリエーションを増やせればいいですね。代表戦で伊藤洋輝選手のシュートを見て、あそこから打てるようになったら武器になるし、相手も前に出ざるを得なくなると思った。もっと練習したいです」と、伊藤は点の取れる大型ボランチへと進化する必要性をしみじみと感じた様子だ。
一方、この日のプレーが停滞してしまったのは、代表初招集による気負いや目に見えない重圧の影響が多少なりともあったからのようだ。
「全体的に自分としては納得いってないですし、こんなんじゃダメ。代表に選ばれたことによって、周りからの見方も変わるし、チームメート、対戦相手も『日本代表』っていう目線で見てくる。自分もそういうレベルのプレーをしないといけない。そのことを意識しすぎてしまってうまくいかなかったですね」
サンフレッチェ広島の川村拓夢は、結果的に体調不良で辞退となったが、代表ウイーク前に同じようなことを話しており、欧州組がズラリと並ぶ豪華陣容の現代表に名を連ねることは、年代別代表歴の乏しい国内組の面々にとって想像以上のプレッシャーがあるのかもしれない。
それを跳ね除け、遠藤航や守田英正に真っ向から勝負に挑んでいくような怪物メンタルを持ち合わせなければ、選手層が分厚くなった今の森保ジャパンで生き残るのは難しい。伊藤には改めて強い自覚を持ってほしいところだ。
ただ、わずかな時間だったとはいえ、欧州5大リーグで堂々と戦っている選手たちとトレーニングをこなし、世界基準を体感できた経験は大きい。そればかりではない。伊藤は追加招集翌日に代表デビューするという幸運にも恵まれた。それを今後に生かさない手はない。
「やっぱりプレーの強度はすごかったですし、強度の高い中でも途切れることなく、プレスも1回で終わることなく、継続してできていたところは自分に足りない部分だと感じました。そこは意識すれば変えられるところ。レッズの練習でチームに伝えていかないといけないし、自分がやることで周りもついてきてくれると思います」
20日のペルー戦後に神妙な面持ちで語っていた伊藤。彼が言うように、高い基準を浦和に持ち込み、全体を底上げできれば、チームでJ1優勝、AFCチャンピオンズリーグ連覇に向かっていけるはずだ。
幸いにして、浦和には欧州で10年間プレーし、UEFAチャンピオンズリーグに参戦経験のある酒井宏樹もいる。守備陣のアレクサンダー・ショルツやマリウス・ホイブラーテンもJリーグ基準をはるかに越えたプレーヤーたちだ。彼らと意思疎通を密にし、自分たちが向うべき道筋をより明確にしていくことも重要だろう。
「自分みたいに身長があって、体格があってというボランチはなかなかいないですし、そこに自分の存在価値があるし、チャンスはあるかなと。推進力や前に行くプレーはどんどん出していきたい。自分らしさをどんどんアピールしていきたいと思います」
本人も代表活動期間にコメントしていたが、185センチ、78キロという大柄な体躯を備えたボランチはそうそういない。だからこそ、森保一監督の期待も大きいはずだ。スケールの大きな男がここで停滞することなく、グングン伸びていけば、日本代表にとって必ず大きな戦力になる。
伊藤自身にはそういった野心をみなぎらせ、遠藤や守田らに割って入る意気込みとパフォーマンスを見せてもらいたい。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子