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「頭の良い」右SB、吉田真那斗がプロデビュー…“自覚”を胸に横浜FMの定位置争いに挑む

2023.04.02

吉田真那斗は背番号「38」を着用し、横浜FMでの第一歩を踏み出した [写真]=J.LEAGUE via Getty Images

 明治安田生命J1リーグ第6節が4月1日に行われ、横浜F・マリノスセレッソ大阪に1-2で敗れた。同試合にて、鹿屋体育大学サッカー部に所属しており、今季はJFA・Jリーグ特別指定選手として登録されているDF吉田真那斗がプロデビューを飾った。

 半年前の吉田にしてみれば、この日のデビューは微塵も想像していなかった出来事なのかもしれない。きっかけはシーズン開幕前のキャンプまで遡る。昨シーズンまで右サイドバック(SB)の主力に君臨していたDF小池龍太が負傷。本人曰く「近くの大学なので、その埋め合わせで呼んでもらった」という経緯で、横浜FMの一員としてトレーニングに参加する機会を得た。そこでのプレーがケヴィン・マスカット監督の目に留まり、来季の加入内定を勝ち獲ることに。前述の通り、今季はJFA・Jリーグ特別指定選手として認定され、公式戦に出場するための準備も整えられた。


 時は現在に戻り、C大阪戦を控えた横浜FMは右SBの選手が不足する事態に陥っていた。小池は3月26日に行われたJリーグYBCルヴァンカップ・Aグループ第2節のサガン鳥栖戦で戦列に戻ってきたものの、同試合から3日後のトレーニングで再び負傷。クラブは右膝蓋骨(しつがいこつ)骨折という診断結果を発表しており、およそ6カ月ほどの離脱を強いられることとなってしまった。加えて、鳥栖戦で小池に代わって後半頭からピッチに立ったDF松原健も試合終了間際にケガをした。C大阪戦は回避することとなり、近年の横浜FMを支えてきた2人の右SBが同時に不在となる窮地に見舞われた

 そこで、マスカット監督は吉田をスタメンに抜擢した。もっとも、センターバック(CB)を本職としているDF上島拓巳を起用するプランもあっただろう。今季より横浜FMに加入した上島は、FUJIFILM SUPER CUP2023のヴァンフォーレ甲府戦で右SBとして先発起用されると、J1第2節の浦和レッズ戦、第5節の鹿島アントラーズ戦でも松原に代わって右SBに入った。試合を追うごとに右SBでプレーの幅を広げており、マスカット監督も「拓巳も自分たちのサッカーを理解し、ここまで取り組んでくれています」と評価している。だが、あくまでも上島はCBの選手だ。マスカット監督はSBを本職とする吉田の起用を決めた理由をこのように語った。

「できれば横浜で、ホームでデビューすることができれば良かったとは思いますが、その中で彼は今日まで戦術的な部分、自分たちがやろうとしているサッカーへの理解など、吸収力の高さを見せてくれていました。“頭の良い選手”だと評価しています。彼について、まだ見ていない部分、試していない分が1つだけありました。それは、Jリーグの舞台でのプレーです。そこを見てみたいという気持ちもありました」

 こうして勝ち獲ったプロデビューの機会。吉田は立ち上がりから横浜FMのSB“らしさ”溢れる動きを見せた。自陣でのビルドアップ時には状況に応じてポジションを取り、敵陣に押し込んだ時には1列前に入った水沼宏太の位置を見て、内側と外側を使い分けながら積極的にボールに関与。26分にはペナルティエリア右で永戸勝也のクロスボールを引き出し、切り返しから左足でフィニッシュに持ち込んだ。

 吉田は山根陸との交代でピッチを去った79分までプレーした。未だ発展途上ではあるものの、今後に向けた期待感を抱かせるパフォーマンスだったと感じる。試合後の会見ではマスカット監督も「難しい状況の中でも、素晴らしいプレーをピッチ上で見せてくれたと自分は思います」と話していた。チームは2011シーズンを最後に白星のない“鬼門”を突破することができなかったが、吉田自身は悪くないデビュー戦となったように映った。

 だが、吉田は「正直、いまひとつだったかなと思っています」と厳しい自己評価を下す。「スピードや運動量は要所では出せたかなとは思うのですが、印象に残るようなプレーではありませんでした」と冷静に自身のプレーを振り返ると、「そこはどんどん練習からチャレンジしていきたいと思います」と今後を見据えた。

「緊張ももちろんしましたが、ワクワクした気持ちを持って、楽しみながら試合に臨むことができたと思っています。もちろん結果は負けてしまい、不甲斐ない結果でした。自分としても、もっともっとチームの勝利のためにやっていかなければと思います」

 マスカット監督だけでなく水沼、畠中槙之輔らポジションが近い選手からも声を掛けられたことを明かし、「1番は思い切って、チャレンジしようかなという想い」と“若武者”ならではの勢いを持って試合に入った。もちろん、横浜FMのSBとして求められる役割の整理も忘れてはいない。「タスクの使い分け、ポジション取りの部分は健くんや龍太さんを見て、研究して、自分のものにしていかないといけないと思います」とまだまだ“先輩”から盗んでいく部分があると主張した。

 デビュー戦を終えた吉田は「今日がチャンスというのは自分の中でも思っていました。不甲斐ない結果になり、(この先)どうなるかはわかりませんが」と前置きしつつも「やっぱり今はSBがいない状況なので。自分が『マリノスの選手なんだ』という自覚を持ち、ポジションを奪うくらいの勢いでやっていきたいなと思います」と意気込んだ。禍を転じて福と為す。小池、松原が同時に負傷したことは痛手だが、新進気鋭の吉田が横浜FMの右SB争いに新しい風を吹かせる。

取材・文=榊原拓海

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