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終盤に失速、まさかの逆転負け 鹿島FW鈴木優磨が強調する「経験を糧にする重要性」

2023.02.26

鹿島FW鈴木優磨 [写真]=金田慎平

 過去6シーズンのうち4度のJ1制覇を達成している川崎フロンターレに対し、2015年から未勝利の鹿島アントラーズ。2月25日の2023明治安田生命J1リーグ第2節のホームゲームでは、是が非でも負の歴史を断ち切りたいと岩政大樹監督も選手たちも燃えに燃えていた。

 川崎F対策は万全。しかも開始5分の知念慶の先制弾と、理想的な入りを見せた。その一撃をお膳立てしたのは、キャプテンマークを巻いて最前線の一角を担う鈴木優磨。植田直通のサイドチェンジをペナルティエリア左外で受けた彼はライナー性のボールを前線へ送った。これを古巣対決の新加入FWが頭で押し込み、早々と1点をリードしたのである。


「俺の中では知念君の存在が本当にデカくて。まず競り合いを全部競らなくていいし、デカいし、フォローに行かなくても1人でキープできる。そういう選手の集まりがビッグクラブだと思う。危険なところが散らばれば散らばるほど、自分は目の前の相手だけに専念できる」と鈴木は“知念効果”を前向きに語っていた。

 その後は案の定、川崎Fにボールを握られた。前半の支配率は鹿島の29%に対し、相手が71%と数字的には圧倒的劣勢を余儀なくされた。シュート数でも上回られたが、危ない場面は43分にゴール前に侵入してシュートを放った脇坂泰斗の決定機くらい。鈴木自身も「ボールを回させている」という意識で戦っていたという。

「今日は点を取ってからも非常にいい攻撃ができましたし、相手はショートカウンターも嫌がっていた。先制点を取れて、苦しんでいたのは確実に相手の方」と鹿島ペースで進んでいるという確信を持つことができていた様子だ。

 後半に入ってからもその流れは続き、岩政監督も「おおむねゲームをコントロールできていた」と手応えを感じていた。そのまま押しきれればよかったが、終盤に“魔の時間帯”が待っているとは、彼らも予想できなかったかもしれない。

 試合が急激に動き出したのは、川崎Fの山村和也が仲間隼斗の決定的機会を阻止して一発退場した83分あたりから。数的優位に立った鹿島は確実にゲームをクローズできるはずだったが、逆にギアを上げてきた川崎Fに押される格好に。そして終了間際に、左CKの流れからルーキーの山田新に同点弾を奪われてしまう。

 アシストした家長昭博のバイシクルは見事と言うしかなかったが、そういうプレーを出させてしまうのが、今の鹿島の余裕のなさ。直前にベンチに下がっていた鈴木は苦虫を噛み潰したような顔で見守っているしかなかっただろう。

 さらに悪い流れは続き、鹿島は荒木遼太郎が橘田健人のシュートをハンドで止めたと判断され、PKを献上。これを家長が蹴り、いったんはGK早川友基がセーブしたために事なきを得たかと思われた。が、早川がキック前にゴールラインから両足を離していたとして、VARチェックに末にやり直しに。結局、これを沈められ、1-2で逆転負け。彼らはまたしても川崎Fの壁を破れなかった。

「甘くないっていうのは感じました。さすがは近年、Jリーグを引っ張ってきたクラブだと最後の最後に感じました」と背番号40は潔く力不足を認めていた。

 特に彼が目を向けたのは、自身が下がった後のゲームマネジメントだ。植田こそ残っていたものの、ピッチには荒木や松村優太、佐野海舟ら若手が多かった。彼らは川崎Fの勢いをモロに受け、凌駕される格好になったが、もう少し違った駆け引きができたはず。そんな思いが鈴木にはあったようだ。

「やっぱり結局は個人のところ。途中から出てきた隼斗君なんかは自分のやるべきことをよく分かっていますけど、若手はこの経験をどう生かすかが大事。俺も『次にチャンスをもらえた時には絶対にそういうことをしたくない』という思いでやってきました。自分も植田君もみんなそうだった。ミスして負けて、シュート外して負けて、自分のマークを外して負けてね…。それを絶対に無駄にしちゃいけない。良くも悪くも、現代は切り替えがすごく強調されますけど、ミスを重く考えることも大事。そう思います」

 不運な結末とも言えたが、肝心なところで退場し、PKを与えた荒木などは、この発言を真摯に受け止める必要があるのはないか。山田の同点弾の際、クリアが小さくなった垣田裕暉にしてもそうだが、成長途上の面々が試合巧者ぶりを身に着けなければ、常勝軍団復活の道は遠のいてしまう。小笠原満男らからサッカーの真髄を学び続けてきた鈴木だからこそ、今、あえて厳しい発言をしたのだろう。

「知念君や俺が抜けた後、ハッキリ言って強度も落ちています。それもしっかりチームとして考えてやっていく必要がある。そのことを個々で感じて、普段から詰めていけるか。そういう戦いだと思います」

 鈴木はこうも付け加えた。90分以上に及んだ長い戦いで、終盤に川崎Fに迫力や運動量で上回られたというのは事実。そこから目を背けずに、最後の詰めの甘さを克服していくしか、タイトル奪還はあり得ない。

 ショックの大きい敗戦だったが、背番号40が言うように、これをどう先につなげていけるかが重要だ。まだシーズンは始まったばかり。ここから鹿島がどう巻き返しを図っていくのかを興味深く見続けたい。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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