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橘田健人は“旗手怜央の道”を辿れるか マルチな能力に磨きをかけて国際舞台へ

2022.06.27

磐田戦では3つのポジションで奮闘した橘田 [写真]=Getty Images

 AFCチャンピオンズリーグはグループステージ敗退、天皇杯3回戦でもまさかの苦杯を喫するなど、今季は苦戦が続く川崎フロンターレ。肝心のJ1も序盤に横浜F・マリノスセレッソ大阪に大敗し、5月21日のサガン鳥栖戦からは3戦未勝利と、盤石とは言えない展開を余儀なくされている。

 停滞感を打破すべく、鬼木達監督は6月の国際Aマッチデー(IMD)期間に秘策を講じた。それは橘田健人の左SB起用。中断明け初戦となった6月18日の北海道コンサドーレ札幌戦でサプライズ采配を見せ、5-2の白星につなげると、25日のジュビロ磐田戦でも連続で同じ位置に抜擢。チャナティップと縦関係を形成し、背後から攻撃陣を支える役割を担ったのだ。


 2021年の川崎加入後はアンカーかインサイドハーフのいずれかでプレーしていたため、「中盤の選手」というイメージが強い橘田。だが、実は桐蔭横浜大学時代には何回かトライしたことがあるという。

 IMD期間の練習試合でも45分弱プレー。指揮官の思惑は感じ取っていた様子だ。が、公式戦で未知なるポジションを任されたら、戸惑いがあって当然。しかも、最終ラインに陣取る以上、持ち前の攻撃センスやボールのつなぎ、展開力などを発揮する前に、ピンチを防ぐことに集中しなければいけない。そう考えて、彼は磐田の吉長真優山本義道が形成する相手右サイドに応戦。前半は危ない場面をほぼ作らせなかった。

「予測の部分などは自分の中でも出せる部分だと思います。ただ、背後のロングボールなどの対応は課題。そこはやっていけるようにしたい」と本人は手ごたえと改善点を明確に整理した様子だった。

 そのうえで、攻撃面のアグレッシブさも発揮した。最たるシーンが前半終了間際に左サイドを駆け上がった決定機。チャナティップのスルーパスに鋭く抜け出し、ペナルティエリア内をえぐって中に折り返したが、残念ながら小林悠とはあと一歩、タイミングが合わなかった。

「チャナが中に入った時は外を回るように、とは試合前から言われていました。いい形で抜け出せたので、最後のところをしっかり合わせられたらよかったです。あそこで2点目を取れたら試合も変わっていたと思うので、最後の質のところにもっとこだわりながらやりたいです」と背番号8は悔しさをにじませた。

 山根視来のゴールで1点をリードして迎えた後半。磐田が1トップから2トップへ変更し、アンカーの大島僚太へのマーク強化などをしてきたため、川崎は圧力を受け始める。鬼木監督は2点目を奪うため、左の切り札であるマルシーニョを投入。橘田は前半とは異なる縦関係を形成することになり、より頭を使わなければならなくなった。

 70分過ぎには左インサイドハーフにポジションを変え、さらに山根にアクシデントが起きたラスト10分間は右サイドバックへ移動。今度は家長昭博との縦関係で戦うことになった。1試合で3つのポジションを担うのは異例だ。インテリジェンスの高い彼もやはり多少の難しさを感じたのか、磐田の金子翔太らに攻め込まれてしまった。

「後半、相手が高い位置まで出てきて、それに結構ハマってしまいました。逆サイドにボールがある時のサポートとか、前へ行く、セカンドを拾うといったチームのやり方がハッキリしていなかったと思いますし、中で修正できなかったのもよくなかった」と、反省の弁を口にする。最終的にリスタートから追いつかれ、勝ち点2を逃したことも重なり、橘田自身、不完全燃焼感が強かったことだろう。

 ただ、こうやって複数の役割を託されるのは、指揮官の信頼の証であり、ユーティリティ性を高く評価されているということでもある。その起用法を見ていると、2020~21年にかけて大ブレイクした旗手怜央を彷彿させる。旗手も左SBにコンバートされた時は攻守のバランスに苦慮したが、自分なりにバランスを体得した結果、東京五輪出場を果たし、セルティックへ移籍。日本代表にも名を連ねるところまで一気に上り詰めた。

 ルーキーイヤーの昨季、「Jリーグの目玉選手」と評され、一気に存在感を高めた橘田も旗手の系譜を継いでいける可能性は少なくない。鬼木監督もそう考えているからこそ、攻守両面で多彩なプレーを要求しているに違いない。

 このところの一挙手一投足を、日本代表の森保一監督も逐一チェックしているはず。以前から「7月のEAFF E-1選手権の有力候補」と言われていた橘田だが、アンカーやインサイドハーフ、SBで使えるメドがある程度立った今、その確率はより一層、高まったと言っていい。

「E-1はそこまで意識していないです。まずはフロンターレでしっかりスタメンを勝ち取って、勝利に貢献できるように頑張って、その結果選ばれたら嬉しいなというくらいの気持ちでやっています」

 こう話した彼自身はあくまでチーム第一の姿勢を貫いているが、山根や谷口彰悟とともに国際舞台に立ちたいと思わないわけがない。

 同時期に川崎はパリ・サンジェルマンと対戦するため、「チームに残るなら残る、で問題ない」という気持ちもあるかもしれないが、いずれにしても、橘田のインターナショナルデビューは間近に迫っている。

 まさに「ブレイク前夜」と言っていい時期だからこそ、自分からアクションを起こし、チームを動かせるような存在になってほしい。磐田に取りこぼし、首位の横浜FMと勝ち点3差をつけられた今、地に足をつけて自分とチームを見つめ直すこと。それが橘田健人の大きな飛躍への第一歩だ。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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