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「今は進化か、停滞かの瀬戸際」 稲垣祥は”もがき時”の名古屋をどう統率するのか

2022.05.09

横浜FM戦でフル出場だった稲垣 [写真]=J.LEAGUE

 マッシモ・フィッカデンディ監督体制3年目だった2021年は、明治安田生命J1リーグ5位、YBCルヴァンカップ優勝という大きな成果を残した名古屋グランパス。そのチームをさらに発展させるべく、2022年からは、ガンバ大阪で3冠、FC東京でもルヴァン杯優勝の経験を持つ長谷川健太監督が就任し、新シーズンを迎えた。

 プレシーズンは新型コロナウイルス陽性者が続出するアクシデントに見舞われたが、2月19日の開幕戦はヴィッセル神戸に勝利。好発進を見せたと思いきや、その後は白星から遠ざかってしまった。


 指揮官はテコ入れ策の一環として、4月13日のルヴァン杯でのサンフレッチェ広島戦から3バックを導入。大ケガから復帰した丸山祐市を最終ラインに加えて守備を強化したところ、失点が減少。チーム状態も上向いたが、どうしても勝ちがついてこない。リーグ5戦未勝利で迎えた7日の横浜F・マリノス戦は悪循環を断ち切る白星が是が非でもほしかった。

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)から戻ったばかりで疲れが感じられる相手に対し、名古屋はいい滑り出しを見せる。前半24分にはマテウス・カストロの右CKから中谷進之介が打点の高いヘッドでゴール。幸先のいい先制点を手に入れたが、前半のうちに追いつかれ、1-1で折り返す。迎えた後半、藤井陽也が勝ち越し点を挙げたかに見えたが、VARで取り消されるという予想外の事態に直面してしまう。

「レフリーの『オフサイドにします』という言い方はどうなのか。『オフサイドです』なら分かるが、それは彼の主観。相手選手が何のアピールもしないのにひっくり返されるのは悔しい部分がある」と長谷川監督は怒りを爆発させたが、追加点が戻ってくるわけではない。そのダメージを引きずったまま終盤に至り、相手に決勝弾を叩き込まれ、1-2で敗れたのは大いに痛かった。

 これでリーグ6戦未勝利。順位も15位とJ2降格圏一歩手前まで追い込まれている。マッシモ体制で成功体験を得た分、周囲の雑音も大きくなりつつある。

 それでもキャプテンの稲垣祥は「今がもがき時」とあくまで前向きなスタンスで現実と向き合っている。

「今のチームはもう一歩進化していけるのか、停滞していくのかという分岐点にいる。結果が出てない分、宙ぶらりんな状況にいると思いますけど、1ステージ上に行くには苦しみや代償はつきもの。グランパスが常にタイトル争いできるようなクラブ作りに向けて取り組んでいくには、今の時期がものすごく大事。後から振り返った時、『あの時があったからだよな』という時期を過ごしていると思います。そこはサポーターのみなさんとも共有していきたいですね」と静かに語ったのだ。

 彼の言う「もう一段階上のステージ」とは何なのか。簡単に言うと「ウノゼロ勝利でOKのチーム」から「2点3点とアグレッシブに点を取りに行ける集団」へと飛躍を遂げることを念頭に置いているようだ。

「健太さん自身は1-0のまま試合を終わらせるようなことはしないと。1-0で勝っていても2点目を取りに行くんだというのは常に言っていますし、マインドを変えるためにグランパスに来ていると思うんです」

「『去年よかった』というのは簡単かもしれないけど、変化への恐れをなくしていかないといけない。実際、ここ数試合は1点を取れるようになってきていて、そこから2点目を取りに行く姿勢を共有できています。攻守のバランス感覚を新しく変えていくのは簡単ではないですけど、チャレンジしていくしかないですね」

 そのためには、確固たる得点源の出現が待ち望まれるところ。長谷川監督も「リーグ12試合でFW登録の選手が1点も取っていない」と嘆いたが、昨季の救世主であるヤクブ・シュヴィルツォクがドーピング違反の疑いで出場停止になった影響は甚大である。

 酒井宣福柿谷曜一朗金崎夢生はそれぞれゴールにアタックしているが、結果が出ていない。マテウス頼みの前線を活性化するためにも、昨季リーグ8得点を挙げた稲垣の積極果敢な飛び出しがより求められてくる。

「自分の攻撃参加が結果につながるのであれば出していくべきだし、それを制限されているわけではないです。ただ、ボランチとして課されたタスクをこなした上での得点なので。自分が取らなくても前がうまく回って点を取れるようになれば本当にチームになれる。伸びしろは全然あると思います」と彼は目下、フォア・ザ・チーム精神第一のようだ。

 確かに今季序盤は失点が多かった分、自身が中盤の底に陣取って攻守のバランスを取らなければいけないという意識がより高いのだろう。ただ、彼のフィニッシャーとしての能力は非凡なものがある。その武器を出せるように周囲とコミュニケーションを密にすることも、苦境打開の一端になるのではないか。

 それが半年後のFIFAワールドカップカタール2022にもつながってくるはずだ。

「僕が代表やW杯に向かっていこうと思うなら、ここから10点くらい取っていかないといけないので(苦笑)。そこはあまり気にせずにやっていきたいと思っています」

 本人は慎重な物言いを貫いたが、もっともっと野心を前面に押し出し、チームを力強く引っ張っていい。名古屋を危機から救うためにも、キャプテンの稲垣には遠慮せず積極的に発信してほしい。正念場を乗り切るためにもこの男のリーダーシップと得点力はやはり不可欠だ。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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