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「40歳のおっさんが…」 “アテネ世代”山瀬功治は山口のJ1昇格請負人になれるか

2022.04.25

水戸戦では終盤に出場となった山瀬 [写真]=J.LEAGUE

 明治安田生命J2リーグはゴールデンウィークを前に怒涛の5連戦に突入。首位の横浜FCが第11節終了時で勝ち点27と独走状態に入りつつあり、同じくJ1からの降格組であるベガルタ仙台が2位に浮上。まだ序盤戦ではあるが、東京ヴェルディアルビレックス新潟などと熾烈な自動昇格枠争いを繰り広げている。

 3位から6位までの昇格プレーオフ圏内を含めても、大混戦の様相を呈している。昨季終盤に就任した名塚善寛監督が指揮を執るレノファ山口FCも、第10節時点で8位と今季は悪くない滑り出しを披露。クラブ史上初のJ1昇格に向け、ここから一気にギアを上げたいところだった。


 そんな中、迎えた23日の水戸ホーリーホック戦。最近4試合未勝利の相手を叩き、勝ち点3を上積みしたかった。序盤こそやや押し込まれたものの、前半のうちにエースFW岸田和人が首尾よく先制点を奪うなど、いいペースで試合を進めていた。

 ところが、「後半は水戸の圧力をまともに受けてしまった」と指揮官が反省の弁を口にする通り、立て続けに2失点。しかも昨季まで山口の看板FWだった高井和馬に逆転弾を食らったのはショックが大きかった。が、その高井の背後を突いた児玉澪王斗がすぐさま同点ゴールをゲット。2-2のままで終盤を迎えた。

 名塚監督はラスト6分というところで3枚替えの大勝負に出る。うち1人は背番号33をつけた大ベテランの山瀬功治。J2のフィールドプレーヤーでは中村俊輔山本英臣に続く3番目の年長者は、重要局面で「勝利請負人」として投入されたのだ。

 2000年に加入した北海道コンサドーレ札幌からプロキャリアをスタートさせた40歳のMFは、浦和レッズ横浜F・マリノス川崎フロンターレと強豪クラブを渡り歩き、日本代表でも13試合5ゴールという結果を残している。岡田武史監督時代の2008年には「代表最大の得点源」と評された時期もあったほどだ。その後、京都サンガF.C.アビスパ福岡愛媛FCを経て、今季から新天地に赴いた。

 山口が昨年末に愛媛を契約満了になった技巧派MFを補強したのは「高度な経験値を投入してほしい」という期待があってこそ。彼はその意図を確実に理解し、ピッチ上で実践。4-3-3のインサイドハーフとして10試合中8戦に出場して1ゴールと、限られた時間の中でも爪痕を残してきたのである。

 この日もピッチに立つや否や、右サイドから鋭いクロスを入れ、ゴール前で思い切りのいいシュートを放つ。チーム全体の矢印を前に向けようという狙いが色濃く見て取れた。ただ、その姿勢は結実せず、後半アディショナルタイムに被弾。2-3の敗戦を喫し、順位も12位に後退してしまった。

「僕のスタンスは、その時々にできることを全力でやって、結果は後からついてくるという考え方。毎回勝てるわけではないし、今回は負けましたけど、つねに全力でやり切れているという自負はあります。ただ、今日はゴールを狙う意識が強すぎたがゆえに、チーム全体としてバタついてしまったのかな。そこは1つ反省ではあるのかなと思います」

山瀬功治

[写真]=J.LEAGUE

 一つひとつのプレーと真摯に向き合い、じっくり考えて、自分なりの回答を導き出すのは、紆余曲折を味わってきた山瀬らしいところだ。若い頃は大ケガを繰り返し、同い年の阿部勇樹や松井大輔が手にしたワールドカップにも届かなかったが、壮絶なキャリアを送ってきたからこそ、「つねに全力でやり切る」というポリシーが染みついたのだろう。

 ひたむきな姿勢は成長途上の山口の若手、中堅選手に大きな刺激を与えるはず。本人もそうなればいいと願いつつ、いかにしてチームを高いレベルに引き上げるかを模索し続けている。

「ゲームって、90分通して流れがありますよね。それを考えずに相手を圧倒できるくらいの実力があれば、あまり流れは関係ないのかもしれないですけど、そこまでの力がないチームは戦況を読み、対応する力が必要になってくると思うんです」

「チームのプレーモデルはもちろんあるし、それをオートマティックにこなすことも重要ですけど、1回、手動にして考えて見るとか、常識自体を疑うことがあってもいい。プレーの幅や引き出しを広げていければ、チームが1つ上のレベルに到達できる。僕はそれを示せる存在かもしれない。強度では若い子に負けるけど、質の部分にはこだわれる。『40超えたおっさんがそのくらいやっているんだから』と周りに思ってもらえるように、このチームで全力で戦っていきます」

 山瀬の発言からは高度なプロ意識がひしひしと伝わってくる。幸いにして山口には関憲太郎渡部博文佐藤謙介ら経験豊富な面々が何人かいる。彼らとともに英知を結集し、臨機応変さや対応力、応用力を体得させるべくアクションを起こしていけば、未知なるJ1という大舞台に辿り着ける可能性も見えてきそうだ。

 ファルカン監督時代の94年、加茂周監督時代の95年に日の丸を背負った名塚監督も選手たちの意識改革や覚醒がカギだと浮上の最重要ポイントと考えている様子。飽くなき向上心を持ち続ける40歳のMFは、指揮官の求めるところを率先して体現してくれるはずだ。

「サッカーへの情熱? そんなんじゃないですけど、思いがなかったら終わっちゃいますよ。自分が(選手として)終わらないためにどうするかってことなので(苦笑)」

 試合後、最後まで遠慮がちな口ぶりだった山瀬は、泥臭く貪欲に前へ前へと突き進み続けるに違いない。アテネ世代の生き残りの行く末をしっかりと見守りたいものである。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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