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中村憲剛、39歳のリスタート。引退した内田篤人の分も「頑張らなきゃ」

約10カ月ぶりの復帰を果たした中村憲剛 [写真]=金田慎平

 旗手怜央とレアンドロ・ダミアンのゴールで清水エスパルスを3-0で突き放していた77分、川崎フロンターレを取り巻く全ての人々が待ち望んだ瞬間が訪れた。背番号14をつけた大黒柱・中村憲剛がダミアンと代わって登場したのだ。

 昨年11月のサンフレッチェ広島戦で負った左ひざ前十字じん帯損傷・半月板損傷を乗り越え、10カ月ぶりに同じピッチに立った39歳のベテランは、「サッカーを楽しもう」という気持ちを前面に押し出した。ファーストタッチはいきなりシュート。「(宮代)大聖からいい落としが来たんで、まず打とうと。小林(悠)に当たってなければどうなんだろうなと(笑)。でもあの一発で自分の中でスイッチが入ったところはありました」と大きな手ごたえをつかんだ。

 そして8分後の85分。相手DF岡崎慎が中途半端なボールコントロールしたのを見逃さず、ループを選択。左足で放ったシュートは美しい弧を描いて無人のゴールに飛び込んだ。直後には「ゲッツ」のゴールパフォーマンスを披露。彼は童心に帰ったかのような満面の笑みで完全復活の喜びを爆発させた。

 結局、試合は5-0。鬼木達監督も「憲剛は持ってる」と語ったが、自らのゴールを含む大勝劇が彼にとって最高のリスタートになったのは間違いないだろう。

「話すとだいぶ長くなるような話なんですけど、10カ月ぶりなんで。みんな待ち望んでくれていたと思うんですけど、誰よりも自分が待ち望んでいた瞬間だった。得点が取れるとは思わなかったんで、ホント感謝しかない。この10カ月が早送りみたいな感じで自分の頭の中を巡っていった1日でした。『等々力には神様いたな』ってのは正直ありますね」

 しみじみとこう語った中村憲剛。ここまでの大ケガをしたのは人生初だった。しかも39歳という年齢だけに、復帰の道が険しいのではないかと見る向きもあった。リハビリは比較的順調に進んだが、3月になって新型コロナウイルス感染が急拡大。4月には緊急事態宣言が発令され、川崎市・麻生のクラブハウスへの立ち入りが禁止となってしまった。

「3月になって負荷が強すぎたのか、ひざのお皿なのか分かんないけど痛みが生じて、できるメニューがどんどん削られていったんです。その矢先にクラブハウスに行けなくなった。自分のひざの先行きが見えませんでしたし、国とJリーグ、フロンターレも先が見えなくなった。ちょうど時期が重なってしまって、あの時が一番しんどかったです。でも家族がネガティブにならないような声掛けをしてくれた。『一家の主の父親がそういうことじゃダメだろう』って自分の中で思ったし、ホントに彼らに助けられましたね」

 唯一の足踏み期間を経て、左ひざは再び回復傾向を辿り、ついにこの日を迎えることができた。ただ、その間には同じくケガに苦しんだ日本代表の後輩・内田篤人の現役引退というショッキングな出来事もあった。

 内田とは2010年南アフリカワールドカップでともに試合に出られず、悔しさを共有した間柄。「控え組の練習は元気にやろう。盛り上げよう」と率先して内田や岡崎慎司をサポートしていたのが中村憲剛だった。その後、2014年まで代表で共闘したが、内田がシャルケで異彩を放つ姿を頼もしく感じていたに違いない。だからこそ、ツイッターで「これは寂しい。会うたびに『けんちゃんより先には絶対やめないから』って言ってたじゃないか…」と寂寥感を吐露した。今回、そんな彼の分まで前へ前へ突き進もうという新たなモチベーションを抱いたようだ。

「篤人に関しては今に始まったことではなかったし、ひざの痛みは僕も分かっていました。自分の場合はしっかりリハビリすればまたサッカーができるっていうのを、元のチームメートや先輩、後輩がアドバイスをしてくれたんで、とにかく治すだけだった。篤人の引退セレモニーもしっかり見ましたけど、グッとくるものはありましたし、自分も頑張らなきゃっていう思いにはなりましたね」

 10月にはいよいよ40歳の大台を迎えるが、中村憲剛に限界はない。かつて話していた「矜持」が自身を突き動かすのだろう。

「『生き残る術』を後輩たちに見せたいっていうのが俺にはあるんだよね。特別なことは何もやっていないけど、大事なのは『技術』と『頭の中』。そこさえクリアになれば、プレーにムダがなくなるから。高い技術でしっかりとボールをコントロールできれば、余計なことをしなくていいからね。もちろん、チームのスタイルやビジョンも大事ですけど、そこを磨いていくことが長生きできる秘訣なのかなと思いますね」

 こういった部分は存在感を高めている脇坂泰斗や田中碧、下田北斗らには辿り着けていない境地だろう。ベテランならではの強みを体得している男は、この先の熾烈なポジション争いも勝ち抜き、再び川崎の看板としてピッチで躍動してくれるはずだ。

 重要プレーヤーの復帰は、J1首位をひた走る川崎にとっても大きなプラスと言っていい。8月23日の名古屋グランパス戦で今季初黒星を喫し、26日のヴィッセル神戸戦でもドローとやや停滞感が漂いつつあった彼らに新たな活力がもたらされるに違いない。ここから再びギアを上げる意味でも、中村憲剛には出場時間を着実に増やし、ピッチ上で力強く周囲を鼓舞してほしいものである。

文=元川悦子

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