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【インタビュー再録】『柏木陽介』と『キャプテン』

 2010年の加入から9年目となった今年、柏木陽介浦和レッズのキャプテンに就任した。自らを「“キャプテンぽさ”はない」と語る彼が、その役を任されて感じた重圧や葛藤、自身の変化を語りつくす。(浦和マガジン 1月号(11月30日発売)掲載 ※このインタビューはシーズン終了前の11月初旬に実施されたものです)

インタビュー・文=細江克弥
写真=野口岳彦、兼子愼一郎

キャプテンじゃなかったから手に入れられたスタイル

――このインタビューには「サッカーの細かい話はしない」というコンセプトがあるんですが、編集部による協議の結果、柏木選手のトークテーマは「キャプテン」となりました。
柏木 サッカーの話になってしまいますね(笑)。
――はい。なので、あまり気にせずに話しちゃいましょう(笑)。ちなみにキャプテンの仕事について、柏木選手はどう考えていますか? 「キャプテンだからといって特別なことは何もない」のか、それとも「キャプテンだからやるべきことがある」のか。
柏木 僕は後者ですね。やるべきことはあると思う。最初はそうは思っていなかったんですよ。ただ、自分がキャプテンになってみたら、そうせざるを得ないことに気づいた。やっぱり、浦和レッズという場所が特別だからだと思います。他のクラブだったらもう少し「自分らしく」というスタンスでキャプテンを務められたのかもしれないけれど、レッズだからこそいろいろなことを考えてやらなきゃいけないし、発言や行動に“レッズらしさ”を出さないとチームをまとめ切れないと感じていて。もちろん、その中に多少は自分らしさみたいなものも自然と入ってくるんでしょうけど。
――「レッズだからこそ」とは?
柏木 掛かるプレッシャーの大きさですよね。他のチームにはないプレッシャーは確実にあって、そのことはこのチームに来たばかりの頃から気づいていました。でも、キャプテンになってからはより一層強く感じるというか。
――分かります。ちなみに「先天的なリーダー気質」ってやっぱりあるじゃないですか。特別なことを考えなくても先頭に立てる人、立たされる人がいる。そういう意味で、ご自身のキャプテンとしての資質についてはどう考えていますか?
柏木 “キャプテンぽさ”はないですよね。やったことはあるんですよ。中学生の時に。ついでに生徒会長だったこともあって。
――それはちょっと意外。
柏木 まあ、生徒会長はその年のサッカー部のキャプテンが立候補するという決まりだったので“ついで”ではあったんですけど(笑)。
――それでも、周りからは先頭に立つことを期待されてしまうタイプなのでは?
柏木 いや、そういうわけでもないかな。僕のことを「キャプテンぽい」と言う人はほとんどいないと思います。今だからこそ「そうなってきたな」と言う人はいるかもしれないけれど、「昔からそうだよね」という人はたぶんいないんですよね。先頭ではなく“前のほう”にいる人間ではあったと思うんですけど、それ以上ではない。それに、もし子どもの頃から本格的にキャプテンをやるようなタイプの人間だったら、今みたいなプレーはできなかったと思うんです。自分みたいなプレースタイルを手に入れるためには伸び伸びとプレーする必要があったと思うし、伸び伸びとプレーするためには、キャプテンじゃないほうが良かった。もちろん“僕の場合”の話ですけど。
――なるほど。
柏木 それって、今、キャプテンになったからこそできるようになったプレーがあると感じているから、逆にそう思うようになったんですよね。例えば、キャプテンじゃなかった頃の自分は、今みたいに声を出し続けたり体を張った守備をすることができませんでした。キャプテンになって、それが少しずつできるようになってきたと感じているからこそ、僕の本来の持ち味は「キャプテンだったら得られなかった」と思うんです。そういう意味でも、特に子どもの頃なんてキャプテンになるようなタイプじゃなかったんですよね。
――ということは、本当の意味でキャプテンのメンタリティーが芽生え始めたのは、実際にキャプテンを任された今シーズンから?
柏木 そうです。完全にキャプテンになって「から」。だから、キャプテンになったばかりの頃は何をしていいのかもよく分からんし、ほとんどパニックみたいな感じでした。結果も出ないし、「もっといいキャプテンにならなきゃ」と無駄に頑張ろうとしている自分がいたりして。上の世代の人たちに聞いてみたりしたけど、みんな「陽介らしくあることが一番いい」と言ってくれるんですよね。でも俺にとっての“自分らしく”はどうしても力を抜いてしまうことになるから難しくて。キャプテンとしての“いい塩梅”を探るのに、かなりの時間を使いました。

勝たなきゃ意味がない、そう思うようになった

――自分自身が「変わらなきゃ」という焦りもありました?
柏木 ありました。何より結果が出なかったことで、そういう焦りが大きくなってしまったところもあって。結果が出なければたたかかれるのは選手であれば当たり前のことだけど、「俺がキャプテンをやっているから」という意味での苦しい経験もあったんです。
――具体的に言えば、直接的に批判されたり。
柏木 今となっては、それもいい経験だったと思いますよ。一皮むけるための力になりました。そう考えると、物事がうまくいっている時、つまりチームの調子がずっといい時期のキャプテンだったら、僕個人として得られるものも小さかったのかもしれないですよね。
――ちなみに、10番とキャプテンはどちらが重い?
柏木 キャプテンかな。今の10番って、僕らが10代だった頃とは意味が変わってきてますから。レッズの10番には特別な重みがあるけど、サッカー界全体としての特別感は薄れていると思う。僕の場合は10番ぽいプレースタイルということもあるし、それが好きだから「10番で結果を残す」ことに意味があるけど、今はそれに加えてキャプテンですからね。正直、しんどかったです。
――引き受けたことを後悔したことも?
柏木 堀(孝史)さんが選んでくれたことがうれしかったし、ありがたかったから、後悔したことはないんです。逆に考えれば、他にキャプテンを頼める人がいなかったというのもこのチームの現状なんですよね。僕は長くレッズにいるから、この仕事を引き受けることでまた少し自分が変われるかなという期待もありました。だからこそ、堀さんの信頼に結果で応えられなかったことに対して申し訳ないし、もどかしいという気持ちしかなかったです。
――「自分が変われるかな」と期待していたということは、変わりたいという気持ちがあったんですね。
柏木 ありましたね。2011年と12年……それから、13年もそうかな。今と比べれば体重が重い状態でプレーしている時期があって、ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ)のサッカーだから何とかできていたけど、他のチームならうまくプレーできるか分からないことは自分でも分かっていて。誰かに「太り過ぎやろ」と言われても、「この脂肪がエネルギーに変わってるから」みたいな笑いで返してたんですよね。現実から逃げるための笑い。変わらなければいけない、サッカー選手として取るべき行動を取らなければいけないと思っていたけど、なかなかできませんでした。
――そういう意識は、どのタイミングで、どのように変わったのでしょう。
柏木 日本代表に入り始めた頃、ですかね。その少し前から体重が少しずつ減ってきて、今の奥さんと付き合い始めて変化が出始めた時期だった。やっぱり、ワールドカップを本気で意識したのも初めてだったし、日本代表に入ったことで「もっと頑張りたい」という気持ちは強くなりました。調子がいいまま代表から外れてしまったのは悔しかったけれど、そのおかげで、サッカー選手として頑張りたい、もっとうまくなりたいという欲はどんどん強くなっていったので。やっぱり、阿部(勇樹)ちゃんとか、(中村)憲剛さんとか、ヤットさん(遠藤保仁)とか、コンちゃん(今野泰幸)とか、試合に出続けて結果を残しているベテラン選手の存在がすごくいい刺激になるんですよ。僕自身もそういう選手になりたいと素直に思えたし、そう思わせてくれたのが日本代表でした。
――そうやって、自分から「変化」に向かって行ったんですね。
柏木 正直に言えば、「サッカーが楽しければそれでOK」という時期もありました。試合に負けても自分がいいプレーをすれば悔しくなかったし、レッズに来て最初の頃もそういう感覚でした。だけど徐々に勝てるようになってきて、優勝争いに絡むようになってから「そうじゃあかん」と思うようになった。ゴールやアシストはうれしい。でも試合に勝たなければ何も意味がないと思うようになって、考え方や行動も変わってきたんです。
――外から見ていても、柏木選手のオーラは少しずつ変わっていった気がします。
柏木 レッズへの愛が年々深まっていく感覚があって、それに引っ張られているような気がするんです。最近は僕が試合に出ているかどうかで「雰囲気が違う」とよく言われるようになったし、自分ではそこまで感じていないけど、それってすごく大きいことだなと思っていて。今はまだ難しい時期にあるけど、今シーズンは本当に、得られるものが多かった。これで自分が思っているとおりのプレーができるようになって、結果がついてくればもっと大きなものを得られると思う。

仲間に助けられるルフィみたいなリーダーに

――柏木選手の場合、いい意味での“チャラさ”が、プレーヤーとしてのスタイルであり武器でもありますよね。意識が変わって、キャプテンを務めるようになって、そういう武器を失ってしまうかもしれないという恐怖心はなかったですか?
柏木 いや、もう、それ以前からだいぶなくなりつつありますけどね(笑)。確かに、今の自分は「楽しみたい」よりも「勝ちたい」のほうが強くて、そのプレッシャーの中でプレーしている。広島にいた頃と比べて伸び伸びやっているかと言われたらそうじゃないし、いいアイデアを持ってプレーできているかと言われたらそうじゃない。ミシャのサッカーって、完全に確立されていたじゃないですか。だから、ある程度の余裕を持ってプレーすることができていたけど、それがいろいろと変わって、楽しさを感じる余裕がなくなっていることは間違いありません。でも、不思議と、今の自分も嫌いじゃないというか。
――変化であって、後退じゃないということですよね。
柏木 はい。それまではずっと、逃げていましたからね。試合の映像はほとんど見なかったし、ネットで書かれていることも見なかった。今はそういう意味での現実ともしっかり向き合うようになったし、今の自分がキャプテンとして感じているしんどさも、絶対に意味のあることだと信じているので。サッカー選手として生きているうちは“超えられない壁”はないと思うんです。むしろ壁がないと強くなれない。で、超えられなくなったら引退ですよね。
――よく分かります。
柏木 僕の中では、試合に出ているし、楽しくサッカーできているし、「それでOK」という感覚だった数年間がなかったら、もしかしたら今、日本代表の主力として活躍していたかもしれない。そんな思いもあるんです。でもそれは、サッカー選手としてはダメでも、人間的に成長するために大きな意味があったとも思っている。あの時間を“なし”にしたくないからこそ、今直面している壁を乗り越えて、その成果をレッズに還元したいんです。
――今直面している壁は、どんなタイミングで「乗り越えた」と言えるものなんでしょうね。
柏木 やっぱり、タイトルやと思います。今年なら天皇杯。自分が初めてキャプテンをやった年に何か一つでもタイトルを取れたら、今までと違った喜びや感覚を得られると思う。たぶん、次の壁も見つけられると思います。
――チームの中心に立ってトロフィーを掲げたいなんて欲望、あります?
柏木 いや、どうやろ……。まあ、ずっと副キャプテンではあったから、比較的真ん中で、2番目に大事そうなものは掲げてきたんですよね(笑)。だからそんなに強い欲望はないけど、とにかくキャプテンとしてタイトルを取れたら、今までと違う喜びがあるんだろうなと。天皇杯は個人的にも取ったことがないタイトルですから。
――キャプテンとしてのあるべき姿、理想像のようなものも少しずつ見え始めてきた。
柏木 いや、理想像なんて全く見えていないというのが正直なところです。自分の今の姿、キャプテンとして取り組んでいる役割にも、全然納得していないから。うん……。でも、今はまだ全然ですけど、いつかは自分が持っているものをそのまま出していけるキャプテンになりたいと思います。悪い部分も見せてしまうかもしれないけれど、それを支えてくれる人がいてこその“チーム”でもあると思う。キャプテンだからといって一人で抱え込もうなんて思っていないし、チームメートから怒られることもありますよね。それでいいと思っているからこそ、これがうまくいった時に、自分としても、チームとしても強くなれると思う。キャプテンとして助けながら、助けてもらいながら、そうやってみんなで前に進んでいけるようなチームになりたいというか。
――それって、すごく「柏木陽介らしい」と言える気がします。
柏木 そうですか? この例えが正しいかどうか分からないけれど、『ワンピース』のルフィもそうじゃないですか。負けることもあるし、助けられることもある。俺はそういうのでいいのかなって思っているし、逆にそういうスタイルじゃないとキャプテンなんてできない人間だと思っているので。寡黙で、背中で語るような感じも無理だし、プライベートな部分を全く見せずに先頭に立つことなんてできない。だから、ある意味ではみんなでアホしながら、それでもどんどん前に進んで結果を出せるようにしたい。キャプテンとしてはそういう存在でありたいと思うし、そういうチームになったらいいなと思ってるんですよ。

柏木陽介

このインタビューから1カ月後、柏木はキャプテンとして天皇杯を高々と掲げた [写真]=兼子愼一郎

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