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【ライターコラムfrom仙台】天皇杯決勝戦での手応えと悔しさで、靄を晴らせるか…2018年最終戦で湧いた思い

2018.12.17

ホーム最終戦でサポーターとともに記念撮影 ©J.LEAGUE

 12月1日に行われた明治安田生命J1リーグ第34節のヴィッセル神戸戦後、ベガルタ仙台の選手もスタッフも、もやもやしたものを抱えていた。

 この試合では敵地で先制点を許したあとに退場者を出し、2点をさらに追加された。しかし10人で戦い方を整理して反撃し、2点を返す。それでも及ばず2-3でタイムアップ、連敗で2018年のリーグ戦を終えた。


 結果、仙台のリーグ戦最終順位は11位で確定。昨季よりひとつ順位が上がり、勝点45は昨季より4ポイント多い。勝利数も11から13に増えている。しかし、目指していたところは、そこではなかった。3年連続でリーグ戦のトップ5を目指していたものの、今年も達成できなかった。第26節・FC東京戦を終えた時点では4位であり、終盤まで5位以内の可能性を残していた。しかしそのFC東京戦の次の節から思うように結果が出ず、その後のリーグ戦で勝てたのは第32節・サンフレッチェ広島戦のみだった。

渡邉晋

仙台の指揮官として5年目のシーズンを終えた渡邉晋監督 ©J.LEAGUE

「手応えという点でいえば、昨季のリーグ戦が終わったときのようなものがなかった。だから、危機感を覚えていたのです」と、後に渡邉晋監督は振り返った。2014年4月以来、チームを率いて5年目。仙台は年々、選手の入れ替わりや引き抜きを経験しながらも、戦力ダウン以上にチーム力向上を続けてきたが、今季は努力が手応えに結びつきにくかったのだという。

 実際のところ、今季の仙台は戦いの幅が広がっていた。基本フォーメーションは昨季から採用していた3-4-2-1に加え、3-5-2も多様。相手や試合の流れに応じて使い分け、結果を手にしたこともあった。第2節のFC東京戦や第22節の湘南ベルマーレ戦のように、試合途中に選手たちが先に判断してベンチに呼びかけ、形を変えて勝利した例もある。

 先に挙げた最終節の神戸戦では、後半途中から4-4-1に変更して10人でも主導権を握った。4-4-2や4-1-4-1はオプションとして第4節・清水エスパルス戦や第24節・横浜F・マリノス戦の前など、何度かシーズン途中で“仕込み”をしており、人数が減ったことを除けばぶっつけ本番ではない。

 また、フォーメーションは基本的な立ち位置のひとつであり、同じ3-4-2-1でスタートしても、そこから相手や戦況に合わせて動いた先の立ち位置もまた変わってくる。この点でも、今季の仙台は3バックも交えてパス交換して前進する形や、深い位置からの縦パスが入ったときの出し手と受け手の動き方などにバリエーションが増えた。そして、前者の形では平岡康裕のような経験豊富な選手が、後者の形では椎橋慧也のような若手が、それぞれ個人としても成長を続けた。

仙台MF平岡康裕(左)と椎橋慧也(右) ©J.LEAGUE

 それでも、結果を出すには足りなかった。そこが、もやもやの理由である。当たり前のことだが、成長しているのは仙台だけでなく対戦相手も一緒。成長速度も成長のピークもチームごとに違い、シーズンの中で抜きつ抜かれつする。加えて、相手の研究についてもお互い様だ。今季、仙台は「遅くまで目を真っ赤にして研究してくれる」(渡邉監督)というコーチングスタッフで分担して分析を進め、結果を手にした試合もある一方、相手に今まで以上に警戒され、研究され勝ち点を落とした試合もあった。第29節の浦和レッズ戦では、監督は「相手が、その前の節までの試合とは大きく違うような守備の”かかり方”をしてきた」と振り返る。

 このもやもやは、成長を続けているからこそ自らへの要求も相手からのプレッシャーも高くなったために、生じたものと言える。

 そして、その靄を晴らすには、個人のレベルでもチームのレベルでも、現状に満足せず、改善のための行動を起こし続けるしかないことを、選手もスタッフも自覚している。

 12月9日に、仙台は浦和と天皇杯決勝戦で対戦。0-1で敗れ、準優勝に終わった。初タイトルという結果は残せなかったが、リーグ戦の靄を、少なくとも内容で晴らす契機となれた試合ではあった。

天皇杯では準優勝に終わった仙台 [写真]=Getty Images

 先に挙げたように、第29節では相手の研究に苦しみ、セットプレーで追いついたものの内容面では消化不良に終わった。しかしこの決勝戦では、さらに研究を進めてあちこちに蓋をしてきた浦和に対し、サイドと中央を有効活用して攻め立てた。相手が入念に準備したというセットプレーから喫した1失点を取り返せず負けたことは反省点で、優勝できなかった大きな悔しさは残る。だが「全体的に一年間やってきたことがこの場所で出せた。もっと質を高めたい」(中野嘉大)、「着実に自分たちは力をつけている。だからこそ結果を出すためにもっと成長しなければ」(野津田岳人)と、悔しさとともに手応えも大きかった。

 仙台は消化不良のままでシーズンを終えることなく、自分たちの力で次の成長への道を作った。先への光となる思いが、選手にもスタッフにも、他のベガルタ仙台に関わる多くの者にも湧いた。2019年は、これまで以上にその思いを結果につなげる年としたい。

取材・文=板垣晴朗

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