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【土屋雅史氏のJ2展望】4位の東京Vは3連敗中の熊本を下すと見る…金沢の柳下正明監督は古巣・新潟と相対する

2018.09.14

金沢を率いる柳下正明監督。今節は古巣の新潟と相対する [写真]=Getty Images

■果敢に勝負を仕掛ける、東京Vのドリブラー

 リーグ前節は横浜FCとの上位直接対決を制し、1つ順位を上げた4位の東京Vが、今季5度目の3連敗で21位と苦しむ熊本をホームの味スタに迎える第33節。このゲームで勝敗のカギを握ってきそうなのが、かつての指揮官に成長した姿を見せたい緑のドリブラーです。

 7月にG大阪から期限付き移籍で加わると、その切れ味鋭いドリブルで東京Vに新たなアクセントをもたらしている泉澤仁。柏U-15から新潟ユースという珍しいキャリアを辿った彼が注目を集め始めたのは、阪南大学時代のこと。同級生では可児壮隆、二見宏志、窪田良、原田直樹、工藤光輝と6人がプロ入りすることになるタレント集団の中でも、驚異的な加速力を生かした泉澤の突破は常に無双状態。とりわけ3年時のインカレで、GKの岡西宏祐、今井智基、岡﨑亮平を擁した中央大学のディフェンス陣をズタズタに引き裂き、3アシストを記録した活躍は恐ろしさすら感じるレベルだったことを強く記憶しています。

 もちろん複数のJクラブが触手を伸ばす中で、泉澤が選んだのは大宮。ルーキーイヤーはベンチ入りもままならなかった序盤を経て、少しずつ出場機会を得始めたタイミングで、大熊清監督からバトンを受け取ったのが、現在は熊本で指揮を執っている渋谷洋樹監督。結果的にチームのJ2降格は避けられなかったものの、監督交替後からスタメンに抜擢されることの増えた泉澤は、サイドの重要な“槍”としての地位を確立していきました。

 プロ2年目の2015年シーズンは飛躍の年。11年ぶりにJ2を戦うことになった大宮で、終わってみればフィールドプレーヤーで3番目に多い出場時間を記録し、7ゴール7アシストと結果も残して、J1昇格にきっちり貢献。左サイドに開きながらボールを受けると、相手が分かっていても止められないドリブルへとにかくトライする姿勢は、爽快感すら覚える領域に。舞い戻ったJ1でも成長は止まらず、2017年にG大阪へと完全移籍を果たすことになりますが、泉澤のストロングを信じ、ある程度欠点には目をつぶりつつ、試合に使い続けた渋谷監督の存在が、彼のプロキャリアへ大きな影響を与えたことに疑いの余地はありません。

 レヴィー・クルピ体制に舵を切った今シーズンのG大阪で、開幕当初こそメンバー入りを果たしていたものの、徐々に主戦場がJ3を戦うU-23へ移って行った泉澤は、ワールドカップの中断期間に東京Vへの期限付き移籍を決断すると、加入直後からミゲル・アンヘル・ロティーナ監督はスタメン起用に踏み切るなど期待を露わに。前節の横浜FC戦でも、途中出場ながら得意の左カットインから貴重な追加点をマークし、チームも大きな勝ち点3を獲得。J1復帰へ向けての起爆剤として、泉澤はこれからもボールを持ったら仕掛けまくることでしょう。

今季途中から加入した東京Vで、泉澤は早くも重要な戦力となっている [写真]=Getty Images

 さて、降格もチラつく位置での戦いを強いられている熊本は、アウェイゲームとはいえ、何としても4連敗は避けたい一戦。東京Vとは9勝3分8敗と、わずかに勝ち越しているリーグ戦の対戦成績も追い風にしたい所です。ただ、泉澤対策において渋谷監督に一日の長があるのは間違いないものの、今の両チームを見るとやはり優勢はホームチーム。ということで、このゲームは東京V勝利の「1」にマークしたいと思います。

■かつて新潟を奇跡の残留に導いた指揮官が、ビッグスワンに凱旋

 5-0と快勝した前節・岐阜戦の白星は、何と12試合ぶりのホーム勝利。J2残留ラインを意識せざるを得ない18位の新潟が、現在アウェイは4戦負けなしの15位・金沢と激突する一戦。この90分間における最大の焦点は、退任後初めてとなる柳下正明監督のビッグスワン凱旋です。

柳下正明監督にとって、今節の新潟戦は特別な一戦となりそうだ [写真]=Getty Images

 2012年のJ1リーグ。開幕から調子が上がらず、降格圏に沈んでいた新潟は5月に黒崎久志監督が辞任。クラブ史上初めてシーズン途中で監督が交替することになります。この時、後任として新潟の地に降り立ったのが柳下監督。前年まで磐田を率いていた名将に、J1残留のみが成功というミッションは託されました。

 柳下アルビの初陣となったホームの清水戦は1-0で勝利し、開幕から7試合目にしてビッグスワンでのシーズン初白星を手にすると、以降も少しずつ勝ち点を積み重ね、夏にはいったん降格圏を脱出したものの、再び足を踏み入れたボトム3からは抜け出せず。ラスト2試合で15位の神戸とは5ポイント差という絶望的な状況を突き付けられます。

 ところが、負ければその時点で降格が決まる第33節の新潟は、優勝争いを繰り広げていた仙台相手にキム・ジンスが挙げた1点を守り抜いて、何とか勝ち点3を獲得。さらに神戸が敗れたため、最終節に残留の可能性を残します。ただ、柳下監督は主審の判定に異議を唱えたということで退席を命じられており、1試合のベンチ入り停止処分に。シーズン最後の大一番を、新潟は指揮官不在で迎えることになりました。

 当時J1の中継プロデューサーを担当していた私は、最終節を前にして放送カードの選択に迷っていました。個人的に降格の瞬間を映像として送り届けることは、できれば避けたいというポリシーがあり、それに則るのであれば、この時点で14位だったC大阪か15位だった神戸のゲームを選び、より残留の歓喜を放送できる可能性に乗っかるのが本来だったはずです。それでも当時の自分は、絶体絶命の第33節で生き残った新潟の持っている運が、何かを起こしそうな気がしていました。結果、選択したカードは新潟vs札幌。いろいろな想いを抱えながら、上越新幹線でビッグスワンに向かったことを、今でもハッキリと覚えています。

 結末は多くの方の知る通り、あらゆる可能性を全て引き寄せる格好で新潟は残留。試合の解説で放送席に座っていた玉乃淳氏は、残留が決まった直後から、中継中にもかかわらず涙を流していましたが(笑)、私にとっても忘れられない中継になったのは言うまでもない所。さらに、シーズン終了の挨拶で登場した柳下監督が「私がいないと、こんな良いゲームをするんだなと思いました」という趣旨のトークでスタジアムを笑いの渦に包んだことも、思い出の一コマにしっかりと刻まれています。

 翌シーズンのリーグ戦で7位までチームを躍進させた柳下監督は、退任する2015年まで実質4シーズンに渡って指揮を執り、『J1で戦う』というミッションを死守。そこからは3年続けてシーズン途中で監督が交替している現状を鑑みると、やはり新潟というチームと柳下監督という厳格かつ人間味のある指揮官は、うまくマッチしていたのだなあと改めて感じているのは、私だけではないはずです。

 今季の一巡目。金沢と新潟が石川西部で対峙した第12節は、アウェイチームが2点を先制したものの、ホームチームが2点を返すと、89分に渡邉新太が決勝ゴールをマークして、新潟が劇的勝利を収めているだけに、柳下監督もビッグスワンでのリベンジを誓っているはずです。アルビサポにとっても、おそらくは特別な90分間になるはずのこのゲーム。ここはかつての指揮官が、かつてのホームスタジアムで意地を見せると予想。アウェイ勝利の「2」で勝負します!

文=土屋雅史

予想難易度が高いとされるJ2は、toto当せんのカギを握る重要な要素の一つ。国内サッカー事情に精通した土屋雅史氏がJ2を徹底解剖する! 『今週のJ2(http://www.totoone.jp/j2/)』はサッカーくじtoto予想サイト『totoONE(http://www.totoone.jp/)』にて好評連載中。
※本文中の「1」はホームチーム勝利、「0」は引き分け、「2」はアウェイチーム勝利。

■明治安田生命J2リーグ第33節
2018年9月16日(日)16時キックオフ
東京ヴェルディvsロアッソ熊本(味の素スタジアム)

■明治安田生命J2リーグ第33節
2018年9月15日(土)19時キックオフ
アルビレックス新潟vsツエーゲン金沢(デンカビッグスワンスタジアム)

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