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【ライターコラムfrom山形】“ロングシュート”はポテンシャルの証。櫛引政敏が挑む守護神争い

25歳の櫛引は今季モンテディオ山形に完全移籍で加入した [写真]=J.LEAGUE

 5月6日に行われたJ2リーグ第13節カマタマーレ讃岐戦。そのキックは、開始から10分ほどの場面で飛び出した。味方からのバックパスを受けたGK櫛引政敏が素早く前方に蹴り出したボールは、風の影響もありぐんぐん伸びて讃岐ゴールへと向かう。ペナルティスポット付近でバウンドしたボールは讃岐GK清水健太にキャッチされてしまうのだが、一時ホームスタジアムにはどよめきが湧き上がり、公式記録には櫛引のシュート「1」がついた。

「キーパーが前に出ていたので、ワンチャンスあるかなと思って」と、櫛引は狙ったキックだったことを明かした。そして「たまにはああいうキックを見せるのもいいかなと。お客さんに『面白いなあ』と思ってもらえれば」と、普段取材陣にはあまり見せない、茶目っ気のある表情で笑った。

 今季モンテディオ山形に完全移籍で加入した櫛引は、1月のキックオフイベントに集まったサポーターの前で「ロングボールは結構飛ぶので、距離での驚きは感じてもらえると思います」とアピールした。しかし、開幕からゴールマウスを守ったのは昨季38試合に出場した守護神・児玉剛だ。出場のチャンスが巡ってきたのは第12節アビスパ福岡戦。「櫛引には一度チャンスをと思っていた」という木山隆之監督の意図と児玉の負傷のタイミングが重なり、以来、讃岐戦、大宮アルディージャ戦と3試合先発が続いている。讃岐戦では初めてホームのピッチに立ち、山形サポーターにその高いポテンシャルの片鱗を見せた。

櫛引のキック力について木山監督は「カウンターにも使えるし、セカンドボールを拾えればものすごいチャンスになる」と高く評価している [写真]=J.LEAGUE

“ロングシュート”で見せたようなキック力は櫛引の持ち味の一つにすぎないが、木山監督は「チームとして、彼が出る時は使うべき。でもまだ選手たちも、あれを一番怖いところに引き出していくという発想がない。カウンターにも使えるし、セカンドボールを拾えればものすごいチャンスになる」と、櫛引の稀有な能力に舌を巻く。ただ、トータルの評価で監督の信頼を勝ち得たのかといえば、まだその域には達していない印象だ。出場した3試合の戦績は1勝1分1敗で失点3。児玉は既に復帰して前節大宮戦でベンチ入りし、翌日のトレーニングマッチにも出場しており、櫛引にとって一試合一試合が勝負であることに変わりはない。

 青森山田高校では1年生で正GK、2年生で全国高校サッカー選手権準優勝。プロ入りした清水エスパルスでも3年目から出場機会をつかんだ。年代別代表での活躍もめざましく、2016年のAFCU-23選手権カタール大会でアジアNO.1の栄光を手にしている。しかし、この大会で出場権を得たリオデジャネイロ五輪グループリーグ初戦でナイジェリアに4−5と大量失点で敗戦を喫すると、残り2試合は中村航輔(柏)にゴールマウスを明け渡す。これより前、クラブでもポジションを譲っており、清水から期限付き移籍した鹿島アントラーズ、ファジアーノ岡山でも飛躍した姿を見ることはなかった。

 エリートコースを歩んでいるように見えて、山が高い分、谷も深い。打ちのめされた経験は1度や2度ではないし、その原因も自分なりに分析している。ただ、「それは自分の中にあるので、人に言うことでもない」と、胸にしまう。

 今、チーム自体が、後方からのビルドアップよりも手堅い守りにシフトしているからこそ巡ってきたチャンスでもある。今の自分のパフォーマンスについての自己評価を尋ねると、淡々と答えた。

「良い部分もあれば悪い部分もある。改善すべきところは改善し、良いところはより良くするのがサッカーの楽しいところ。どんどん挑戦して、楽しんでいければなと思います」

 試合に出ても、出られなくても、日々やることは同じ。目の前の課題の克服に挑むこと。そしてサッカーを楽しむこと。その平かな心の持ちようはブレない。

 それでも。我々はやはり夢をみる。恵まれた身体能力を持ち、10代の頃から豊富な国際経験を積んできたゴールキーパーが、もう一度J1の舞台で輝く日のことを。25歳。故郷に近い東北のクラブでもうワンランク成長してブレイクスルーを果たし、一緒にJ1に行くことができたら、こんなに嬉しいことはない。

文=頼野亜唯子

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