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村井チェアマンが語るJリーグ「デジタル技術を用いたプレーの『見える化』を価値として交換していく」

村井満チェアマンは「Jリーグのビッグデータは文字どおり大きな資産」と断言する 写真=兼子愼一郎

 多忙のなか取材に応じてくれたJリーグの村井満(むらい・みつる)チェアマンは、「スポーツの醍醐味はライブで観ることに尽きます」と話した。理想は当然スタジアム観戦だろう。勝利を手にすべく一つのボールをめぐって展開される熱戦は同じ空間で味わってこそ、かけがえのない感動につながる。
 
 村井チェアマンによれば、Jリーグはデジタル技術を使い観戦の楽しみ方を増やし、さらには競技力の向上にもつなげたいと考えているという。運営側の意欲的な取り組みの内容と意図を知れば、2018シーズン、25周年を迎えたJリーグの魅力を今まで以上に味わえるはずだ。スタジアムに足を運ぶ週末が待ち遠しくなるに違いない。

構成=菅野浩二
写真=兼子愼一郎
協力=公益社団法人日本プロサッカーリーグ、一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル

■デジタル技術の活用を「顧客体験の向上」につなげる

 英国に本拠を置く動画配信大手企業パフォームグループ様と放映権契約を結んだ2017シーズンは、「Jリーグ公式試合のインターネット配信元年」でした。同社が手がけるスポーツ動画配信サービス「DAZN(ダ・ゾーン)」を通して、パソコンに加え、タブレットやスマートフォンでもJリーグを観戦できるようになった変化は周知のとおりです。

Photo by Getty Images for DAZN

 私たちは時代の流れに応じて、「公式試合のインターネット配信」以前に、すでにデジタル技術を積極的に導入しています。2年前には、2016年からの3年間でデジタル共通基盤の整備を行うことを目標に置き、着実に実行に移してきました。

 デジタル展開については、54クラブがそれぞれに構築するのは効率的ではないと判断しクラブにも同意いただいて、デジタル共通基盤を作りました。オンライン決済のネットショッピングのECの基盤などJリーグが手がけるようにしています。財政と人材の重複投資を軽減するのが狙いで、各クラブは本業であるサッカーやマーケティングにより力を注ぐことができるという考えからです。

 また昨年、私たちはJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」をリリースしました。好きなクラブを登録すれば、該当クラブの最新ニュースや試合速報、チケット情報などがチェックできるというサービスです。さらに、試合日にスタジアムでチェックインすれば観戦メダルが入手でき、メダルを3個集めるごとにペア観戦チケットやサッカーグッズなどの抽選に応募できる特典があります。このメニューはJリーグタイトルパートナーの明治安田生命保険相互会社様のご協力のもとに立ち上がったもので、ファンの皆様にもご好評いただいております。

 デジタル共通基盤の「3年計画」において、2018年は「顧客体験の向上」のステージにあります。デジタル技術の開発・活用に長けたパートナー企業の皆様のご協力を得ながらビッグデータを生かしてファンの方たちにさらなる満足をご提供したいと思っております。

 お客さまの嗜好や応援傾向、あるいはグッズの購入履歴に応じて一人ひとりに合わせた情報やサービスの提供が可能になり、それこそが「顧客体験の向上」につながると考えています。

 ファンそれぞれのJリーグ体験がこれまで以上に充実すれば、日本のサッカー文化はさらなる発展を遂げるでしょう。

 デジタル戦略はまだやるべきことも多いですが、しっかりと実を結んでいます。たとえば私たちの公式ソーシャルメディア、TwitterやFacebook、YouTubeやLINEを通してJリーグに触れる機会が増えたと感じている方も多いはずです。デジタル技術の活用についてはJ.LEAGUE PUB Report 2017 Winter(Jリーグ パブ リポート 2017 ウィンター)で紹介しておりますので、ぜひご一読ください。

■「プレーのビッグデータ」を育成年代の競技力向上に生かす

 デジタル技術の有効活用に関しては、2015年から導入している「トラッキングシステム」も一例といえるでしょう。軍事技術として誕生した自動追尾(トラッキング)システムを使用したもので、スタジアムに複数の専用カメラを設置してピッチ全体を撮影し、選手の走行距離や走行スピード、プレーの位置やボールの動きなどのデータを現在進行形で取得し、広く配信することができます。

 プレーの「見える化」は観戦の楽しみ方の幅を広げていくはずです。高速インターネットが快適につながる環境を整備されれば、リアルタイムで「トラッキングデータ」を見ながら試合を楽しむことも可能です。

「スマートスタジアム」については、すでに第一歩を踏み出したベガルタ仙台や鹿島アントラーズのように、様々な試みで試合観戦を彩ることができます。試合前の選手バスの映像やロッカールーム内、あるいはウォーミングアップの様子を動画で配信したり、コンコースに掲示されたポスターの指定マークをアプリで読み取ると選手たちの画像が飛び出る仕掛けを施したりと、ゲーム前の楽しみが増えれば、その体験がまたスタジアムを訪れる動機づけとなるでしょう。今後は高速インターネットを通して試合後に多様なデータを見ながらファンがスタジアムで反省会を行う、といった光景が見られるかもしれません。

 私たちはJリーグの公式サイトにも掲載される「トラッキングデータ」、つまり、「プレーのビッグデータ」は一つの資産だと考えています。各試合で収集されたデジタルデータの情報とそこから得られる知見を、Jクラブのみならず、日本サッカー界全体の競技力の向上に結びつけるプロジェクトも進行させていきたいと考えています。

 鳥のような視点から蓄積されるプレーデータは、まず戦術分析に役立てられます。たとえば勝ったチームと敗れたチームの走行距離やプレーエリア、あるいはパスの方向や長さなどを比較することで、勝利の可能性は高まります。どんなプレーが得点に結びつき、どんな動きがゴールを守ったのかを「見える化」して日々のトレーニングに反映すれば、チーム力はおのずと上がっていくはずです。

 公益社団法人である私たちは、Jリーグの様々なデータを開かれたものにしたいと考えています。たとえばJリーグの選手たちのプレー傾向のデータを育成年代にフィードバックすることによって日本サッカー全体の競技力を上げていくことができるでしょう。競技力が高まればJリーグの魅力が増し、スタジアムで観戦を楽しむファンやサポーターの数も伸びていくはずです。

 データの有効化はサッカー界だけにとどまりません。Jリーガーが毎試合13キロほどを走るフィジカルをどうやって維持しているのか、適切な栄養メニューをビッグデータとしてまとめ、健康維持のためのノウハウを構築して、地域社会に生かしてもらうといったアイデアもあります。

 Jリーグのビッグデータは文字どおり大きな資産です。今後は様々な企業や大学などと連携し、デジタル技術を活用して蓄積した情報をプレーの現場と社会に発信していく意向です。そうした知見が価値として交換されれば、Jリーグ、ひいては日本サッカーはビジネス的な観点からももっと発展していくはずと信じています。

 今年は6月から7月にかけてロシアでワールドカップが開催されます。Jリーグの選手たちも世界のひのき舞台をめざし、例年以上に気迫にあふれたプレーを披露してくれるでしょう。鮮やかに映えるピッチで展開される熱い戦いをぜひスタンドで観戦し、1993年のスタートから25周年となる2018シーズンのJリーグを思いきり満喫してください。
 


\教えてくれた人/
村井満(むらい・みつる)さん
公益社団法人日本プロサッカーリーグの5代目チェアマン。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。同社執行役員やリクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任し、2008年よりJリーグ社外理事。2014年1月31日から現職。埼玉県立浦和高等学校ではサッカー部に所属し、GKとしてプレーした。世界のサッカーを初体験したのは大学時代の1979年。日本で開催され、若きディエゴ・マラドーナを擁するU-20アルゼンチン代表が優勝を果たしたFIFA U-20ワールドカップを生観戦した。

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