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【インタビュー】なぜグランパスは降格しても観客が減らなかったのか|戸村英嗣(名古屋グランパス マーケティング部係長)

2017.12.29

J2降格後も観客動員数を保ち続けた背景とは[写真]=JL/Getty Images for DAZN

 Jリーグ有数のビッグクラブにもかかわらず、名古屋グランパスはこの数年、J1リーグで中位をさまよい、そして観客動員でも伸び悩んでいた。そして2016シーズンにクラブ史上初となるJ2リーグへの降格——。

 当然ながら観客動員数のさらなる減少が懸念されていたものの、最終的にグランパスはJ2に降格した3クラブで唯一、前年度の観客動員数を上回る数字を記録した。


 マーケティング部商品企画グループ係長の戸村英嗣氏は、「J1もJ2も関係ない。ここ数年取り組んできたことの成果を出せたという実感がある」と、来場者の声と行動を分析したマーケティングに手応えを感じている。

 来年のシーズンチケット販売数とファンクラブ会員数は、すでに2017シーズンを上回る数字を達成している。生まれ変わった名古屋グランパスが、J1の舞台で最高のスタジアムを作り上げるはずだ。

■事業部も変化を求められた1年

戸村英嗣氏

戸村英嗣氏が事業部の変化を語る

——2017シーズン、名古屋グランパスはクラブ史上初となるJ2リーグを経験しました。事業部としては様々な変化があり、また試みを実施した1年だったのではないでしょうか。

戸村 まずはじめに、今シーズンは年間観客動員数「30万人」をクラブ全体の目標に設定して始動しました。カテゴリーがJ1からJ2に変わることで、観客動員数が2割から3割減ると、J2に降格した他クラブのデータから出ています。2016シーズンの観客動員数が約31万人だったことを考えると、目標を達成するためには多くの変化が必要でした。

——具体的にどのような変化があったのでしょうか?

戸村 割引クーポンや無料招待など、動員を増やすために多くの施策を実施しました。チケット収入の単価が下がることも、2017シーズンは覚悟した上で、「スタジアムに足を運んでもらうこと」を第一としたことが最も大きな変化だったと思います。また、データベースの有効活用も変化の一つですね。2015年に運用を開始するまでは来場するお客さまの層を捉えきれていないところがあったのですが、データベースをもとにそれぞれのターゲットに対して効果的なアプローチができるようになりました。お客さまを来場回数でカテゴライズし、それぞれの層に応じたメールマガジンを配信したり、チケットの割引をすることで満足度が上がり、来場者の増加につながっています。

——5月3日の京都サンガF.C.戦では、ホーム戦歴代2位となる36,755人が来場しました。

戸村 京都戦では『グランパスワンダーランド〜ファミリーでひとつになる幸せ〜』というイベントを行いました。もちろん、試合自体を楽しんでもらいたいという想いもある一方で、クラブとしてはサッカー以外のところでの楽しさや魅力、いわゆる『マッチデーエクスペリエンス』を提供していきたいと考えています。今でこそスマートフォンを中心としてデジタル化が進んでいますが、スタジアムでの実体験という、ある意味アナログ的な楽しみ方の価値も大切にしたい。私自身もそうなんですけど、子供の頃の思い出ってなかなか消えないものじゃないですか。クラブとしてメインターゲットとしている小学生、そして来場者において最も大きな割合を占めている40代前後の親御さまにアプローチする狙いもあって、このイベントでは小中学生1万人を無料招待する施策も実施しています。残念ながら4万人動員という目標には届きませんでしたが、クラブの施策として豊田スタジアムでのホーム戦歴代2位の動員を達成できたことは自信になりましたね。

名古屋サポーター

京都戦ではファミリー向けのイベントを実施。多くの家族がスタジアムへ足を運んだ [写真]=N.G.E.

——事業部として実施した施策のほか、チーム体制が大きく変わったことも観客動員に影響があったのでしょうか?

戸村 そうですね。特に今シーズンは選手が本当に多くの企画やイベントに参加してくれて、集客において大きな影響がありました。例えば、実際に企業を選手が訪問することで、訪問先の社員の方にとって名古屋グランパスを身近に感じていただけたのではないかと思います。実際に法人の団体チケットの売上も伸びており、観客動員数増加の一因となっています。

——2017シーズンは、結果的にJ2トップとなる322,672人の観客動員を記録しました。

戸村 正直、当初は不安もあったのですが、シーズンを通して各試合やイベントを盛り上げる施策を継続的に行いましたし、チームとしても見ていて楽しいサッカーを披露できていたので、手応えもありました。そして何より、ファン、サポーターの皆さまの協力があってこその結果です。J2降格という悔しい経験を経て、特に今シーズンは「絶対に1年でJ1に復帰する」という熱い想いを強く感じた1年でしたね。ホーム、アウェイ問わず多くの方々が応援してくださいましたし、スタジアムの雰囲気、チームとの一体感もこれまでに味わったことのないようなものでした。

名古屋グランパス

スタジアムには老若男女が集まる [写真]=JL/Getty Images for DAZN

——すでに2018シーズンチケットの販売がスタートしていますね。

戸村 シーズンチケットは前年同時期比で136パーセントと販売開始直後から好調です。グランパスは2つのスタジアムを使用していますが、それぞれ環境が全然違うんです。そのため今までのシーズンチケットでは、例えばカテゴリー2の席種を購入していても、2つのスタジアムで座る位置が大幅に変わっていました。その問題点を解決するために、お客さまがスタジアムごとにカテゴリーを選択できるシーズンチケットを用意しています。また、お客さまの要望とスタジアムの特性を考慮して、パロマ瑞穂スタジアム、豊田スタジアムともに新しい価格帯の席種を設けました。

——ファンクラブでもキッズコースを新設するなど、変化が見られます。

戸村 2015シーズンまでは3,000円の1コースしかありませんでしたが、お客さまのニーズや期待に応えるために、2016シーズンからプラチナ、ゴールド、レギュラー、ルーキーと、価格や特典の異なる4コースから選択できるように改定しました。クラブに対する楽しみ方はお客さまそれぞれで違い、例えばユニフォームを着てゴール裏で楽しみたい人もいれば、サイン会や写真撮影会に参加するなど選手と触れ合いたいという人もいます。2018シーズンから新たにキッズコースを設けることで、よりお客さまのニーズに応えられる形になったと思っています。実際にファンクラブの会員数は前年度比で2016シーズンが120パーセント増、2017シーズンは112パーセント増と順調に伸びています。2018シーズンの会員数もすでに今季の会員数を超えるほどの勢いです。

——来シーズンは戦いの場をJ1の舞台に戻します。改めて今後の抱負をお聞かせください。

戸村 今年1年をかけて作り上げてきた一体感や雰囲気を、毎試合ホームで作り出したいと思います。数字で言うと、年間動員数で38万人を目指しています。非常に難しいミッションではありますが、目標を高く設定しなければ達成できないこともありますからね。具体的な施策は現在検討中ですが、皆さまが楽しかったと思えるような企画を来シーズンも発信していきますので、ぜひスタジアムに足を運んで、体感していただきたいです。

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