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【ライターコラムfrom金沢】J2残留とチームの土台作りに成功…二兎を追い二兎を得た2017年に

J2で3年目のシーズンは17位で終えた [写真]=J.LEAGUE

 ツエーゲン金沢は、明治安田生命J2リーグ3年目のシーズンを13勝10分け19敗、17位の成績で終えた。5年間チームを率いた森下仁之監督が昨季限りで退任。クラブは柳下正明監督を招聘し、「中長期的にしっかりJ1を目指すチーム作り」(西川圭史代表取締役GM)を託した。今季に臨むにあたり具体的な順位や勝ち点目標は掲げなかったが、J2残留が至上命題であることはクラブ、チームの共通認識。柳下監督の下、チームの土台を作り、新たな金沢スタイルを構築することが重要なテーマであり、それをJ2残留と両立させられるかがポイントだった。自分たちからアクションを起こし、ボールを奪って攻撃する。柳下監督が目指すアクションサッカーを、選手たちが体で覚える一年となった。

 結論から言えば、金沢は二兎を追い、二兎を得た。残留争いに巻き込まれたものの、リーグ戦を3試合残して残留を決めた。GWの4連敗、夏場の10戦勝ちなしなど白星が遠のく期間もあったが、時間とともにチームが成熟すると、向上したゲーム内容が勝ち点に結びついた。柳下監督は今季の結果について「勝てない時期というのは、別に内容はそんなに悪くない。良くなってきていたけど勝ち点を取りきれなかった。あの辺を考えると、もうちょっと勝ち点を取れて順位も上に行けたのかなということは考えられる。でも、シーズンはじめのことを考えると順調にきている」と話す。そして「守備に時間がかかった。守備といっても普通、当たり前のことだとオレは思っているけど、それができていなくて、修正にちょっと時間がかかっているなと。でも、それがある程度クリアされたあと、必然的に攻撃の方も少し良くなった。一年を通して考えたら、攻守ともに自分がやろうとしていることを選手たちが理解できた」と、監督就任初年度を振り返る。

柳下正明

今季から指揮を執る柳下正明監督 [写真]=J.LEAGUE

 まずは「シーズンはじめのこと」から紐解きたい。オフの監督交代によって、金沢のサッカーは様変わりした。金沢は昨季までゾーンディフェンスをベースに戦っており、ボールと味方の位置を基準に選手のポジショニングが決まっていた。ゾーンディフェンスにおいて、人の動きに釣られてスペースを空けるのは御法度で、チーム全体が連動して誘い込むイメージでボールを奪っていた。

 今季は人をしっかりマークすることが求められたが、昨季とは180度異なる守備方法がすぐに浸透するわけもない。第2節の水戸ホーリーホック戦では、かなり崩されてしまい0-4の敗戦を喫した。「個人的なところもあるけど、チームになっていなかった。だから、これはもう守備をしっかりやっていかないといけないなと」(柳下監督)。「スペースはシュートを打たない。シュートを打つのは人!」。選手たちにマーキングの意識が乏しいと見た柳下監督は、とにかく人に付くことを叩き込む。まずは守備の基本を徹底してから次のステップへ、というロードマップだったため、序盤は縦に速いシンプルな攻撃が主体だった。

 試合でも誰が誰をマークするのかをハッキリさせたマンツーマン色の濃い守備を行い、ハマれば良い守備から良い攻撃につながったが、そのデメリットもあった。人に付いていた選手が剥がされると、その時点からズレが生まれ、そこから芋づる式に剥がされてしまう。人に付いていくということは、こちらの守備陣形は攻撃側の立ち位置によって制御されることになり、各々が人に引っ張られた結果、危険なエリアにポッカリと穴が空くこともあった。攻撃に切り替わった瞬間も互いの距離感が遠いため、うまくパスがつながらない。ただ、100パーセント守れる、失点しない守備方法は存在しない。危ない場面を作られるリスクは承知の上でマーキングの意識を高めた。

 選手たちも懸命にトライし続け、いよいよ第二段階へ。トレーニングでは、ボールサイドで同数を作る守備とボールを保持することに取り組んだ。コンパクトに守備陣形をセットした状態から、ボールの位置を基準に全体がスライドして、ボール周辺の人を捕まえる守備に移行した。コンパクトを保てれば、攻撃に移った際も近い距離に味方がいるためサポートしやすい利点がある。

 また、攻撃面でも柳下監督による意識付けが続いた。守備と同様に、細かいコーチングが何度も繰り返された。特にクロスに対するゴール前への入り方は徹底されており、その迫力は昨季との違いだろう。12ゴール5アシストを記録した10番の中美慶哉は「攻守においていろいろと学ぶことができた」と話し、「もともとは中盤でドリブルをするのが好き。でも、やっぱり最終的にはいかに相手のゴール前に入っていけるか。そこへの飛び出しや背後へのランニングは、自分が今までやってこなかったことだった。クロスへの入り方やランニング、足元ばかりではなく、前に前に走っていくことが一番身に付いた」という。

中美慶哉

中美は得点でチームを牽引した [写真]=J.LEAGUE

 トレーニングでの頻出ワードは「寄る、離れる」。寄るは味方のボールホルダーに寄る動き、離れるはボールホルダーから離れる動きでスペースに出ていくという意味。そうすることでパスコースを確保する。その他には「右、左、前にパスコースを作る」、「(パスを)出して動く」、「自分より良い状況、前向きの選手を使う」、「ボールスピード、ランニングスピードを変えてテンポを変える」、「ボールホルダーが良い状況なら追い越して2対1を作る」など。小難しいことよりも、基本に忠実な指示が目立った。

 ほとんどメンバーを固定して試合をこなす中で、新たなスタイルがチームに浸透し、次第に連携も深まり、チームの形が出来上がる。10戦勝ちなしを脱出した第33節の名古屋グランパス戦以降は5勝4分け1敗。目に見えて失点が減り、コンスタントに得点を挙げ、7戦負けなしでシーズンを締めくくった。16ゴールを記録したエース佐藤洸一、幾度となく好守を披露したGK白井裕人の活躍はもちろん大きいが、それだけではない。実戦経験を積んだ若手の成長もひとつの要因に挙げられるが、既存戦力の成長も見逃せない。「動きの質、プレーの質の部分では、少しずつ自分も成長していると思う。ヤンツーさん(柳下監督)のサッカーが体に染み付いてきている」(山﨑雅人)。

 センターバックの作田裕次は新戦力にポジションを明け渡す時期もあったが、巡ってきたチャンスを逃さず定位置奪還に成功。守備陣に不足していた声の要素をもたらすだけでなく、スタメン再定着後は安定した守備を披露した。終盤に右サイドハーフとして先発した金子昌広は「プレーの幅が広がった」という。持ち前のスピードを活かしたフリーランニングが増え、プレーの強度や連続性が向上したことが評価されていた。金沢にはフリーランニングをする選手が多いものの、まだそれを最大限に生かしきれていない。動き出した選手を使う、動き出しによって生まれたスペースを使う。出し手と受け手両方の問題ではあるが、パサー不在の影響は否めない。クラブは、ボールを捌きながらラストパスが出せるタイプのボランチを補強する方針だ。

 残留とチームの土台作りというノルマは達成したが、17位という結果を手放しでは喜べない。「シーズン前に選手層を見て、昨年のチームとの比較を考えたときに、良くて15位、場合によっては去年のように残留争いするような思いでいました。終盤残り7試合を4勝3分けで乗り切ったことが、17位まで順位を上げたことにつながる。そこがなければ本当にどうなっていたか分からない。シーズンを通して10試合勝ちがなかったり、4連敗したり3連敗したり連敗が多かった。トータルで19回負けている。ここは来年なんとか改善していかないと、来年も今年と同じように途中で苦しい時期を迎えると思う。終盤はなんとかチームが安定して戦えるようになって、失点も非常に減りました。こういう戦いがシーズンの最初からやれれば、もっともっと上を目指せると思う」(和田昌裕強化・アカデミー本部長)。

 もっと上を目指すためには、特に攻撃面での進化が不可欠。精度を上げ、縦横、緩急を使い分ける判断を磨かねばならない。柳下体制2年目の来季は今季からの継続性を持って戦えるはずだ。「22チーム中、現実的なことを考えたら真ん中にはいきたい。22チームだから11位とか、あるいは一桁(順位)くらいが現実的な目標になるよね。いきなり優勝とか、トップ3は無理。真ん中あるいは一桁を狙いながら、良い選手が入ってきた、良い状態になった、選手が成長したとなり、6位までに入れた、というのは良いよね」(柳下監督)。

 J2で4年目の2018シーズンは、残留だけでは到底満足できないだろう。J1昇格は中長期的な目標とはいえ、J1昇格プレーオフ圏内を射程に捉えることで”J1への可能性”を示したいところだ。

文=野中拓也


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