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【ライターコラムfrom広島】GK大国の正当後継者に…18歳・大迫敬介の武器は“天性の笑顔”

2017.10.13

広島に所属する大迫 [写真]=Getty Images

 まだ1試合も公式戦には出ていない。それどころか、ベンチ入りも果たしていない。しかし、サンフレッチェ広島には確実に存在している。「きっと、彼が守護神となる。それも、そう遠くない未来に」。18歳のGK大迫敬介のスケールに触れた時、誰もがそう感じてしまう。

 もちろん、魅力は能力の高さだ。年代別代表の常連であり、今年のFIFA U-20ワールドカップ韓国2017に飛び級で選ばれる可能性は十分にあった。185センチ・82キロという肉体以上にピッチでは大きく見える。抜群の反射神経で至近距離からのシュートを弾き飛ばす。彼のスーパーセーブは、広島ユースの試合でもはや日常である。だからこそクラブは「より高いレベルでトレーニングしてほしい」と今年3月31日、大迫とプロ契約を結んだ。ユースが主戦場になるが、練習はプロと同じピッチで日常的に行う。高校生よりもはるかにレベルが高く、強くてテクニカルなシュートを受け続けることで、成長を促進させることが狙いだ。クラブの彼に対する期待の大きさがよくわかる。


 当初はさすがに、プロのスピードに戸惑いを見せていた大迫だった。しかし、ほどなくして堂々としたプレーをピッチの中で見せ始める。ブラジル人FWパトリックの迫力に満ちたシュートにも、ブラジル人MFフェリペ・シウバの技巧にも、MF柏好文のスピードにも、大迫は必死に食らいついていった。

「今はようやく、スピードや駆け引きへの対応、そして守るために必要な情報を集めることも、なんとか(周りに)ついていけるようになりました」。少年は満面の笑みを浮かべて語った。その笑顔こそ、彼の武器である。

 サッカー選手にとって、笑顔や怒った顔に何の意味があるのか。そう思うむきもあるかもしれない。だが、大迫の場合は素晴らしい武器である。同郷の英雄・西郷隆盛の持つ「大らかな器の巨大さ」を感じさせる少年は、どんな苦境に立っても声を出す。柔らかな表情でチームを鼓舞する。辛い状況にあったとしても、チームメイトはそんな大迫の佇まいを見て、気持ちを切り替えて前に向かう。そう感じさせたシーンを何度も見た。

「コーチングは得意ですね。自分の声で味方を動かしていきたい。自分が喋ることで、試合の流れをつくっていきたい」声というのは、特にGKにとって大きな武器である。「後の声は天の声」とはサッカー界の格言。フィールドプレーヤーのポジションを俯瞰できるGKが的確な声を出して味方を動かし、敵の情報を伝えていくことは、守護神としての大きな役割である。ただ、大迫がやっているのはそれだけではない。選手に勇気を与える。安心感を伝える。「後ろにあいつがいるから大丈夫だ」。そんな気持ちをフィールドプレーヤーに与える。そのための大きな武器が、彼の大らかな表情であり笑顔である。これはまさに天性。誰もが持ち得るものではない。

大迫

天性の才能を持ち合わせる大迫 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS


 10月12日、日本サッカー協会は森保一前広島監督の2020年東京オリンピック日本代表監督就任を発表した。東京五輪はまさに大迫の世代。「自分の成長のためにもぜひ出場したい」と語る指揮官の就任は、プレースタイルをよく知ってもらっている大迫にとっても喜びだ。

「森保監督にはずっと(自分のプレーを)見てもらっていました。自分が成長した姿をぜひ見ていただきたい。僕の上の世代にも年下にも良いGKはたくさんいる。何一つ確定したものはないけれど、(森保監督のチームで)ずっとゴールマウスを守っていきたいから」

 そのためのステップは、11月4日からモンゴルで始まるAFC U-19選手権2018予選だ。U-18日本代表で臨むこの予選をまず通過し、翌年の本大会で勝利。そして、2019年に開催されるU-20W杯(開催地未定)出場を目指す。それと同時に、広島でのポジション争いを制し、明治安田生命Jリーグの舞台で活躍すること。それが2020年につながっていくことを、彼はよくわかっている。

「U-18日本代表は先日のカタール遠征で結果を出せなかった。チームとして4試合中1度も無失点試合を記録できず、結果も3位。課題がたくさん出てきたと思っています。予選は簡単ではない。でもU-20W杯は東京五輪につなげる意味でも、絶対に出ないといけない。(代表に選ばれれば)危機感を持って戦いたい。もちろん、プロのピッチにはできるだけ早く立ちたいです。今も、自分が出たらどうしいうプレーをやるかっていうことは、よく考えるんです。試合を見ながら、自分のプレーをシミュレーションしてイメージを膨らませています」。

 シュートストップやビルドアップ、キックの精度など、モダンなGKとしての資質を全て備えている。まだプロのクロスに対する対応は慣れないと言っているが、つねに最後まで練習場に残り、ボールを受けて泥にまみれている大迫の努力を考えれば、クロス対応を自分のモノにするのは時間の問題だろう。そして彼だけが持ちうる大らかな雰囲気が、プレーの成長と共に大きなアドバンテージとなる。

「苦しい時も声を出し続け、小手先ではなく身体全体で守るGKになってほしい」。広島ユースの恩師・沢田謙太郎氏のメッセージ通りに大迫が成長すれば、前川和也・下田崇・西川周作・林卓人・中林洋次らが受け継いできた「GK王国・広島」の伝統は、現代に蘇った「西郷どん」に受け継がれることだろう。

 そういえば、来年のNHK大河ドラマの主役は、西郷隆盛。時代は、薩摩隼人である。

文=紫熊倶楽部 中野和也

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