2017.09.27

【ライターコラムfrom甲府】“負けられない一戦”で本拠地デビュー…ルーキー小出悠太を抜擢した理由とは

小出悠太
横浜FM戦で先発に抜擢された [写真]=J.LEAGUE
サッカーはもちろん、バスケや野球、ラグビーにも精通する“球技ライター”。

 降格圏内に沈むクラブにとって、負けられない一戦で右ウイングバックに起用されたのはルーキーだった。甲府は9月23日の明治安田生命J1リーグ第27節・横浜F・マリノス戦で橋爪勇樹が出場停止になっていた。そこで吉田達磨監督が先発に抜擢したのは、ベテランの松橋優でなく、明治大から加入した小出悠太。リーグ戦出場は横浜FM戦が3試合目で、しかも小瀬でのプレーは初めてだった。

 小出は市立船橋高、明治大と主にセンターバックでプレーしており、甲府でも3バックの一角としてやるのだろうと周囲は思っていた。J1のレベルで見ればスピード、技術が売りになると思えず、強みは対人守備。そんな彼をサイドに配置することはイレギュラーにも思えたが、吉田監督には狙いがあった。

「小出はまずアグレッシブですよね。スピードが別にあるわけじゃないけれど、彼はここで行って欲しいというところで行く。ここで止めて欲しいというところで身体を張って止める。そういう勝負の肝をいつも抑えている」

 もちろん「センターバックをやるにはまだちょっと真ん中の駆け引きが弱く、ボールをスムーズに持ち出せないということがある」(吉田監督)という課題もあるのだが、彼の思い切りがサイドで活きる、チームを活性化させるという狙いが起用の背景にあった。

 そんな『アグレッシブさ』を活かしたのが横浜FM戦の1点目。彼は右サイドにこぼれたボールへ鋭く踏み込み、スライディングで先手を取った。そのボールがドゥドゥに入ったことで、カウンター攻撃が始まる。良い奪い方が良い攻撃につながるという典型例だった。

 小出はこう振り返る。「中途半端な位置で行こうか迷ったんですけれど、スライディングでカットしようと決めた。相手選手もそんな近くなかったし、ボールもとこっちに流れて来ていたので、思い切って行った」

 競り合いに負ければ大きなスペースが空いてしまうリスクもあるプレーだった。しかし『勝負の肝』となる場面で思い切ったプレーを選択し、なおかつ成功できるところに彼の価値があるのだろう。

試合はドゥドゥとリンスの活躍で甲府が勝利 [写真]=JL/Getty Images for DAZN

 横浜FM戦に限れば、甲府のカウンターはドゥドゥとリンスの2トップで完結することが多かった。ただそんな中でも小出は右サイドから忠実に駆け上がっていた。

「しっかり自分が前に出て、2トップの選手がボールを持ったときは追い抜いていこうと思っていた。使われる使われないは別にして、自分が走ることでドゥドゥ選手やリンスが少しは楽になる。無駄走りでもいいので走ろうと思ってやりました」

 また小出は本来の強みである守備も強みを見せた。横浜FMは齋藤学と山中亮輔の2枚がいい連携でサイドを崩してくる。小出はかなり前に踏み込んでボールをチャレンジし、この二人の関係を寸断した。

 彼も「齋藤選手がボールを持っているときにサイドバックが回ってくるところの対応、齋藤選手のカットインの対応は(新里)亮くんの助けもあって、手応えを持ってプレーできた」と胸を張る。

 一方で横浜FMがサイドMFをスイッチし、マルティノスが左サイドでプレーした時間帯に得点につながるクロスを許してしまった。

 小出はこう反省していた。「マルティノスが自分のサイドに来たときに、相手のプレースタイルに応じた距離、ポジショニングを上手く取れず抜かれてクロスを上げられた。トップレベルの選手のスピード感に慣れていなくてやられてしまった。この経験を活かして次は止めたい」

課題はあるものの、中銀スタ白星デビューを飾った [写真]=J.LEAGUE

 大学2年の秋にチームのレギュラーになると、2年後には日本代表まで上り詰めていた明治大の先輩・長友佑都のような例外はいる。しかし一般的に考えれば、若手の成長には時間と我慢が必要だ。小出は市船、明大と1年から試合に絡み、高校サッカー選手権、関東大学リーグの優勝を経験している『エリート』だが、プロの世界は次元が違う。

 小出も甲府へ加入したものの、紅白戦の控え組にすら入れない時期があった。横浜FM戦の活躍は渋く地味なものだが、プロのハードルを一つクリアした証明になる。小出も「試合に出られていない時期に何ができるかが改めて大事なんだなと思った」と口にする。

 彼が甲府のレギュラーとして定着するためには、まだ越えなければいけないハードルが残っている。細かい詰め、質を求めればそれこそキリがない。ただ横浜FM戦で小出が見せたプレーは攻守にアグレッシブで、地道な積み上げを感じ取れるものだった。

文=大島和人

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